恐れすぎか? 事なかれ主義か? 間違った新型コロナのリスク対応   ー日本一周クルーズ中止事件ー

1.事件内容
 9泊10日の予定で日本一周をめざし、2021年4月29日横浜港を出港した商船三井客船(東京都)の船「にっぽん丸」が、2021年5月3日、横浜市の要請を受け、クルーズを中止し、大分県の港から引き返し、横浜港に帰港した。   尚、乗員乗客計約480人に新型コロナウイルスの感染者はいなかった。
横浜市は、「全国的に医療体制が逼迫しており、万が一陽性者が出た場合、寄港先で適切な措置を取れる保証がない」と説明している。
クルーズ船を巡っては、乗客1人の感染が判明した「飛鳥2」が2021年5月1日、横浜港に戻っている。
「にっぽん丸」は、新型コロナウイルスの影響を受け、約8カ月にわたりクルーズ運航を中止していたが、国土交通省の「クルーズの安全・安心確保に係る検討・中間とりまとめ」や日本外航客船協会と日本港湾協会の感染予防対策のガイドラインに準拠した「にっぽん丸・新型コロナウイルス感染症予防対策マネジメントマニュアル」を作成し、日本海事協会の認証を受け、2020年11月に一般募集型のクルーズを再開したものである。

2.判断
 「にっぽん丸」の運行中止の判断について、筆者は間違っていると判断する。なぜなら、
①日本海事協会の認証を受けての募集、運航であり、「にっぽん丸」の感染防止対策は所轄官公庁も認めたもので、その効果もあって、一人の感染者も出していない。
②横浜市は寄港地の医療体制を憂慮しているが、船自体が隔離施設となって、船内で完璧な対応が可能であり、かつ陸上の感染拡大も防止できるという利点もある。少なくとも船内での対応についてはダイヤモンドプリンセス号の事件によって、知見を得ており、十分な対応が検討、準備されている。
③横浜市の要請は、感染に対する感情的な恐れであり、科学的根拠・合理性を欠いていると言わざるを得ない。
④お上である横浜市の要請には逆らわない方が得策と考えたのなら、サービス業を営む事業者としては、顧客を蔑ろにした、間違った、安易な決断と言える。
⑤緊急事態宣言下において、外出制限や休業・時短要請などの自粛が求められているなか、「金持ちのレジャーはけしからん」という社会的批判をかわすのが目的であるなら、批判は極一部の一時的なものであり、将来の顧客募集に影響を及ぼすとは考えられず、旅行代金の返金や乗組員の給与支払い、チャーター代、寄港地のキャンセル料、食材・サプライ用品などの支払いを考えるなら、リスク回避のためのコストとリスク発生による損害は見合っておらず、間違った対応と判断される。
⑥リスクの回避は、完全にリスクの発生を遮断するという意味で効果的な施策であるが、得られるかもしれない(得られるべき)利益を完全に失うという欠点を持つ。本件の場合、運航を継続すれば、中止に伴う支出を回避できるという利益が得られるばかりでなく、準備・実行した対応策の効果を検証することができ、今後の感染防止対策に役立てられるという利益を提供することができるのである。
以上

注:本稿は事件発生当時に作成したものです。

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