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アパレル業界、不良在庫を減らす新たな知見

こんにちは。ひいろです。
去年くらいまで賑わっていたタピオカブームはどこへやら、

でも、久々に飲みたかったりする。

今回は中央大学の結城先生の論文

生産・企画の延期と在庫パフォーマンス
 ― アパレル業界を対象とした実証分析 ―

を読んだので書いていきます。

アパレル業界を悩ます不良在庫

現在のアパレル業界の問題の1つとして、
不良在庫の氾濫

が大きくあげられています。

在庫の売れ残り問題ですね。

また、在庫の品質低下やそれに伴う不良在庫などのリスク
これらを総称して
在庫リスク

と呼んだりします。

そして、その対応策として活用されているのが
延期ー投機モデル

このモデルに従うと、

在庫リスクは生産・企画の延期化によって削減可能である

とされています。

つまり、

産量やデザイン、材質の決定を
実際の注文のタイミングに近づける
ってことですね。

国内の有力アパレルメーカーは
この理論を基に、

期中生産・期中企画
シーズン中の追加的な発注・企画

に取り組んできました。

また、既存研究によりこの手法の有効性が示唆されています。

しかし、これらの既存研究対象の多くは少数有力メーカー。

これでは、
知見の一般化の可能性
推定の妥当性に対して
疑問が残ります。


今回は、この延期の手法が一般的に通用するものなのか、

企画・発注の延期が不良在庫の削減に寄与しているのか

を研究しています。

延期ー投機モデル

先にでてきたこのモデルについて説明していきます。
延期ー投機モデルとは、

製品流通の効率的な観点から
在庫形成と製品形態確定の最適なタイミングを説明する理論
在庫形成:在庫量
製品形態:デザイン・材質

また、製品形態確定を
生産と企画の2つに分解し
それぞれの延期を以下のように再定義しています。

受注生産:生産の延期
カスタマイゼーション:企画の延期

そして、延期のメリットとして

在庫形成と製品形態決定を延期することで
売れ残り・売れ逃しのリスクが軽減されること

対極にある、投機のメリットとして

大規模施設の利用によって規模の経済の恩恵を得られること
十分な在庫は、消費者の待機費用や品切れリスクの緩和
そして消費者愛顧向上に貢献すること

があげられています。


規模の経済とは、
モノは大規模な施設で大量生産したほうが効率的に生産できるので、
費用が少なく済むという考え方です。

生産・企画の延期ー投機モデル

生産・企画において、

情報・物流技術の革新と
需要の不確実性が

延期を肯定する根拠になっています。

延期投機モデル

X:生産費用
Y:不確実費用(売れ残り・逃しのコストなど)
Z:合計費用(X+Y)
E:ベストなタイミング

合計費用が一番低いポイントが
生産・企画においてベストなタイミングであるといえます。

グラフのa.bよりベストなタイミングEは
投機によっています。

しかし、cでは
先の2つの要素を加味してグラフを調整することで
X・Yがそれぞれ変化し、Zもそれに対応します。

結果Eが延期に近いE’へとシフトします。

延期2

情報・物流技術の革新は、

企業の受注生産やカスタマイゼーションの能力を高め
生産費用の減少(X’へのシフト)に貢献
します。

需要の不確実性は

人々の趣向の多様化などからもたらされ、
不確実費用の増加(Y’へのシフト)をもたらします。

結果Z’へのシフトにつながり新しくE’が設定されました。

期中生産・期中企画と在庫成果

生産・企画の延期ー投機モデルに基づけば、
期中生産・期中企画は不良在庫を減らす効果を持つはずです。

しかし、その効果は
小売段階の統合度によって大きく変化する可能性があります。

そのシーズン中の追加生産が可能であったとしても、
期中の売れ行きに関する予想を誤れば
不良在庫の原因になります。

結局のところ、

在庫削減に対する延期の効果は
製品の売れ行きや流行り、ニーズに対する
「読み」の精度に依存する

ということです。

そしてこの「読み」の精度を高めるためには
小売店頭での様々な情報を迅速に分析すること
が求められます。

メーカーが小売活動を外部化している場合、

情報開示による交渉力の低さなどの懸念より
小売店からの情報の入手は困難になってきます。

また、流行の些細な変化などを察知するためには
積極的な小売店とのコミュニケーションが必要となり
そのための多大なコストもネックとなるでしょう。


そこで、

小売段階のリスクを負ってでも
SPAのように一連の流れを内部化する合理性

がうまれるのです。

結果、

生産・企画を延期する時は
小売機能を内部化したほうが有利となります。

実際の分析結果と考察

上記をふまえて、
アパレルメーカーに対する質問紙調査を実施し、
回答を分析しています。

結果として、

1.期中生産は不良在庫の削減に貢献する
2.期中企画は小売段階を外部化した状況で実施すると不良在庫が増加し
また一部あるいは全てを統合している場合でも在庫削減効果を持たない

となりました。

期中企画について特に興味深い結果になっていますね。

結果の考察として2つのポイントがあげられています。

1.期中生産と期中企画の難易度の差
2.期中企画製品の生産・発注量管理

1.期中生産と期中企画の難易度の差

期中生産は、
既存の製品の追加発注のみで完了するので

在庫や売れ行き情報さえ入手できれば
精度を容易に保つことが可能
なのです。

一方、期中企画は

生産量の決定
多様なデータを用いた流行りやニーズの理解
実際の製品への落とし込みなど

多くの過程を伴う上に
シーズン中に全てを完了させる必要があり、

期中企画は期中生産に比べて負荷の大きい仕組みになっています。


2.期中企画製品の生産・発注量管理

小売段階の統合に関わらず、期中企画が在庫削減に寄与しない原因として

期中企画製品の過剰生産が考えられます。

延期に注力する企業は、
できるだけ売り切りたいという意思により

過小生産による
機会ロスや品ぞろえの縮小が起こりやすくなります。

それを危惧する経営者やブランド責任者は
これらを抑制すべく

敢えて投機的な「強気」な生産・発注を推奨するようになります。

こうした過小な生産・企画の回避傾向が強まると
店頭の捌く能力を超過してしまい、

結果、期中企画は全般的に
不良在庫の削減に寄与しなくなっている
と考察されています。

最後に

延期という戦略は必ずしも全て有効ではない
期中生産においてのみ、不良在庫の削減に寄与することがわかりました。

アパレル業界は他の業界に比べて非常にサイクルが早いため
今回のような結果になったと考えられます。

アパレル以外にも
似たような流れの業界ならば、この結果は重要になってくるかもしれません。

また、サイクルの早さの大きな理由の1つとして
四季の影響があげられるなら、

気候の安定している海外の地域では
また違った結果が得られるのかもしれません。

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