隣の女子大生

夕方5時の喫茶店。
珈琲とバナナケーキを頼んだ。
この喫茶店はただフラっと立ち寄った訳ではない。元々とても行きたかった、楽しみにしていた喫茶店だった。正面のレトロな字体で書かれた看板を見た瞬間の高揚感は想像通りだった。
さて、店の中に入るや否や中にいる客は中年の男女と間違えなく大学ヒエラルキーの上位であろう20代の女子2人。
この女子大生たちはどうやら美容院の話で盛り上がっているようだった。分かるよ、わかる私だって。同じ大学生だもの。髪の毛やそこらの身だしなみについて他の女子と共有したい時だってある。
ただ、気になった。声がデカすぎる。(こっちは念願のお店で珈琲とバナナケーキを嗜んでいるのだ。頼むから、そろそろ美容院の話は終わりにしてくれないか。いや、そもそも声がデカすぎるぞ。自分も複数でいる時こんなに声がデカいのかと思ったら少し恥ずかしい。)そんな事を思っていたら、彼女たちのカフェラテが出来上がった。少し安心した。これで、少しは目の前にある大好物に集中できるだろう。と。
安堵に浸っていると、隣では映え写タイムが始まっていた。そしてまた、爆音おしゃべり大会が始まったのだ。しかしその頃には女子大生たちの話を聞くことを少し楽しんでしまっている自分がいた。バレないように、本を読むフリをして右耳を傾けた。
右に座っている"髪の毛をギャル巻きしている女"はどうやらスタバで働いているいるらしい。そのことをとても誇りに思っていらっしゃるようで、意気揚々と"スタバ店員である私"を左に座っている"ケアブリーチのおかげでトリートメントが全く必要がない女"に必死にアピールしていた。ここまではまだ、私もあたかも本に集中しています風にして話を聞くことができた。しかし、この後のギャル巻き女の追い込みが凄かった。「それでさ〜、スタバの美味しいコーヒー飲み過ぎてぇ、マズいコーヒーとかインスタントとか飲めなくなっちゃったんだよね〜。もう、コーヒー好きすぎて依存症なの。」
だと。
私はこの話を聞きながら恥ずかしくて仕方がなかった。(え、もし自分が珈琲を熟知してコーヒーマスターになったとしても、何があっても、こんな恥ずかしいことは言えないよな。そもそもスタバのコーヒーが最高峰なん?いや、知らんが。このまだ無知かもしれん自分をこんな形で晒すことだけは出来ない。)と、思った。あたかもインスタント飲めないことがカッコいいことだというような小5みたいなことをおっしゃっていたので。
同時に女としてのプライドも感じた。隣に座っている奴にだけは負けたくないというような。しょうもないプライド。
そして、その隣のケアブリーチ女が話を戻した。どこまで戻るのかと思ったら、
「話戻すけどさ〜、私担当の美容師さんスタイリストに昇格しちゃって、予約取れないんだよねぇ。」
そこかい!そこまで戻るのかい!
そしてこれもまた女のプライドを感じさせる話の戻し方。
まるで絵に描いたような"オンナのマウント合戦"に右耳が巻き込まれたのであった。

p.s.
ただ、この空間で1番イタかったのは喫茶店で珈琲を飲みながらコーヒー・ブレイク11夜を読んでいる風にしていた自分であったことは間違ないだろう。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?