オムライス

オムライス at銀座

すれ違う人がどこか気品あふれる街、銀座に行った。

その日は、数日前まで雨マークだったのがウソのように晴れた。地下鉄の駅から地上に出ると、薄手の上着でも過ごせそうな快適な気候。

銀座という街には、ほとんど行ったことがない。そもそも用事がない。それに、ぼくは銀座が似合う男ではないのだ。

なんだか「君には、この街はまだ早い」と言われているような気がして、どうしてもソワソワしてしまう。

そんな銀座になぜ行ったかというと、ある目的があった。

喫茶YOUのオムライスである。

その店は、東銀座駅から徒歩1分の場所にあった。

12時頃ついたが、すでに6人くらいが外に並んでいた。お店は、雑居ビルが立ち並ぶ中で異彩を放つ古めかしい喫茶である。

レンガ調の壁に、緑色のネオンに縁どられた店名が輝く。15分ほど待つと、店内に通された。お店は一階と二階があり、ぼくらは二階に通された。

階段を上り切ると、淡い照明に照らされたレトロな空間がお目見えした。渋い木目の壁とテーブルに赤いクッションのついたイスが、時代が巻き戻ってしまったかのような錯覚を起させる。

ぼくらは、席に着くと、早速オムライスセットを頼んだ。周りのテーブルを見渡すと、全員がオムライスを頼んでいた。

さすがオムライスの名店である。しばらくして気付いたのだが、店内は女性客ばかりだった。女性1人か女性2人組がほとんどで、たまにカップルが1組という構成の店内で、男2人で来ていたぼくたちは、かなり場違いな感じだった。

思い起こせば、外で並んでいるときも、女性しかいなかった。ぼくらは、肩身が狭い思いを紛らわすため、ことさら会話に集中していたのだが、その内容が主に日本史の話だったので、さらに疎外感が増したような気がした。

そうこうしているうちに、オムライスがウエイターの手によって、運ばれてきた。

白い横長の皿に、見るからにプルプルとした黄色のオムレツがチキンライスの上に鎮座している。オムレツの中央にはケチャップのデコレーション。

スプーンをオムレツの真ん中に入刀すると、とろっとろっの卵の洪水がチキンライスに襲い掛かった。すっかり様相を変えたオムライスは、見るだけでも至福である。

ケチャップを広げ、スプーンの中に小さなオムライスを作ると、口に躊躇なく放り込む。口の中でフワフワな卵とチキンライスが、手を取り合って華麗なダンスを繰り広げる(社交ダンスのイメージ)。

バターの風味とたまごのまろやかさが、たまらず脳をせっつく。はやく次のオムライスを。箸が止まらないならぬスプーンが止まらない。

あっという間にぼくらは、オムライスを完食すると、友達は食後のコーヒーを。ぼくは、食後のジンジャエールを飲んだ。

ほっと一息ついてから、階段を降りて、会計を済ました。外はさらに行列が伸びていた。

その帰り道、友達とオムライスについて話していたら、なぜだかカレーが好きな女の子の話になった。その子は好きな食べ物はカレーだといったら、「男っぽいね」と友人に評されたそうだ。

じゃあ、オムライスが好きと男が言ったらどういう反応なのだろう。「意外だね」とか「女の子っぽいね」と言われるのだろうか。あの店内の感じを考えると、オムライス=女性という感じではあったが。

食べ物から連想される性別は、どうやらある程度決まっているらしい。なんだかそれも偏ったイメージだよな、とぼんやり思った。

それにしても、このお店のオムライスはおいしかった。辛くなったとき、イライラしたとき、あのオムレツのプルプル感を思い出せば、なんとか乗り越えることができそうである。

#エッセイ #コラム #日記

Twitter:@hijikatakata21


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