序章
あれは小学3年生とか4年生くらいの時だったんではないだろうか。セミの鳴き声がミーンミーンと聞こえるような、暑い夏の日中だった。
習い事に通っていた私を祖母が送り迎えしてくれることが時折あり、その日もそうだった。
時間になるまで祖母と私は、入口のドア近くに置いてあるイスに座って始まるのを待っていた。
そこへ出かけていたらしい先生のうちのお一人がドアを開けて入ってきた。
「こんにちは」
「こんにちは」
先生が通り過ぎたその時、フワッと独特な匂いがしたのを覚えている。
”何のにおいだろう”
ふと思った時に祖母が「あの先生は〇〇(私)と同じ病気だね」と言った。
病気……?
私は病気なの?先生と同じ病気って何だろう?
よくわからなかった。でも聞くのが怖かったのか、何について言われているのか、先を聞かずにグッと心の中に押し込めたように思う。祖母に言われたことはその後もぼんやりと思い出したり思い出さなかったりした。
そしてそれは年月を重ねて段々とわかってくるのである。もしかして。もしかして私は……
もしかして。もしかして祖母があの時言ってたのって……
認めたくなかった。まさか、そんな。自分からそんな匂いがするなんて
どうして、なんで、どうすればいい
認めたくない気持ちと、そうなんだといううっすらとした、けれど確信めいた諦めに近いものが混濁していた。あのころ。
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