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ヲタクと老いとロックンロール

好きな音楽のジャンルと言われると、やはりロックが一番好きなのかも知れない。しかし生まれて初めて買って貰ったCDはとんねるずさんのガラガラヘビがやってくるである。もしも私がロックスターだとしたら、少しばかり話を盛ってビートルズのホワイトアルバムとかかっこつけちゃったりするのだろう。きっと二万字インタヴューとかで。それはもう、かっこつけちゃって。

先日というか昨日チバさんが亡くなったのを知った。正直、アベさんが抜けてバースデイになってからはほとんど追っかけてはいなかった。社会人になるとライブハウスに行くどころか、自分の為に音楽を聞くこともほとんど無くなり忙殺されていった。

それでもリヤシートからミルキーウェイへとシトロエンの孤独は続くし、ジプシーサンディーは砂漠で踊り続けるし、紅茶飲み干してパンを焼きながら世界の終わりを待ち焦がれているのだ。

あれほどかっこよくタバコを吸うバンドマンは居ない。私にとってバンドといえば黒スーツだ。それがロックだ。ロックスターなんだ。たぶんそう思うことにしていた。かっこいいとはああいうことだ。

音楽を聴くうちに精神と記憶は退行していく。アイドルブームに馴染めない私はロキノンジャパンを読みながらハマったばかりの椎名林檎を口ずさむ。出席日数が足らず滑り止めの高校を受ける資格すらなく、まさに「数字ばかりの世に浮かぶ」だった。川を見ながら泣きながら口ずさんだのを思い出す。音楽は可哀そうな私の数少ない魂の慰めだった。TMGEを知ったのは林檎ちゃんがブランキーの浅井さんことベンジーが好きで歌詞にも登場していたから聞いていて、ブランキーが好きならコレも聞くべきだと匿名掲示板に書かれていたから。私の居場所は2ちゃんねるの椎名林檎板かYahooチャットにしか無く、学校の行き帰りには禁止されているウォークマンを聴きながら田舎のクソ風景とアホみたいに傾斜がある坂をチャリで立ち漕ぎしながら帰った。何も無い、本当に何も無い街。街ですらない町。きっと東京以外の地方で生まれた人間は、きっとみんなこんな感傷を一度は抱いていたんだろう。でも、私にはそれを共有したり慰め会えるような友達は居なかった。みんな何だかうるさくて忙しなくて、私はまるで間違って地球に墜落してしまった宇宙人みたいだった。学校には嫌な思い出しかない。北朝鮮と刑務所とCIAを足したみたいな、密告制度でギチギチで誰も信用出来なかった。恐ろしかったし怖かった。キラキラとした眼で隣のクラスの女の子の上靴を隠したり、娯楽が無いから人は低い方に流れる。教師もお気に入り以外の生徒はカスとでも言いたそうにして、毎日同じことを繰り返すだけのロボットみたいだった。まるでベルトコンベアーに乗せられて大人の都合の良いようにされて出荷される、工場みたいだった。学校に行ってる間、私は完全に心を閉ざしていたし誰も信用出来なかった。とにかく、早く大人になってこんなクソをよく煮詰めた肥溜めみたいな町から逃げ出したかった。

でも音楽を聞いている時は嫌なことも、母親とソリが合わないことも、家に全然寄りつかない父親に愛されていないし関心すら持たれてないことも、全部忘れられたから。発売日になって近所のお店にCDを買いに行くしか生きる楽しみが無かったから。音楽が無かったら、いつか誰かが見知らぬ人にあてた手紙のような言葉たちが無ければ、きっととうにダメになっていたから。だから音楽には救われた。確かに救われたと思う。だから、そういったものを作ってくれた人がこの世から去ってしまったことが、私は純粋に悲しい。喪失、空白、虚無、後は懐かしさ。それらの感情が波間のように押し寄せては引いていく。浜辺に残った貝殻を丁寧に拾うように、私はまたロックを聴いた。

もうロックなんて随分聞いていない。音楽なんてもう自分の為に聞かないし、歌わなくなってしまった。だけどそれでも、いっときでも歌を聞いている時だけは、悲しいことや嫌なことを忘れられたでしょう?それって魔法みたいだって私は思う。

多分昨日、世界から魔法がまた一つ消えちゃったんだと思う。だからこんなに寂しいんだ。もうロックなんて随分と聞いてない。でも、かっこいいって言葉はチバさんの為にあったとすら思う。ロックンロール。

とりとめのない言葉が蛇口から捻り出した水みたいに溢れてくる。多分彼らは永遠になったんだ。この世界に彼らの作った音楽は残るし、会いたくなったら動画で見れる。だから、きっと寂しくはない。でもやっぱり、この世からかっこいい存在がまた一つ欠けてしまったのは悲しい。だからこんな日はさっさと寝てしまおう。

チバさんみたいにタバコの火をかっこよく燻らせる大人になりたかった。なりたかったんだよ。

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