見出し画像

映画 「BOY A」(2008年公開)

個人的所感によるあらすじ

24歳のジャックは、子供の頃に犯した犯罪により少年院に入れられ、14年間の刑期を終え再び外の世界へ出ようとしていた。ソーシャルワーカーのテリーから仕事とアパートが与えられ、彼は過去を隠し、名前も変え新しい生活を始める。運送業の会社に就職した彼は、同世代の青年クリスとコンビを組み、ミシェルという気になる女性もできる。
同世代の友人、初めての恋・・・だんだんと人間らしい生活を取り戻していくジャックだが、ある事故現場で子供の命を救ったことから少しずつなにかが狂いだして・・・・。

画像1

ちょっとネタバレな感想

せつない、というだけでは語りきれない映画だ。
自分がこの立場だったら、ソーシャルワーカーの立場だったら、その家族だったら、周囲の人間だったら、疑問は絶え間なく吐き出される。

少年犯罪で服役し刑期を終えて出所した青年、そういう過去を背負う人物が身近にいることを知った時、人はどのような反応を示すのか。
犯罪に至った経緯の”真実”を理解しようと思えるのか、それとも”事実”といううねりに巻き込まれるのか。

その答えはたぶん、直視できないものであるかもしれない。
罪が存在する限り、その責を負う存在を人は求めるものだから。

隠していた過去を知らされてジャックを責めるクリスの本当の思いは、もしかして過去に犯した罪ではなく、信頼を裏切られたという孤独感、からではなかったろうか。
そして、もしもそうなら、ジャックは少しは救われないだろうか。

消して抗えないものが、そこには大きく横たわっていたとしても。


主演のジャックを務めるアンドリュー・ガーフィールドが文句なしに素晴らしい。
目は心の鏡とよく言うが、目には心だけでなくすべてのものが現れる。その人の人生や抱えてきたもの、足りないもの、過多なもの。彼の挙動不審で自信無げな視線、思いつめた表情はまさに24年の人生のほとんどを偏ったまま過ごしてきたジャックでしかない。
また、テリーを演じる名優ピーター・ミュランのさすがの演技もさることながら、ジャックの思い人を演じる白鯨ことミシェル役のケイティ・リオンズが秀悦。
太目の体にけして絶世の美女というわけではない「色が白くて大きい、白鯨みたいな」彼女が、最後の方ではまさに女神のように神々しい。
単なるステレオタイプになりそうな役柄を、そこまで押し上げた演技力に素直に拍手を送りたい。

無駄のない構成、丁寧につづられるエピソード、卓越した演技力。
ジョナサン・トライゲルの同名小説を映画化した本作は、本国イギリスではBAFTA主要4賞を獲得したらしいが、確かにブリティッシュ・インディーズの傑作だと思う。ただし、ひたすら重い。つぶされそうなほどに。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?