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学生時代に書いた小説を供養する

 学生時代、小説の執筆に没頭していたことがある。何度か新人賞にも応募したし、とあるサイトに投稿していたこともある。もちろん、箸にも棒にも掛からなかったわけだが。

 何故執筆するに至ったのか。その時の自分はどんな状況にあって、何を考えていたのか。つい先ほどまでそんなことをつらつらと書いていたのだけれど、筆を進めているうちに体温が上がっていくのを感じて、やはり御託を並べるのはよそうと思い、それらは消してしまった。
 とにかくあの頃は、特別な何者かになりたかったのだと思う。誰にでも生じる感情だし、実際のところ今現在でもそういった思惑は胸に秘めている。しかし最近は判で押したような日々に終始していて、これといった行動は何もしていないというのが現状だ。

 そこで、先ずは過去に書き上げたものをここの晒上げ、かつての自分がどれだけ未熟な状態で夢を見ていたのかを見つめ直すことにする。このつまらない人生から脱却するには焦りが必要だからだ。この恥じらいを「この程度の文章しか書けないまま老後を迎えたくはない」という気持ちに変換して、今後の糧にしようと思う。

あらすじ

 中学1年生の時に交通事故に遭い記憶を失った森和伸。彼は努力の末なんとか大学1年生になったのだが、ある日、不思議な夢を見た。
 
 舞台はかつて通っていた中学校。和伸は美術室の前で、彼を虜にした1枚の絵を描いた人物と待ち合わせをしていた。その人物は美術部員なのだ。 絵のタイトルは『愛』。二人の男女がいて、互いの胸に向かって手を伸ばし合っており、 それぞれの胸辺りにはハートが描かれている。暖色を基調とした色合いが温もりを添えていて、愛する誰かが寄り添ってくれているような心地よさが感じられる絵だった。
 美術室の中では顧問の話が終わり、活動が終了した。和伸が部員たちの顔を眺めながら絵の作者を待っていると、美術室の中から誰かの会話が聞こえてきた。聞き覚えのない男子生徒の放った言葉は、「君の心臓、見せてくれない?」
 夢はそこで終わる。

 和伸にはそれがただの夢なのか、それとも記憶を失う前の自分が経験した現実の出来事なのかが分からなかった。たしかなのは、夢の舞台である中学校が自分の母校であること、『愛』を現実で見た記憶がある気がすること、そして、絵とその作者に対して特別な感情を抱いていること。 気味の悪い夢に後ろ髪を引かれつつも、彼は平凡な日々を送っていた。
 必修科目で隣の席になったことで知り合い、以来なんとなく一緒に過ごしている高田雅文。知り合ってすぐに意気投合し、和伸が一目惚れした相手である佐々木梨花。中学・高校 時代からの親友で、大学もキャンパスは異なるものの同じところに進学した長谷川真優。その他多くの人と共に、和伸の大学生活は順調なスタートを切った。

 そんなある日、同じサークルに属することになった梨花から相談があると言われ、和伸は彼女の自宅に招かれる。和伸に持ちかけられた悩みは、正体不明のストーカーの存在。一人暮らしをしているアパートに、宛名のみが書かれた手紙が届いたのだという。 手紙の本文はたったの2行。「貴女の愛に心を奪われてしまった。貴女の愛を見てみたい。」 身に覚えのないストーカーに怯える梨花は、ずっと自分の傍に居て欲しいと和伸に頼み込む。始めは困惑した和伸だったが、彼女のある言葉によって、彼は彼女を守る決意をする。 「まだ出会ってから日は浅いけど、和伸くんと一緒にいると、なんというか……すごく安心するの。初めて話した時から、ずっとそう思ってたの」  和伸も同じだった。初対面なのにすぐに打ち解けられたし、なにより安心感を覚えたのだ。 こうして、和伸は梨花の家に入り浸るようになり、それに伴って彼の周囲の人間との関係は薄れていき、次第に彼女への依存を深めていく。そんな二人の元に、再び手紙が届いたのだが――。

 ストーカーの正体とその目的。和伸の過去。不思議な夢。一見ばらばらに見えるそれらは 『愛』によってひとつに結ばれ、そしてすべてが明らかになる。

※このあらすじは、とある新人賞に応募するにあたって僕が自分で書いたものだ。当時の自分の色をそのまま残すためにあえて原文のまま掲載する。しかし、いくらなんでも恥ずかしいよな。

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