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映画 「マリー・アントワネットに別れをつげて」(2012年公開)

個人的所感によるあらすじ

1789年のフランス。王侯貴族を打倒しようとする革命勢力の勝利は目前で、
王妃マリー・アントワネットの名もギロチンのリストにあった。
アントワネットに心酔する朗読係のシドニーは王妃に忠誠を誓うが、アントワネットは愛するポリニャック夫人の身代わりになるようシドニーに命令を下す。

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ちょっとネタバレな感想

バスチーユが陥落した7月14日からのたった三日間の物語。

ベルサイユやアントワネットというと、日本ではやっぱり「ベルサイユの薔薇」のイメージが強いのではないかと思う。
りりしい男装の麗人ときらびやかな宮殿、可憐なフランス王妃と異国の貴族との秘められた恋。

アントワネットの朗読係として仕えるシドニーの視点で描かれるこの作品は、それとは異なり、一見華やかな宮殿の裏側でうごめく人々をあからさまに描く。王妃の寵愛するポリニャック夫人に対しての噂話、当時の使用人たちの質素な生活、思いつきで下される貴族たちの要望に振り回される付き人たち。
ぬるま湯に慣れきって、表舞台でなくても宮殿を出ていけない貴族の成れの果ては、まるでシドニーの腕に群がるノミのようである。

王妃に心酔するシドニーの、いじらしさと危うさ、
美しく奔放な女友達に恋するアントワネットの、世間知らずさとイノセントな残酷さと魅力。
そして自分の欲望と役割と引き際を、見事に心得ている"悪女”ポリニャック夫人。

バスチーユ陥落という歴史の大事件の裏で、そんな三人の愛が描かれる本作。
確かにそういう感情もあったかもしれないと思いつつ、たぶんこれは彼女たちの恋愛話ではなく、様々に囚われた人々がその枠を取り払われた時に出会う喪失の物語なのだと思う。

ベルサイユ宮殿という特殊で隔離された世界で、栄華を極める孤独で美しく若い王妃。彼女の信頼をかの女性のように得れば、孤独と不安からは解放される。
(映画最後にもシドニーが天涯孤独で孤児院出身であるということがさりげなく出てくる。)

たぶん、彼女はポリニャック夫人になりたかった。
身代わりであっても、恋した王妃の願いを叶えるというそのことによって、
それまでの想いが報われると信じたから。

けれども身代わりは身代わりであり、最後までアントワネットは彼女を見ることはなかった。
だからこそ「世界で一番残酷な片思い」なのだ。

若い恋は、人生でさえも変えてしまうことがある。それは栄華を極めたアントワネットでさえ、同じこと。
ラストのシドニーの笑顔は、彼女としては叶うはずの夢が砕け散った瞬間だったのかもしれない。そう、愛する人に別れをつげるための。

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