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映画「大停電の夜に」(2005年公開)

個人的所感によるあらすじ

12月24日、クリスマスイヴ。
かつての恋人を待ち続けるバーのマスターと、彼を見つめるキャンドルショップの女店主。
妻と浮気相手との間で揺れ動く会社員は、死期のせまった父親に自分の出生をうち明けられていた。
昔の恋人への思いに揺れる若い妻。
不倫に苦しむ女は未来のない関係に疲れて、彼の携帯にメッセージを残す。
出所したやくざは自分の過去を悔い改め、そして彼のかつての恋人は出産間近の妊婦。
遠い上海の恋人に思いを馳せる中国人研修生。
天体マニアの少年は飛び降り自殺をしようとする少女を見つけ、人気絶頂のモデルは病気にかかり、未来への希望を失い立ちすくんでいる。
秘密を抱える老婦人と、妻の秘密を知ってうろたえる老紳士。

それぞれの事情を抱えた人々が聖なる夜を迎えようとしていたとき、街から光が消え、すべてが暗闇に沈んだ。「午後五時過ぎ、首都圏全域が停電に見舞われました・・・・。」


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ちょっとネタバレな感想

冒頭の北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)の「サンタ追跡作戦」はかえって余計な気もするが(笑)、見終わってどこか幸せな気分になるおとぎ話。それぞれが事情を抱え、けしていい人間ばかりではないのに、”悪い人間”は一人も出てこないせいかもしれない。

出てくる彼ら彼女たちは、どこにでもいるようで、どこか現実離れした存在だが、それが不思議と不快感にならない。東京中が真っ暗という、それこそ”おとぎ話”の舞台設定のせいかもしれない。見えない糸に導かれるように、会うはずのない人間が巡り会ったことにすら気がつかずに出会い、そして離れていく。現実にはあり得ないはずなのに、それも悪くないような、あり得るような気がしてくるから不思議だ。

やたらとリアルな存在感を放っていたのが、井川遙演じる不倫中のOL。不倫相手と別れ、泣きながら乗ったエレベーターの中に停電のために閉じこめられる。そんな中で泣きやんだ彼女は、状況を把握した後に携帯電話を取り出し、その明かりを頼りに暗闇の中で”まず”化粧直しを始めるのだ。

男性には分からない感覚かもしれなが、女性ならこれはやる。ぐちゃぐちゃに泣いた後なら絶対に。女性にとって、非常事態なんていうのは身支度の後に対処するものなのだ。

彼女が助け出された後に言う「とにかくお風呂に入って今日は寝る」というのも秀逸。一人で生きることが長くなってしまった人間ならば非常に納得できるセリフだと思う。

細かい描写はさておき、全体的にはご都合主義でやりすぎの感は否めない。しかし、そんなあり得ない状況であり得ない相手と出会い、癒されて心のうちの大事なことに気づく。それはとても些細な出来事で、彼ら彼女らの人生にはほんの一瞬かもしれないけれど、もし本当に存在したなら、それは確かに運命なのだろう。

そんなことが、もしかしてあるのかもしれない。
それがクリスマスの夜ならなおさら、現実の私たちもささやかに夢見る。


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