ポメラニアンバード
「ポメポメポメポメ……」冬の早朝、まだ霧深い山奥にポメラニアンバードの挨拶が響く。ここは北陸地方のとある廃村だ。
ポメラニアンバードは人嫌いだが、人の匂いは好きで、よく廃村の小屋の中とかに巣を作る。食性とか生息範囲とか、込み入った設定概念は未だ謎に包まれている。まだその辺りの設定は本来のポメラニアンに侵食されずに宙に浮かんでいるらしい。
私がこの村を訪れたのには理由がある。一緒に暮らしていたポメラニアンが昨夜ポメラニアンバードになって脱走してしまい、現在この廃村に潜んでいるからだ(首輪につけたGPSのおかげで判明した)。
私は夜を徹してバイクを疾走させた。ポメラニアンとポメラニアンバードの大きさがほぼ同じで、かつ首輪が抜けていなければ、私の家のポメラニアンは今、目の前の寂れた小屋の中にいる。おそらくは一羽の鳥になって。
小屋の周りを一周する。東向きの窓ガラスが割れ、隙間ができている。私はそこから本来なら彼の朝食となる予定だったポメラニアンフード(減塩)を投げ入れた。何も起こらない。もう一度GPSを確認する。間違いなくこの小屋だ。
まさかとは思うが……私は私の朝食となる予定だった玄米を一握り投げ入れた。巨大な羽音と、静かに餌を啄ばむ音。食性設定の第一歩だ。少なくとも朝は玄米。私は「ポメポメポメポメ……」と呼びかける。ガラスの向こうからは嬉し気な挨拶だ。
私は微妙な感情の白いため息をついた。この際生息範囲も詳しく更新した方が良いのかどうか(あれ……そういえばここは北陸のどの辺りだったっけ……?)、後ほどポメラニアン省に連絡を取る事にして、私は小屋の扉をそろりと開けた。
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