間違いだらけのリスクマネジメント 情けない!1人のクレーマーに負けた長野市 ―青木島遊園地廃止問題―

世の中はリスクに満ちている。人は様々なリスクの中で暮らしており、意識する、しないにかかわらず、リスクに対して何らかの対応をしている。
しかし、リスクマネジメントの知識がないまま感覚・感情で対応し、新たなリスクを発生させたり、更に大きな損害を被ったりするなどの問題を起こしている事象が多々見られる。
本稿は、様々な事例をもとに正しいリスク対応の仕方・考え方について考察するものである。

青木島遊園地廃止問題

   本件の概要は、極めて多数の記事がネットに掲載されているので省略する。
   本稿ではリスクマネジメント(クレームリスクの対応)の観点から、問題点を絞り、検討する。第1にクレームを入れている「一住民」は被害者と言えるのか? 第2に「一住民」は悪質なクレーマーではないか? 第3は長野市のクレームに対する判断・対応の問題 、である。

1.「一住民」は被害者か?
  クレームの原因である騒音について、長野市の担当者は「測定の記録はございません」と回答している。騒音問題を議論するのに音量や1日での時間数、月間の回数などのデータなくして、被害の事実や程度を合理的に判断できるのであろうか? はなはだ疑問である。しかし、近隣の他の世帯からクレームはなく、「別にうるさいとは思っていない」「子供の声は気にならない」との意見が聞かれることから、大した騒音ではない。と判断される。
また、クレームを言ってきたのは「一住民」の1軒であることから、「一住民」の勝手な思い込みであり、特に被害を受けているとは言えず、「一住民」は被害者ではないと判断される。

2.「一住民」は悪質なクレーマーか?
クレーマーとは、頻繁に苦情を言いに来る人、しょっちゅうクレームをつける人、などの意味の表現である(weblio辞書)。「一住民」は、2004年の遊園地開設から何度も執拗に苦情を入れ、2021年3月には児童センターに直接苦情を言いに来ている、館長には「対応するのもなんかね。へきえきしてしまう」と言わしめており、「一住民」は正しくクレーマーと言える。次に、クレームが悪質かどうかの判断である。
悪質クレームとは「必要以上の金品を要求してくるクレーム」「解決困難とわかりながら申し立てる無茶なクレーム」などと定義されています。判断する際のポイントは、(1)回数の多さ(2)不当な金銭要求、過大な物品要求、無理難題などの要求の有無(3)因果関係が明らかか否か(4)不当な方法(恐喝、暴力など)であるか(5)業務妨害(長時間、多頻度)に抵触するか─などの要素が挙げられます。(池内 裕美 関西大学社会学部教授)
「一住民」は、子供が無音で遊ぶこと、遊ぶ人数を制限することなど実施困難な要求しており、「解決困難とわかりながら申し立てる無茶なクレーム」であると言える。無理難題な要求、因果関係が不明(騒音の事実が不明)、業務妨害(多頻度)に抵触することから悪質なクレームと判断される。

3.長野市の判断・対応
(1)騒音の計測
 騒音のクレームに対しては、その事実を確認するために、「一住民」の自宅室内での音量を計測するのが常識と考える。しかし、長野市は行っていない。計測によって「大した音量ではない」と判断できれば、それだけで問題は解決したのである。

(2)クレームに対する対応
 ツツジを植える、出入り口の場所を変更する、ボール遊びを禁止するなど、長野市は「一住民」のわがままなクレームの言いなりになり、結果的にクレーマーを増長させている。
騒音については、その音量の計測すらせず、防音工事も行っていない。飛行場や幹線道路、線路の近くなど騒音の大きいところでは、防音工事(防音壁、室内工事など)で騒音を軽減するのが一般的と考えられるが、長野市はなぜそれを行わないのか疑問が持たれる。

(3)他世帯の意見聴取
 「長野市は何故、一世帯だけの意見を聞いて、他の世帯の意見をきかないのか」「残念でならない」と批判されている通り、騒音でクレームを付けているのは1軒のみ、他の世帯はなんとも思っていないと回答し、逆に遊園地の存続を望んでいることから、一世帯のみの意見を聞いて、他の世帯の意見を聞かないという長野市の対応は不可解と言わざるを得ない。 
 
(4)「他に選択肢がなかった」の言い訳
 長野市の担当者は「選択肢がなかった」と言い訳している。対応策としては、先ず騒音の音量を計測し、問題となる音量でなければ「一住民」をデータに基づいて説得する。納得しないのなら「悪質なクレームによる業務妨害」として訴訟すると伝える。それでも納得しないのであれば訴訟を起こす。裁判になれば長野市が勝つのが明らかだろう。
他の世帯の意見からしてありえないが、騒音がもし問題のレベルであるのなら、室内の防音工事を提案する。室内工事を拒否するなら防音壁を提案するなどの施策も考えられる。
長野市は最初から廃園を前提とした検討をしたため、他の選択肢を見出すことができなかったものと見られる。長野市の言い訳は怠慢によるものと言わざるを得ない。

(5)「一住民」を誹謗中傷から擁護
 本件には、ネットで極めて多数の意見が出ているが、その多くは「長野市の判断・対応ミス」と「一住民に対する非難」である。「一住民」の悪質なクレームに対して社会が拒否し、非難しているのに対して、長野市は「一住民に対する非難」を「絶対にやめてほしい」と擁護している。
社会に害をなす悪質クレーマーは非難されて当然である。なぜならそれを放置すれば更なるクレームによって、大きな害を及ぼすのが明かなためである。よって排除しなければならない。それにも関わらず、長野市は悪質クレーマーを擁護しており、社会の批判を受け止める力がないこと、正しい判断ができないことを世間に公表しているのに等しい。
 
(6)間違ったリスク対策
 リスクマネジメントのリスク対応策の一つに「回避」がある。「リスクの回避」とは、リスクの発生そのものを消滅させるか、リスクの発生による損害をゼロにする施策である。リスク対応策の中で最も強力な対応策となる。しかし、リスクの種類によっては実施困難な場合がある。また、多大な資金や労力、時間を要するなど極めて大きな負担を強いられる場合もある。更に「リスクの回避」には、その実行によって、本来得られるべき利益も完全に失うこと、場合によっては質の異なる別の大きなリスクを発生させることもあるいう大きな問題が存在する。
 長野市は、本件のクレーム(リスク)に対して、遊園地をなくせばクレームはなくなるというリスク回避の対策を選択したのである。しかし、その実施によって、数百人の子供たちは遊び場を失うという損害を受けている。またその事実を知った一般市民からは数百件の苦情、ネットでは1万件を超える批判が掲載され、長野市の信用に大きな損害を与えている。
安易なリスク対策が、新たなリスクを生むという「愚の骨頂の策」であったと言える。

今後、長野市はたった1人のクレームであっても、公園でも幼稚園、学校、競技場、寺院、幹線道路、飛行場、線路(汽車・電車)、火葬場、葬儀場、墓地でも、なんでも全て排除、閉鎖するのか? 如何なる対応をするのか? 注視したい。

以上


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