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ライブでよくある「いま目が合った!」が、気のせいではなかった話。

それは、こっぴどくフラれてから2週間後のライブだった。高校生女子にとって、人生初の告白が、とりつく島もない結果に終わったのは相当な打撃だった。

自分はとんでもない勘違い野郎だったということになる。告白なんて、多少のうぬぼれがないとできないものだ。

というか、大人になってからこの話をすると、恋愛体質な女子ほど、生まれてこのかた告白なんてしたことがないと言う。告白はするもんじゃなくて、させるものなんだと! (驚)     告白を、自らしにいってる時点でないわー。らしい。そ、そうなのか。え、させるって、どうやって。。。

想いが率直に顔に出てしまっているらしいわたしは、自分では巧妙に隠しているつもりの気持ちも、周りから見るとバレバレらしい。

思ってもいないことを言おうとすると、顔がへんになる。楽しくて嬉しくてたまらないひとときには、口がずっと三角∇になっていることにあとから気づく。

妙に嬉しそうな顔をしている。

記念すべきUNICORNの初ライブを、なんと1列目!!で浴びる幸運に恵まれた中学のとき、「妙に嬉しそうな顔をしている、それも嬉しい」 そう笑う民生さんのMCにハッとしたことがある。

ちょうど、また口ずっと三角だったわ…と自分で気づいて、はむっと口を閉じた直後のことだった。妙に嬉しそうな顔してるって、わわわたしのこと?!?!と盛り上がった。でも、人に話せば気のせいとか勘違いとかで片付けられる。いま目が合った!絶対アタシのこと見た!!ってゆー、よくあるやつといっしょだ。まあ、そうだ。だいたいそうだ。勘違いは、この頃から得意だった。

それが、だ。

冒頭の通り、それまでの人生で最大の勘違いをしでかしてから2週間後の、キャパ400程度のライブで。

失恋の痛手をいっときでも忘れるにはライブはもってこいすぎて、いつも以上に全身かつ心の底から音にまみれたら、いつのまにか前から2列目くらいの場所にいた。もちろん、好きなバンドの待望のライブだったし、バンドの調子もかなり良い感じで、空間も大盛り上がり。失恋のことなど思い出す隙もなく、最高のライブをただただ楽しんでいた。

のだが、ふと顔を上げてボーカルを見ると、ん?目が、合う。

頭ふって騒いで、またふとボーカルを見ると、ん??また目が合う…?

出た、得意の勘違い!気のせい!  そう思いながらも、いや、やっぱコレ絶対目合ってんな!合ってるって! 自分がそう思うからそれでいい! あ、また口三角になってたな、きっと! ま、そのカオで、今が最高に楽しいってことをステージに伝えよう!!

そんなことを思いながら、ガッツガツに楽しんで、大満足のひとときは終わり。ともに参戦した友人と、しばしゆっくりすべく馴染みの店へ連れてってもらった先に、これが、ものごついラッキーが待っていたのだ。。。!!


あれ?ライブにいたよね? 前のほうに、いたよね。

恐らく、失恋のご慈悲なのだと思う。あまりにもわたしを哀れに思った神様からの。

その店は、友人が馴染みの、カウンターのみの小さな店。お腹も満たし、すでに店内でまったりとしていたわたしたち。そこにだ。なんと。現れたのだ、メンバーが!!

ドヤドヤ足音がして、ガヤガヤなんだか大勢来たなと思ったら。。。そんなことがあるか?! 目玉がグイーンと前に飛び出し、アゴがガツーンと床に落ちた。

どうやらメンバーたち一行のなかに、お店の人の友達がいるらしく。瞬く間に満員になった小さな店は、みんな仲間みたいなノリに包まれ始め、なんだかご機嫌なボーカルはカウンターの中に立ってワイワイし始めた。な、なんだこれは。。。さっきまでステージにいたボーカルが、すぐ目の前に、同じ目線に、いる。。。ゴクッ。

これはダメだ。多分、ファンですとか言っちゃダメなやつだ。あくまで平静を、平静を装って。。。!と、友人とも暗黙の了解を交わし、最大限でき得る限りの、なに~?この楽しげなお兄さん~?ふふふー、的なカンジの風情を演出するに努めた。いやしかし、この信じられない空間、めちゃめちゃ緊張する!!そして、そして、猛烈に嬉しい。。!!

その想いがはみ出ていたのだろう。恐らくだ。努力では抑え込めない嬉しさが、三角の口になっていたのだろう。ふと、こちらに視線を向けたボーカルと目が合った。と、彼は嬉々として叫んだ。

「あれっ?!なんか見たことある! あーっ!ライブ来てたよね?!」

!!!!!

「前のほうにいたよね?!」

!!!!!!!!!!!!!!!


気のせいではなかった。気のせいではなかった・・・!!!

あのライブ中、幾度と思った「目が合った」は、気のせいではなかったんだ・・・!!!(感涙)
爆発しそうな嬉しさを懸命に懸命に落ち着かせて、おずおずと聞いてみる。
「あの~・・ステージから客席って、結構見えてるものですか・・?」
「ああー、そうだね、前のほうとか。俺は結構見てるかな、っていうか見えるから。なあ?見えるよなあ」そうボーカルはドラムへ投げる。するとドラムは「いやあ、俺は見えないね!叩くのに一生懸命だからね!」。じゃあボーカルは一生懸命やってないんだなってことになって、店内みんなで爆笑。すごくいい!この雰囲気、すごくいい!!わたし、こんな夢みたいな空間にいていいのか?!?!

途端になんだか今が全く現実ではない気がしてきて、わたしはトイレに行こうと決めた。確認だ。今をいったん確認しよう。実際トイレには行きたかったのだが、幸せ過ぎて席を立てなかった。店の外にあるのだ、トイレは。
この幸福空間の扉を開けて一歩外に出てしまえば、もうここには戻れないかもしれない。夢から覚めてしまうかもしれない。魔法は解けてしまうかもしれない。
が。意を決して席を立ち、わたしは一目散に目的地へ!


なんか・・いきなり現実。
トイレの冷たい明かりの下で、鏡に映った自分の顔をまじまじと見つめる。すぐそこに、バンドのメンバーがいるんだよなあ・・・。わたしはそこに、また戻ってもいいんだよね・・・?
店のドア越しに、そっと中の笑い声を聞いたりして、わざと緊張するようなマネしたりして。席を立ったとき以上の緊張とためらいに身を固くしながら、かすかにドアを開けるといきなりのボーカルの大声!
「やっ!登場で~す!!」
なっ、なになに?!こっちに向かって拍手してる!なんなのっ?! 焦るわたしに、店内のみんなは大笑い。完全に酔っ払いたちに遊ばれている。
とりあえず愛想笑いしながら席に戻ってチラリと見ると、ご一行は意味不明に大盛り上がり状態。な、なんなんだよっと思いつつも、少し嬉しかったりする。
魔法は、解けなかった。解けるどころか。トイレに行っても覚めない夢とかあるんだなー。なんて。しみじみと、現実。

そうして、酔っ払って上機嫌のメンバーたちは、「バイバーイ!」と手を振って帰って行った。帰り際に握手もしてくれた。手のひらをくすぐられた。エロい。


気が付けば。フラれたことなどすっかり忘れていた。頭の中から、きれいさっぱり消え失せていた。傷痕は膿んだりせずに、ちゃんとかさぶたになったようだった。


本当に、2週間前の失恋のご慈悲がこのハッピーだったなら、フラれてもよかったかなと少し思った。それまでの人生最大の哀しい勘違いと、人生最高の嬉しい勘違い。思い込み、上等。思い込むことで進んでいける。面白がって。力に変えて。

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