ニンカオの感想・もし自分だったらを考える

ざっくり紹介

女性を殺してしまう病原菌出て、女性が全員死んでしまった日本。その病原菌は男性には無害だが、特殊な方法で感染してしまった男性は、体内に子宮ができて妊娠可能な男<ニンカオ>となる。
ニンカオになっても、突然胸が大きくなったり髪が伸びたり自認が女性になったりしない。変わらぬ見た目のままで、妊娠が可能になるだけだ。
女性のいなくなった世界でニンカオに対する出世差別があったり、ニンカオが出産した女児に対してジェンダーロールを強制するような教育が行われたり、「女性がいればこんな役割しなくて済むのに」と思うニンカオがいたり、いろんな場面でグロテスクな差別が描写されている作品だ。

1コマに1つはキッツい差別があるレベルなので体力をすごく消費する漫画だけど、ここに出てくる差別の話は、現実の女性差別でたびたび聞かれる差別の話。この漫画では、ニンカオになってしまった男性が差別を受けていたり、元々の女性差別に巻き込まれたり、あるいはそんな立場におかれてもなお女性蔑視的な意見を持っていたりして、非常に……興味深い。
ニンカオというある意味SFチックな存在のおかげで、物語としての距離感で読めるのもいい。

ニンカオの面白さ

ニンカオ、という設定は、男性が普段意識せずに持ち合わせている「自分は妊娠しなくてもいい」という前提をぶっ壊し、そのうえで現実の女性差別を再表現しているところが面白い。

僕らは生まれたときにほぼ全員、身体的にはどちらかの性別で生まれてくる。だから多くの男性は自分が「子供産む側になるかもしれない」などということは考えない。子供が欲しいというとき、それは当然のごとく誰かに産んでもらう想定だ。自分につわりが来て、お腹が膨れて、激痛とともに産み落とすなんてこと、考えたことない人が多いと思う。

当然、妊娠や出産を原因に就職や出世ができなくなるかも…とか、あるいは妊娠させたくて仕方ないタイプの暴漢に襲われる!とか、そういうのは基本的には他人事だ。

「妊娠・出産に紐づくあらゆる不都合が今後自分に降りかかることは絶対にないし」という前提をぶっ壊してくるのがニンカオなのだ。

もし自分がニンカオになったら

男は妊娠しないという大前提を崩すニンカオの世界では、自分がどの立場になるのか想像するだけでもかなり面白い。
例えば、ずーっと男性として生きていて、不慮の事故でニンカオになってしまうとしたら…どう思うだろうか?

想像してみると、結構ショックだ。「自分が妊娠する側になるなんて思ってなかった」「これからの仕事どうするんだよ」「誰かの子を産まなきゃいけないわけ?」みたいなのがグワッと脳裏を駆け巡る。

同時に「女性がいるならそっちに任せたい」とも思う。「こっちは生まれつきは男性で、産む覚悟なんかなしで生きてきてるんだ。最初から産める性別である女性で全部やってほしい。」と。

妊娠・出産について、自分の番は来るはずないと余裕かましていられたのに、そうじゃないとわかると途端に不安と不公平感でぐっちゃぐちゃになる。

言語化するとほんとニンカオの登場人物たちのように差別的で甘ったれたこ感想だ。でもせっかくこんな面白い設定の漫画読めたら、自分に置き換えて考えてみたいし、その感想はとりついたくない。

作中では自ら進んでニンカオになる「選択ニンカオ」もいる。実際にニンカオではない普通の男性だった場合、選択的ニンカオになるかどうか?というのを考えてみても面白いかもしれない。僕は想像したけど、性格上選択ニンカオは難しそうだった。

最後に

もし自分がニンカオだったら?というのは、ぜひ女性にもやってみてほしい…。(実際、この漫画を読んでいるのはほとんど女性なのではないだろうか)

だって、この漫画は否が応でも「男性が妊娠したら?」を考えさせる内容だ。すごく嫌味な言い方をすれば、妊娠ができるという女性の立場を想像してこなかった男性たちに対してのフィクションの力で分からせていく(そして読者はそれを見守る)作品だ。

それを楽しむのであれば、同時に「自分が妊娠しなくてもいい立場だったらどう感じていた?」というのも考えてみてもいいんじゃないだろうか。
僕みたいに甘ったれた考えになって、「うわぁ~!自分思ったりより嫌な奴だな!」って思うこともあるかもしれないけど、まずその「この程度の意識になっちゃうかも」的なものを想像してみるのも面白いと思う。

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