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2023年良かった新作アルバム5選

 2023年。今年も粒ぞろいで相変わらず音楽を聴くのが楽しい1年だった。
 少し俗っぽい切り口で照れくさいのだけれど、年間を通して聴いた新譜の中からとくに良かった5作品を紹介しようと思う。

カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』

2023年1月24日リリース

 今年の新譜でいちばんリピートした作品。格付けはそれほど好きではない僕だが、初めて本作に触れた時は「今年のナンバーワンはこれかもな」と直感した。
 個人的にカネコアヤノは弾き語りよりもバンド形態のほうが好きなので、エレキギターのサウンドが光る本作はまさに好みのど真ん中だ。「わたしたちへ」「予感」「気分」「タオルケットは穏やかな」などの刺激的な轟音も最高だし、「やさしいギター」「眠れない」「こんな日に限って」みたいな温かみのある音色も聴き心地が良くてついつい再生したくなる。
 歌詞も相変わらずカネコアヤノの“らしさ”が詰まっていて最高だ。素朴さや弱さを恥じることなく、着飾ることもない等身大の言葉たちが並んでいる。とくに好きな一節としては「わたしたちへ」の「寄りかかることが怖い 愛ゆえに」を挙げたい。人から理解を得られないことも多い“繊細さ”を感情的に歌い上げる彼女に何度胸を打たれたことか。
 最後から2曲目が表題曲なのだが、その後にこれまでとは毛色の違う曲を登場させて締め括るのもひねくれていて好きだ。それはそうと、「もしも」を聴いたとき坂本慎太郎のソロ曲っぽいなと思ったのだが、まさか年内に彼とのツーマンが実現するなんて予想外だった。ちなみに僕はチケットが外れていけなかったのだが。


GEZAN with Million Wish Collective『あのち』

2023年1月31日リリース

 今年は新型コロナのパンデミックも徐々に落ち着きを見せ始め、“それ以前”の日常を取り戻しつつあった年だったと思うのだけど、その皮切りにはこのアルバムの存在があったんじゃないだろうか。
 20人近くの演者によって作り上げられた本作。見知らぬ国に暮らす世間から隔絶された民族で密かに演奏され続けている伝統音楽の様な、他に似ているものを見つけることなど絶対にできないと断言できるほどの唯一無二。アルバム全体の得体の知れなさにぞくぞくする一方で、「誅犬」などの賑やかなコーラスはどこか祝祭的なムードを演出する。かと思えば「TOKYO DUB STORY」のような切迫したメッセージ性を孕んだ楽曲もあり、聴く側を飽きさせないと同時に緊張感を張り巡らせる。さらには「We Were The World」のような比較的キャッチーな歌モノまで取り揃えている充実っぷり。なんとも感情を追いつかせるのに苦労するアルバムだ。
 過去作と同様に全曲通してシームレスに繋がっている点からは、アルバムをただの楽曲集ではない“作品”に仕立て上げることへのこだわりを感じる。近年はサブスクのみでシングル曲を先行リリースして、ある程度曲ができたらアルバムにまとめてフィジカル化するパターンが増えてきた時代だが、GEZANにはずっと今のスタイルを貫いてもらいたい。また本作の場合は時々語り部が入ることで一連の物語のように楽しむこともできるのも、中毒性を高めている一要素だ。
 歌詞は世の中に対するGEZANなりの主張を恐れることなく自分たちの言葉で綴っている。反戦を掲げた楽曲が多いのは、昨年世界中を騒がせたあの国の戦争に対して向き合い続けてきた結果なのだろうか。センセーショナルな話題に対して自分自身の意見をもつことがどれほど勇気あることか、想像に難くない。
 これも過去作にも言えることなのだけれど、GEZANの音楽は気軽に聴けない。いや、気軽に“聴いてはいけない”のだ。これは決して悪い意味ではないので誤解しないでほしい。人は自分に直接かかわりのないことから目を背けがちだが、彼らはそこに真っ向から立ち向かっている。そして聴いている僕たちに対し、思考を止めて生きていてはいけないんだと訴えかけるのだ。だからGEZANの曲は聴くのに体力がいる。しかも全編繋がっているから、最初から向き合うことを要求される。音楽は基本的に癒しであってほしいけれど、GEZANのような身が引き締まる音楽もないと楽しくないよな。


ドレスコーズ『式日散花』

2023年9月12日リリース

 本作はリリースイベントやツアーにも参加したし、LPも購入するほど夢中になった作品だ。
 決して暗くはない、むしろポップでドラマチックでなのに、なぜだか淋しい。「式日散花」はそんなアルバムだ。志磨遼平の歌声に若干エコー(?)がかかっている風のミックスがされているからだろうか、「ラブ・アゲイン」から「式日」に至るまでうっすらと冷気が漂っている。それでも聴いていて気分が陰らないのは、キャッチ―なメロディラインに長けた志磨遼平のなせる業だろう。
 これは雑誌のインタビューか、リリースイベントか、ライブのMCかのいずれかで語られていたことなのだけど、本作は死後っぽさというか、肉体性の無さをイメージして作られたらしい。たしかにどの曲も音数はそれほど多くなくこざっぱりとしていて、どこか抜け殻の様な印象を受ける。
 一方で歌詞を見てみると案外人間臭さが感じられるのが本作の面白い所だ。「抱いてもくれないなら、せめて先に出ておくれよ」「ぼくとおなじとこへ、はやく」「ぼくをだいてひとこと わるくおもうな、とそれだけでいいのに」等々、創作意欲の赴くままに音楽を作り続ける志磨さんらしい等身大の言葉たちが並ぶ。やはり最近の僕は変に着飾らない音楽が好きらしい。


羊文学『12hugs(like butterflies)』

2023年12月6日リリース

 本作は今年いちばんリリースを恐れていたアルバムだ。理由はあまりにも期待しすぎていたから。昨年リリースされた『our hope』は人生で聴いたアルバムの中でもトップ10に入るくらい大好きな作品だし、9月に見に行ったライブも期待を遥かに上回る満足感だった。しかも、年々じわじわと人気を高めていた羊文学だったが今年は大きく飛躍している。過剰な期待によって作品を純粋に楽しめないのではないか。人気をさらに爆発させるべく“売れる作品”を作ってくるのではないか。不安は尽きなかった。
 リリース当日、杞憂だったと反省した。宅録感のある「Hug.m4a」で意表を突かれたかと思えば、大ヒット曲「more than words」に続く「Addiction」「GO!!!」では羊文学らしいノイジーなサウンドと透明感のあるコーラスが鳴り響く。終盤の「人魚」では塩塚モエカの“声”がもつ魅力がこれでもかというくらい詰まっている。しかし持ちネタを擦っている感じは一切なくて、とくに「Flower」は儚さと壮大さを同時に感じ取るという未知の体験をした。
 ギターボーカルの塩塚モエカは、ライブのMCにて「オルタナティブロックで日本を牛耳りたい」と発言していたが、その発言を引っ提げて完成させた本作からは、“オルタナティブロックで”という部分へのこだわりが強く感じられる。
 まだリリースから日が浅いし、これから噛み続けていくうちにより多彩な味がしみ出してくるのだろう。とくに歌詞についてはまだまだ読み取れていないので、これからもたくさんの時間を一緒に過ごしていこうと思う。


家主『石のような自由』

2023年12月20日リリース

 年末だというのにとんでもない名盤が放たれてしまった。田中ヤコブはTwitterにて「自分の思う“ロック”のイメージを形にできた」と発言していたが、尖ったことや余計な味付けのないシンプルなロックがここにある、といった具合の作品だ。とくに印象に残ったのは、先行リリースされたシングル2曲に続く「庭と雨」。家主らしいバンドサウンドに加えて打ち込み?っぽい音が入っていて新鮮な気持ちで楽しめた。「部会」のイントロのギターもなんだか幻想的でカッコイイ。
 歌詞については多種多様な“弱さ”を綴っている。ただし、彼らは僕らを無理に元気づけたり正したりしようとしない。説教臭いことも言わない。ただ「人ってこういう弱い部分ももってるよね」と理解を示してくれる。本当に辛い時、いろいろと助言をされたり他人の見解を聞かされることは余計に自分を自分の内側へと追い込むけれど、家主の音楽はそんな僕たちの殻を優しく剥がして、あとは傍に居てくれるだけだ。それがたまらなく心地いいのだ。あえてひとつ選ぶとすれば「今日はひとりでいようね」の「雑な遊びで食いつぶす 時は金なり 欲しけりゃあげます 誰とも会わない記録を伸ばす」を挙げたい。効率が最優先される現代に疲れた時、何度でもこの曲に帰ってくる未来が見えるようだ。ギターソロもめちゃくちゃいいのでオススメ。


 以上、2023年に良いと思ったアルバム5選でした。
 こうやって1年を振り返ってみるの、案外悪くないね。次は今年読んだ本の振り返りもやってみようかしら。ではまた。

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