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須磨アルプスに挑戦

 3連休の初日に、須磨アルプスへ出掛けた。

 最近、幾つかの本の影響を受けて、〈自分が本当に好きなものは何か〉ということを改めて考えていた。その一環で、今まで訪れた場所の中で特に良かったところを思い出してみると、鳥取砂丘や貴船神社のように、町から離れて自然に囲まれた場所が多いことに気が付いた。

 してみると、まち歩きよりもハイキングの方が性に合っているのではないか。

 そう思い、低山ハイクをやってみることにした。そして、最初の行き先として、以前から気になっていた須磨アルプスを選んだのである。

 須磨アルプスとは、六甲山系の西端に位置する標高300m前後の山々のことである。中でも有名なのが、「馬の背」と呼ばれる、岩が剥き出しになった稜線だ。この部分は花崗岩という風化しやすい岩石でできているため、草木が根付かないのだという。神戸という100万都市の、中心市街地から電車で30分でアクセスできるような山の中に、そんな荒涼たる光景が広がっているなんて、驚くべきことではないか! これは見てみたいと、僕はかねて思っていたのだ。

 今回のルートは、低山ハイクのお供用に買った『大人の遠足BOOK 西日本3 日帰り山あるき 関西』の、「3 須磨アルプス」に倣った。ネットで検索すると、同じルートを紹介しているサイトが幾つかあったので、ある程度確立されたものなのだと思う。

 さてここから先は、道中で撮った写真に解説を添える形で記録を進めていきたい。そして、クライマックスの「馬の背」のように、補足が多くなるところでは、文章も交えていこうと思う。

山陽電鉄・須磨浦公園駅を出発して最初の上り。ハイキングが珍しいので、すぐにテンションが上がって写真を撮ってしまう。
10分ほどすると、本格的に山の中に入る。上り慣れていないので、あっという間に息が上がった。
ハイキングが珍しいので、道の雰囲気が変わっただけでテンションが上がって(以下略)
須磨浦公園から上って最初の山・鉢伏山の山頂近くに、観光ロープウェイの駅がある。その隣の展望台から、神戸の市街地の方を撮った。
展望台から鉢伏山山頂を越えて歩くこと15分、2つ目の山・旗振山の頂上に着く。

 この旗振山の頂上から、ハイカーの姿を多く見かけるようになった。この場所には「旗振茶屋」というちょっとした休憩所があり、屋外にもテーブル席が並んでいる。そのためハイカーの休憩所になっているらしかった。一番店側の席に座っていた男性2人連れがビールを飲んでいて、ビックリした。

 ちなみに、写真には撮らなかったが、茶屋の近くには六甲全山縦走路の案内板が出ている。全山縦走すると、須磨から摩耶山・六甲山を経て宝塚に至る。その距離実に50㎞余り。気が遠くなった。

 何はともあれ、次に目指すのは、写真にも名前が出ている鉄拐山である。

ところどころ、岩の形がしっかり見える。岩山に向かっているからか、つい目に留まる。
鉄拐山の頂上へ続く道。ここで初めて「こりゃ本格的に山だ…!」と思う。

 この階段と坂道を登り切った途端、木々がなくなり視界が開けた。そこが鉄拐山の頂上だった。今回のルートの中で、山頂に着いた時の達成感と爽快感が一番大きかったのは、この鉄拐山だと思う。

「おお、着いた!」って感じがした。
鉄拐山山頂の標識。
標識の裏手に腰を下ろす。足元の自然と、遠くに見える都会のコントラストが面白くて、思わず1枚撮った。

 続いての山は高倉山である。ここには「おらが茶屋」という土日祝限定営業のお店があり、カレーセットが食べられる。ちょうど12時だったので、ここでお昼にした。

おらが茶屋。屋上は展望台になっている。
おらが茶屋セット(1,000円)。+100円で大盛りにできる。左側のケーキは店内で作っているそうだ。写真には写っていないが、食後のドリンクも付いている。

 店内が混んでいたこともあり、およそ1時間の休憩になった。椅子に座った時、足がプルプル震えていたので、それくらいしっかり休めてちょうど良かったと思う。

ハイキング再開。住宅地を越えて、向かいの山を目指す。ここも六甲全山縦走路の一部である。縦走路が途中で住宅地を横切っているのが面白い。
住宅地を越えた途端に難易度が一気に上がった。ガイドブックによると「400段近い長い階段登り」らしい…
出発からおよそ40分。階段を登り切って最初の山・栂尾山の頂上に到着。
展望台から、歩いて来た側を眺める。
次の横尾山に向けて、難易度は更に上がる。
目の前に急斜面が現れた。幸いコースは迂回している。が、岩に直接描かれた「←」を見た途端、「思っていたより遥かにヤバいところに来てしまった」と思った。
横尾山頂。今回のコースではここが最高点らしい。

 この横尾山と、隣の東山の間に、いよいよ「馬の背」が現れる。

山頂を過ぎて程なく、鎖付きの岩場が現れた。「来るぞ…!」という感じがする。と同時に、ここまで以上に注意して進まなければいけないと思う。
先ほどの岩場から更に下ったところで、来た道を撮影。「低山ハイクをしようと思い立ったばかりの人間が来る場所じゃなかった…」という気がしてならない。でも、来たかったのだ。

 そして——

 着いた。

 「これか!」という感じがした。そうそうお目に掛かれないものを見て、心が昂る。しかし、それ以上に不安が大きかった。「今までの道でも結構怖かったのに、ここが越えられるのか!?」という気持ちだった。

 それにしても、この荒涼たる稜線と山間の住宅街の近さには驚かされる。およそかけ離れたものが隣り合っている感じが、不思議でならない。

 写真を撮り、景色を眺めること数分。気持ちを固めて、「馬の背」越えに取り掛かった。

まずは階段を降りていく。
そして岩に降り立つ。下から見上げると、まさに迫力満点だった。
ルート最下点(たぶん)にある標識の前で、元来た側を振り返る。
なんだか日本じゃないみたい。でも日本だし、なんなら神戸だ。
先に見た岩の真下に辿り着く。ひとつ大きな息を吐いて、両手両足を使って登っていった。

 ——しかし、「馬の背」で一番怖いのは、この聳え立つ岩ではなかった。

 この写真は「馬の背」を越えてすぐの空き地から撮ったものである。

 稜線の足場が相当狭いことがおわかりいただけるだろうか。

 足下は風化しやすい岩。しかも幅は数十センチ(体感)。両側は岩剥き出しの急斜面。そんな場所を、ビギナーオブビギナーの僕が行くのだ。

 ここで白状すると、低山ハイクを思い立ってから須磨アルプスに行くまで殆ど日がなかったので、僕のこの日の装備はハイキングをするには明らかに不十分だった。こんな難所ともなれば猶更である。

 おまけに、僕は高所恐怖症だった。普通の山の中なら、周りに草木が生い茂っていているのでそこまで高さを感じないのだが、ここは周りに何もないから、高さが際立つ。

 腰が引けた。甘く見過ぎていた。

 僕はすっかりしゃがみ込み、両手両足を使って辛うじて「馬の背」を越えた。空き地で休んでいると、後からやって来たハイカーやトレイルランナーが、みんな足だけであの狭い稜線を越えてきた。格の違いを見せつけられたと思った。

 須磨アルプスは生半可な気持ちで行っちゃ絶対ダメだと思う。ビギナーが言っても説得力はないだろうけど、ハッキリそう感じたので、ここに書き留めておきたい。

東山山頂に到着。改めて「馬の背」を撮る。

 東山に着いた後は、縦走路から外れ板宿駅の方へ下りて行った。案内標識がたくさんあったので、安心して下ることができた。

下り道で周りを木々に囲まれた時の安心感といったらなかった。
街がだいぶ近くなってきた気がする。
残りあと少し。

 以上が須磨アルプス挑戦の記録である。正直言って、低山ハイクに慣れていない人間がいきなり挑んだのは無謀だったと思う。何とか無事帰ってきたものの、体力面でも準備面でも反省は大きい。

 ただ、ハイキング自体は本当に良かった。いつも生活している街の中とは全然違う場所に身を置いて体を動かすのは、とても気持ちが良かった。「馬の背」や鉄拐山の頂上などの景色も素晴らしかった。これは良い趣味に巡り会えそうだという予感がした。

 次は準備を整えてから、別の場所に行ってみよう。僕は今、そんな風に思っている。

(第213回 2月11日)

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