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北国の空の下 ー 週末利用、自転車で北海道一周【7】 2日目 留萌〜天塩② 2015年5月23日

「週末北海道一周」2日目パート2。この地域の中心都市・羽幌を後に、人口1000人強の初山別村を目指します。引き続き南風に背を押され、しかし北へ向かうほどに人の気配は稀薄になってゆき、少し人恋しさが募ってきました。

羽幌→初山別

羽幌から先も、アップダウンが連続します。
さほどの急坂でもないし、長い登りでもない。ただそれが際限なく繰り返される。風景に変化が少ないのも嫌らしい。
人家は途切れ、道の両脇には牧草地が広がっています。
とある坂道を登りきって、長い直線が続くあたりで、足を止めてしばし雰囲気を楽しんでみました。天頂に近づけば近づくほど深みを増す蒼空、白波が煌めく海、どこまでも続く道に人影はなく、車も1分に一台通り過ぎる程度。
サイクリストにもライダーにも垂涎の風景ですが、ここまでがらんとした風景は、つい3ヶ月前まで東南アジアの雑踏の中にいた身としては、物寂しさを覚えてしまいます。

がらんとした北辺の道

この沿線は、留萌と小平、羽幌と苫前、またこの先の遠別と天塩という感じで、二つずつ町がセットになって生活圏が形成されています。しかし、それぞれの生活圏が数十キロ離れ、かつ町と町の間は人口が極めて希薄。もっとも、北海道の中でこの地域が特別というわけではなく、人口密度が比較的高い道央・道南以外はこれが普通なのでしょう。
ひとしきり長い坂道を下り、再び海沿いに出ました。黒っぽい砂浜がどこまでも続き、やがてもやの中に消えていきます。
海上の靄が早く晴れてくれれば良いのですが。留萌から淡々と走り続け、ついに水平線に利尻岳が見えた、という感じを味わいたいのです。

初山別村のコンビニ

もう一山、というか一丘越えると、坂の下に初山別の集落が見えました。
集落の入り口に、話題になったコンビニがあったので、自転車を止めました。
入口に旅芝居の公演ポスターが貼ってあります。時代劇ではなくて、昭和青春物というべきか、学生服とセーラー服姿の役者の写真でした。

旅芝居のポスター

時刻は11時15分。スタートから3時間少々経過し、腹も空いてきました。
どこか食堂を見つけることにして、ここでは水と巻き寿司、大福餅、ゼリー飲料という、訳の分からぬ取り合わせの買い物をして店を出、取り敢えず駐車場で巻き寿司を頬張って、軽く空腹を満たしました。食べながらストレッチしていると、パートの主婦らしき店員が出てきて「店内に席があるのでご利用下さい」と声をかけてくれました。ありがたいが、身体をしっかり伸ばしたいので固辞。
私は体が硬いし、頚椎ヘルニア持ち故、肩、首、肩甲骨周りのストレッチが欠かせません。さもなくば最悪の場合、顔を上げた乗車姿勢が取れないとか、腕に神経性の痛みが走ってハンドルからの振動が辛く走れない、といった事態になってしまいます。

ところで、ここは人口わずか1134人の過疎の村にコンビニができた、と話題になりましたが、実際来てみるとそれなりに人家の集積はある感じで、もっと小規模な集落や、人家の殆どない山中にコンビニが出店しているケースは少なからずあると感じられます。特筆すべきは、そのマーケット規模云々というより、最寄りの町から20キロも離れ往来も多くはない隔絶した村に、物流効率等は敢えて無視して出店したことでしょう。今の季節ならば羽幌からほんの一走りですが、冬ともなれば、地吹雪、ホワイトアウトも珍しくありません。これまでは、そんな中を住民が自らハンドルを握って買い物に行かねばならなかったわけで、それが向こうからやって来てくれることになった恩恵は計り知れないのではないでしょうか。

初山別村のランチタイム

ネット社会とは恐ろしいもので、このような北辺の小集落ですら「食べログ」で検索すると、数軒の食堂を見つけることができます。
iPhoneに表示された地図を頼りに、そのうちの一軒に行ってみましたが、暖簾は出ているのに店内は薄暗く、客はおろか店員の姿もなく、声をかけても誰も出てくる気配がありません。近隣に他の店もあったが、外から覗いてみると似たようなものかと思われ、パスすることにしました。50歳近くなってくると、一食一食を大切にしたくなってくるのであります。

さらに20キロほど先の遠別まで我慢かいな、と思い、電池切れ(ハンガーノック)など起こさぬよう、先ほど購入した大福を一つ頬張って、再び起伏の続く道へとペダルを踏み出します。すると天祐というべきか、2キロ先に道の駅があるとの道路標識が現れました。フォークとナイフのマークもちゃんと出ています。
海を見下ろす高台に、初山別名物、というのも変だが、天文台があり、その周辺にオートキャンプ場、道の駅、ホテルなどが整備され、開放的な気持ちの良い空間になっていました。この天文台は何十年も前からあるようで、学生時代からの友人の一人も、よくここにキャンプに来たと話していました。
言うまでもなく天文台の立地には、人家が少なく空が開け、空気の澄んだところが適しているわけです。

ホテル内のレストランに入りました。定番のメニューのほか、本日のお薦め、ということで手書きメニューがテーブルに置かれました。そこには旬の魚介が列挙され、しかも傍のテーブルには日本最北の酒蔵である増毛の「国稀」をはじめとする日本酒が数種類並んでおり、陽の高いうちから冷酒にイカ刺し…の誘惑に駆られるが、我慢して、初山別名物というハコフグ照り焼き丼、カワハギのお造り、それにお茶で我慢。
ハコフグは照り焼きにするには少々淡白すぎる気もしましたが美味しくいただき、またカワハギは数年ぶりということもあって、弾力のある身を肝醤油につけて食べると、涙が出るほどうまかった。フグもカワハギも、秋以降が旬と言われるものの、一年中おいしい魚です。

初山別の昼ごはん

ここは海を見渡す温泉もあり、心惹かれるが、この上一風呂浴びたら走る気力を喪失しそうなので、手塩まで我慢することに。
一時間ほど休息して表に出ると、小平の道の駅にいた、赤いランドナーが停まっていました。こちらも荷台に「日本一周中」と小さなホワイトボードを掲げています。持ち主の姿は見えませんでした。
日本一周…そこまでの長征は、私にはなかなか現実のものとして見えてきません。日本一周となると、週末や連休を繋ぎ合わせてというわけにはいかなくなるし、仮に数ヶ月もの時間ができたなら、海外に出てしまいそうな気がするし。それに、間もなく50歳というのに自分探しでもあるまい。
留萌まで走った、気持ち良かった、次は稚内まで、その次には…と、常にワクワクするものを原動力として、休みをやりくりしながら一つ一つのレグを走っていき、その連続線上に北海道一周があった、というのが、中高年らしい気持ちのゆとりをもった走り方かな、という気がしています。
そしてその結果、体脂肪率、血圧、コレステロール値がどう改善されるか、というあたりもまた、年齢相応の関心事なのであります。

※ 引き続き、オロロンラインを北へ。風車が林立する寂寞とした原野を走り、かつての北前船の港・天塩へ向かいます。

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