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KOUMI100/2021.10.8-10

長いレースを走り終えると、まったく別の人になってしまったような気分になることがある。今回のKOUMI100もそうだった。この感覚は2日経った今でも続いているので、もしかしたら本当に別人になっちゃったのかもしれない。

KOUMI100とは

KOUMI100は1周35キロのコースを5周する100マイル=175キロのトレイルランニングのレースである。僕は2016年と2018年にも走っているので、これが3回目の挑戦となる。

KOUMI100

コロナでいろいろなレースが中止になる中、KOUMI100は粛々と開催された。同日開催予定だったハセツネカップは中止になったがKOUMIはやるだろう。僕もみんなもそう思って準備した。そういうレースなのである。

そしてみんなの期待通り、KOUMI100は今年も開催された。

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36時間

朝の5時にスタートして、コースを2周すると夜になり、さらに2周すると朝がやってくる。最後の1周はまた昼間の時間帯を走り、翌日の夕方にゴールする。

制限時間は36時間。長いように思えるが、走ってみるとこのコースで36時間というのはわりと足りない。

周回コースなので同じ場所をぐるぐる走っているはずなのに、時間帯が違うとまったく別の道を走っているみたいな気分になるから不思議である。

今年のレースは晴れていたので(途中ちょっとだけ細かい雨が降ったけど)、昼間は汗をかくくらい暑く、夜はその汗が冷めて震えるほど寒かった。昼間に見えていた紅葉は夜になると満天の星に変わった。

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僕の今回のフィニッシュタイムは32時間42分41秒だった。コースが違うので厳密には比べられないのだけれど、2016年と2018年は34時間台だったので2時間近く縮めたことになる。悪くない。でも欲を言えばあと30分縮められたと思う。

1st 4:54:33
2nd 5:33:13
3rd 6:42:54
4th 7:59:55
5th 7:32:06
total 32:42:41
113位

1周目

1周目は、これまでの2回に比べて明らかに調子がよかった。登りのセクションもギアをこまめに変えながら走ることができたし、心拍も低く抑えられていた。

そう思っていたら最高到達点からの下りで石につまずいて派手に転倒。ラッキーなことに膝をすりむいた程度ですんだが、その後も続けて2回転ぶ。2年ぶりのレースで気が焦っていたのかもしれない。もっといける、もっといける、ずっとそう思いながら走った。

ハイテンションのままロード区間へ。トレランポールを取り出し、右の地面を軽く突いたとたんにポールが折れた。たぶん転んだ衝撃でヒビが入っていたんだと思う。

というわけで僕は今回、一度も使うことなくポールを失った。あと30分縮められたかも、というのはポールをうまく使えていたら、もしかしたら体力的にも違っていたのかもしれない、という仮定である。それよりもポールがなくなったおかげで300グラムくらい軽量化できたわけだけれど。

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装備について

靴はHOKAのtorrentとmontrailのbajadaを持っていき、スタート時の天気を見てHOKAを選んだ。ザックはultimatedirectionの12Lくらいのやつに

レイン上下
エマージェンシーキット(ブランケット、ポイズンリムーバー、薬)
食料(ようかん、エナジージェル)
水(600x2)
ライト・予備電池
iPhone・バッテリー
トレランポール(折れたけど)

これらを詰めた。

ウェアはインナーにファイントラック、あとは地元チガジョグTシャツとパタゴニアのショーツ。G-shock。装備のトラブルはポールが折れたこと以外は特になかった。

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2周目以降

2周目3周目も崩れることなく前半から追い上げることができた。2周目の途中で尊敬するランナー友だちが応援に来てくれてさらに元気が出る。

長いレースはフィジカルなトレーニングはもちろんだけど、メンタルの安定も大切になってくるのだ。友だちに会えたり選手同士で声をかけあったりすると、つらい場面でも耐えられちゃうものである。

当初の予定どおり3周目までは無傷で終えることができた。特に大きな崩れはなかったし、2周目まではしっかり走って順位を上げられていたはずだ。苦手の下りでガンガン抜かされたような気もするけど、あれはきっとお化けかなにかだ。

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ペース配分

長いレースで全部を出し切るのは難しい。とにかく最後まで走り切るため前半に攻めすぎてはいけないのだけれど、この見極めがむずかしいのだ。攻めすぎるとつぶれるし、守りすぎると走り終えたあとに余力を残して、もったいなかったなと後悔することになる。

その点、今回はうまく使い切ってゴールすることができたように思う。同じレースを3回走ってるから当たり前かもしれないけれど、どの周回のどの位置でどのくらいのダメージなら最後までいけるか、なんとなく先読みして組み立てられていた。

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胃腸薬

トラブルといえるほどのトラブルはなかったのだけれど、3周目の最後で胃が気持ち悪くなり、しばらく固形物を食べることができなかった。僕はランナーがよく走りながら口にしているエナジージェルが苦手で、今回も固形物が食べられなくなってから仕方なく1本だけ飲んだのだが、その1本でも震えるくらいダメだった。

今回のレースで走りながら食べたのは

ようかん6本
ウイダーみたいなゼリー飲料5本
粉飴3本
おにぎり4個
パンをいくつか
柿の種
スポーツドリンク2リットル

消費カロリーから比べてぜんぜん足りていないと思うけど、これ以上はどうしてものどを通らなかった。ようかんはしっかり噛んでも飲みこめなかったので無理やり水で流し込んだ。4周目の途中でたまらず胃薬を飲む。

5周目のスタートの前に寄ったトイレでおしっこが赤くなった。これにはさすがにちょっと引いたが、だからといって体感的に不調なところはどこもなかったので見なかったことにして5周目に向かう。

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5回目のニュウ

今回はこれまでの2回と違って、友だち二人と一緒に参戦した。これはほんとうに楽しかったし心強かった。レース中もずっと互いのことを気にしながら走った。すれ違い区間では友だちが現れるのを心待ちにした。

5周目はさすがに疲労で動きが鈍っていたが、集中力は途切れなかったし、心配していた眠気もまったくなかった。不思議なことに今回は幻覚もひとつも見なかった(前回は山の中で船を見たのだ)。

これまでの2回でも同じことを思ったのだが、5周目の最高到達点、ニュウに着いた瞬間の解放感はいま思い出してもしびれる。ゴールの瞬間よりもしびれる。ここまで来たらあとは下るだけなのである。ケガをしないよう、そして余力を残さないよう、全部使い切るだけ。ご褒美みたいなものである。

レースが終わってしまうのだと思った。感謝をこめて道しるべのテープ一つずつにタッチしながら走った。

ゴール手前で先にリタイヤした友だちが待っていてくれた。嬉しかったけど、やはり複雑である。だって一緒にゴールするために来たはずだろう。なんで途中でやめんだよ。

とはいえレースは自分とコースとの戦いである。人のレースにとやかく言う権利も余裕も僕にはない。やめるにはやめるだけの勇気と考えと、辛さがあったはずだ。

彼のためにもこのコースをこてんぱんにしてやろうと、最後まで歩かずにゴールへ向かう。

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練習について

ゴールした後に一緒に走った友だちから「安藤さんはたいして練習してないのにどうして速いのか」と言われた。

それは僕にもわからない。練習が足りてないから現状把握が足りずに無茶な走りをしているのかもしれない(実はわりと練習やってるんだけどな)。ただ、僕は毎回意地でもゴールするつもりでレースに来ている。ケガ以外でのリタイヤはそもそも選択肢にない。

あと去年くらいから心拍数を意識してトレーニングをするようになった(低いところで長く維持する練習、徐々に高いところまで持っていく練習)。結果的にこれも効果があったように思う。

それから、僕らくらいのレベルの市民ランナーにおいて、100キロ強の長さのレースはメンタルが結果の半分くらいを占めると思う。フルマラソンだときっとフィジカルの割合がもっと高くなるんだろうけど、距離が長くなればなるほどメンタルの重要度が増すのだ。

メンタルはフィジカルと同じく鍛えられる。それには練習中もレース中も、とにかく考えることだと思う。具体的に何を考えるのかというと

現状と限界との距離感
失敗を後悔せずにリカバーする方法
次のセクションでの走り方

このあたり。あとはポジティブさをキープすることも大切だと思う。嫌になったら無理してでも笑う、これに尽きる。僕は今回、ほぼずっと笑っていたから周りから見るとやはり気持ち悪かっただろうと思う。

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走り終えて何かが変わったような気もするし、変わってないような気もする。

これで同じ大会を3回走ったからもういいかな、と、終わってすぐは思っていたのだけれど、やっぱり30時間を切りたい気持ちがむくむくと湧き上がってきているのも正直なところである。えー、またやるのー、どうしようかなー。

KOUMI100とは、そういうレースなんです。

2021年10月13日 出張中の大阪で書いています。

1st 4:54:33
2nd 5:33:13
3rd 6:42:54
4th 7:59:55
5th 7:32:06
total 32:42:41
113位

4周目より5周目の方が速いのが誇りです。


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