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ファーストキス

ファーストキスは嫌いなコーヒーの香りがした
コーヒーの酸味だけが詰まってフレッシュの味が後から追いかけてくる
味は確かそんな感じだったろう
あれは飲めたもんじゃない
運転席から顔を近づけて
キスをするのかと思ったら何もせずおでこをあわせてきた
しばらく何も言わずにこらえてると
「ごめん、遊んでる」
笑いながらそう一言だけ呟いた
私が困ったような笑顔をしたらそれが合図だったのか唇が降りてきた
触れるだけのキス
初めてのキス
何も出来ずに固まっていると
そんなに震えないでと言われ頭を撫でられた
その言葉で自分が少し怖がってたのかと知った
距離が離れてカバンに顔を埋める
息の仕方がいまいちわからない
心臓の音が鳴り止まない
少しでも平常心を保とうという努力は頬に落ちたキスで無謀なものになった
いじわる
頭の中にずっと想いが渦巻く
ふつうに会話しても目が見れない
私を捉えて離さない目にどうしようもない素振りを見せてるとまた笑って頭を撫でられる

バイトの時間が迫ってきた

そろそろ行かないとと言うと
また頭を優しく掴まれおでこを合わせる
楽しんでるのがわかる
「いじわる」
噛み付くように言うと少し微笑んでキスをする
やはり一回では慣れずまた固まってるともう1度啄む位のキス
おでこにもキスをされあぁこの人には敵わないと思った



車からおりバイト先に向かう前に鏡を確認すると酷く怯えてるような苦しんでるようななんとも言えない顔をしてた

キスは幸せなものだと思ってた
嬉しいものだと思ってた
なのに今の自分の顔は酷く醜かった

キスが幸せなものなのは恋人だけと初めて知った

鼻に残る嫌いなコーヒーと少しのタバコの香り

無かった事にできない唇の感触とともにバイトへ向かった

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