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【絵本】三つ編みのアミとクリスマス

人生5回目のクリスマスイブの朝
アミは透き通った気持ちで目を開けた
凍った窓から漏れる太陽の光
つららの下で雪だるまが笑っている
キッチンから美味しそうな匂いと
ラジオが歌うクリスマスソングが聴こえる
アミは幸せな気持ちを胸で膨らませて
ベッドからぴょんと飛び降りた
キッチンの扉を開けると
ママが鳥の巣のようなカーリーヘアを揺らして
「おはよう」と振り返った
アミはチシャ猫のように口を広げると
「ママ、おはよう!」と挨拶した
クリスマスツリーに赤いリボンと鈴
金色の星やキャンディバーの飾りつけ
テーブルの上には水色のキャンドルが灯り
ライ麦パンと鶏のシチューが湯気を立てている
マグカップにはマシュマロ入りのココア
アミは踊るように椅子に座った
「いただきまーす」「めしあがれ」
朝食を食べているとママがいつも通り
アミの髪をくしでブラッシングして
三つ編みにしてくれる
「アミの髪の毛は炎のように綺麗ね」

ママはデパートの香水売り場で働いていて
いつも違う香りがする
今日はバニラっぽい匂いだなと
アミは犬のように鼻をくんくん鳴らしながら
「あたし、クリスマスって一年で一番好きよ。
町中が明るい音楽で包まれるし
イルミネーションはなんか可愛くて
サンタクロースさんはどんな願いでも
叶えてくれるもん!最高!」と
手足をバタバタさせてはしゃいだ
「アミがいい子にしてたらね」
ママはいじわるっぽく「うふふ」と笑った

部屋の棚に犬のぬいぐるみが並んでいる
ゴールデンレトリバー、ダルメシアン、
ボーダーコリー、ブルドッグ、
アミはずっと犬を飼いたいと願っていて
そのことを知っているママが
毎年クリスマスにプレゼントしてくれる
お手製の犬のぬいぐるみだ
アミの父親はアミが生まれてすぐに
家を出てどうしているか分からない
だからママはデパートで働いている
ママがずっと家にいてくれたら
犬も飼えるのになぁと考えながら
アミが三つ編みを握りしめて
「ママ、今夜のケーキは
苺のケーキだよね?」と聞いた


ママの顔が少し曇って
オーブンからケーキを取り出して
「ごめん、アミ、苺が手に入らなくて
今年はチョコレートケーキなの」と言った
「えー!」
「美味しく焼いたから我慢して」
「やだ!あたし苺のショートケーキが好き!」
「アミ、わがまま言わないで」
「やだ…」
アミの目から大粒の涙が零れる
するとママは弱々しいかすれた声で
「こんな風にママを困らせる子には
サンタさんもプレゼントも来ないわよ」と言った
「プレゼントって何?どうせまた犬のぬいぐるみでしょう
あたしが欲しいのは本物の生きた犬なの
もうこんなものいらない!」
アミは棚に並んだ犬のぬいぐるみを
手で突き飛ばして地面に落とした


ママが目を吊り上げて怒鳴った
「アミ!ぬいぐるみを直しなさい!」
「ママの顔なんかみたくない」
「勝手にしなさい」
アミは手袋だけ持って家を飛び出した
涙で熱くなったほっぺたで雪が溶けていく


アミはママへの反抗心から
行ってはいけないと言われている森へ
立ち入り禁止の看板を無視して
雪を強く踏みながら進んだ
「ママなんて大嫌い」とつぶやくと
胸が黒い絵の具で塗りつぶされて
焦げた魚のような匂いがした
森は進めば進むほど暗くなり
濃い霧が漂ってきて
なんだか空気が重たい
毒キノコがきらきら輝いて
オバケとか悪魔がでてきそう
怖くなって引き返そうかと思ったとき
「こんにちわ、お嬢さん」と
木の上から奇妙な声が聞こえた


アミはびっくりして顔をあげると
ダリの時計のようにグニャグニャに
ひしゃげた紫色のツリーハウスから
星の形をしたサングラスをかけた
ふくろうが肩をゆすりながら出てきた
「あなた誰?わるいふくろう?」
「そんなことはないですぞ、あなたが
寂しそうだから声をかけたのです」
「あたし、ママと喧嘩したの」
「フォフォフォフォフォ」
「でもお家に帰りたくなっちゃったの
帰り道を教えてくれる?」
「それは無理ですぞ、フォフォフォフォ」
「どうして?」
「あなたはママに捨てられたのですぞ!
悪い子はみんなこの森に閉じ込められて
二度と出れないのです、フォフォフォフォ
そうゆう子供を私は100人見ました
かわいそうですぞ、フォフォフォフォフォ」
「嘘つき!あっち行ってよ!!」
アミは腹が立って落ちていた石を
木に向かって思いっきり投げた
わるいふくろうに当たったと思ったら
煙のように姿が消えた
ヘンテコな笑い声だけが森に響いてた

朝食の途中で家を飛び出したので
アミはお腹が空いてしまった
ママと喧嘩するし、わるいふくろうの言う通り
もう家に帰れないのかもしれない
「なんて悲しい日なの、ひどいわ」
アミは肩を落としてうつむいた
すると目の前に一粒の赤い実が
不思議な光を放って落ちていた
「あら、食べ物かしら?」
アミは駆け寄って赤い実を
ハンカチで拭くと口に入れて噛んだ
「わあ、キャラメルの味がする!美味しい」
5歩先にまた赤い実を見つけた
急いでそれを拾って食べる
「今度はバナナ味だ!魔法みたい!」
その次の実はチリソース味で
次はサラミ味、次はカボチャ味だった


赤い実を食べれば食べるほど
アミの心と体に元気が戻ってきた
幸せな気持ちでスキップをしていると
どこからか楽しそうな音楽が聞こえた
「あれ、人間がいるのかしら?」
アミは耳を澄まして、音楽が鳴っている方向に
近づいていくと洞窟を見つけた


ちょうど子供が入れるくらい小さな穴から
歌声や楽器の演奏が中から聞こえる
好奇心とドキドキを抱えながら
恐る恐る穴に進むと
視界に明かりが広がってきた
洞窟の奥でアミを待っていたのは
動物たちのクリスマスパーティーだった


黄金のキャンドルに照らされた
七面鳥、ミートパイ、ピザ、スパゲティ
ご馳走を囲んでいる動物たちが
きらめくシャンメリーを片手に
「メリークリスマス!ようこそアミちゃん!」と
一斉にクラッカーを鳴らした
アミはびっくりして目から星が出た
戸惑い、少しはにかみながら
小さな声で「メリークリスマス」と答えた
「さあ、こっちに来て、一緒に歌いましょう」と
クマのお母さんと、クマの女の子が
アミの手を取りテーブルの真ん中に誘う
眼鏡をかけているキツネが
愉快なアコーディオンを弾き始めると
ウサギがトライアングルを鳴らして
アヒルが太鼓を叩いて
クマのお母さんがオルガンを演奏して
女の子のクマが踊りながら
しゃんしゃんとタンバリンを響かせる
「さあ、アミちゃん!歌ってちょうだい」
アミは大きく深呼吸してから
クリスマスソングを歌い始めた


みんなの声が重なって
透明の祈りが光に包まれる
心が温かくなって自然に笑顔がこぼれる
演奏が終わって乾杯すると
クマのお母さんが「さあ、ケーキですよ」と
冷蔵庫から苺のホールケーキを出した
クマの女の子が「わあい!苺ケーキだ」と
嬉しそうな声をあげて飛び跳ねる
その姿を見てアミの心は曇って
寂しさで涙が出そうになった

「アミちゃんどうしたの?」
クマの女の子が心配そうな顔で聞いた
「あたしママと喧嘩して
この森に捨てられちゃったみたい」
アミは鼻をすすりながら答えた
するとクマのお母さんが近づき
アミの頭を優しく抱きしめてくれた


甘くて懐かしい香りがした
「子供を愛していないママなんていないわ
きっとあなたの帰りを待ってる」
「そうだ、その通りだ!」と後ろで動物たちが
楽器を鳴らしながらアミを応援してくれた
「あたし、家に帰ります!帰り方を教えてください」
動物たちが顔を見合わせた
クマのお母さんが「この森から出るには
帰りたい場所を強く思って歩くしかないの」と言った
「アミちゃんならできるよ!寒いから
これを持って行って」とクマの女の子が
自分のマフラーをプレゼントしてくれた
首に巻くと温かくて心がほっとした
それからクマのお母さんが
「もう夜で、暗いからこれを持っていきなさい」と
林檎の形のランタンを渡してくれた



それを持つと勇気が湧いてきた
「みんな、ありがとうございます」
アミはお辞儀をした、動物たちは
洞窟の入り口まで見送ってくれて
「メリークリスマス」と声を揃えて言う
アミも笑顔で「メリークリスマス」と手を振った
ランタンの灯りで暗い森を歩き出した

アミは動物たちと別れると
急に心細くなってしまったけど
クマの女の子にもらった
マフラーの先を強く握りしめて
勇気を出して一歩ずつ進んだ
でも森には看板も道もなくて
どっちの方向にも闇しか見えない
次第に林檎のランタンの光も弱まり
消えかけていった
真っ暗で冷たい世界のなかで
「サンタさん、お願いします
もう一度だけママに会わせてください」と
アミは祈るように願った


すると林檎のランタンの炎が強さを取り戻して
矢印のように進むべき道を示してくれた
「ありがとう、サンタさん」
その光の道に沿ってアミは進んだ
家につく手前で「アミ!!」と大きな声で
ママが走り寄ってきた
そしてアミの頭を強く抱きしめた


「朝からずっと町中探していたのよ」
真っ赤に腫らした目で言った
「ママ、わがまま言ってごめんなさい」
「アミ、世界で一番愛してるわ」
家に帰ると、アミの大好きな
苺のホールケーキが
テーブルの上で輝いていた
ママが「メリークリスマス、アミ、
ケーキ焼き直したのよ」と得意げに言う
アミは嬉しさで瞳をきらきらさせて
「メリークリスマス、ママ、愛してるわ」
雪を降らせる雲よりもっと高い空で
トナカイの鈴の音と
サンタクロースの笑い声が響いている

おしまい

*今回の絵本はコラボ作品で、僕が物語を作り、絵は千代さんというアーティストが描いてくださりました。千代さんの作品は下記のリンクから見ることが出来ます。是非、ご覧ください。


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