ポメ宿駅
かつてポメ宿駅は人類専用通路とポメラニアン専用通路に分かれ、実質的に駅は二つ存在していた。しかしその後、人かポメかは本人の申告によるものとなったため、自身のアイデンティティを問い質された人々とポメ々は結局入り混じり駅の大混雑を引き起こすこととなった。これが現在のポメ宿駅である。
一匹の黒ポメラニアン、その名もショッケンは自由な時間が来るといつも駅の外れでポメラニアンギターを弾く。高架下の夜は疲れ切った初夏の匂いが満ちて嗅覚に響く。感覚の鋭いポメラニアンはもちろん、どことなくファッションの均一的な(ポメ宿駅の時間は均一的に流れる)人類も足早に帰路を急ぐ。ショッケンは弾き終えると彼らを眺める。そして、また弾き始める。
そういえば数年前の夏のポメ宿駅、昼間に小さな駅前広場でジャボン玉を吹くブロンドのポメラニアンがいた。遊んでいたわけじゃない。【日本周遊旅行のため、資金を集めています】と、首輪に文字入りのプレートがあった。プラスチックのコップの中にはわずかに小銭が入っていた。
あのようなはした金の集積ではせいぜいランチくらいしかできないだろう。そんなこと誰もが知っている。でもシャボン玉の作り方にはもう詳しくない。この駅ではもう詳しくなる必要なんてない。
「そういう瞬間を探していたんだ」と、私は両耳にイヤホンを突っ込んだまま、百円硬貨を差し出した。一つ大きな泡が目の前に現れ、触れると飛沫が舞った。
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