心霊談

「魂でもいいから、そばにいて 3.11後の霊体験を聞く」奥野修司著

という本を読売の書評かなんかで興味を持って読んだ。小説だがいとうせいこうの「想像ラジオ」も同じような題材。

そもそも幽霊がいるいないみたいな話題は極めて難しい。科学がどんなに否定したところで、いる人にとってはいることが現実だからである。

この間Netflixで観た「ホース・ガール」という映画も、妄想型統合失調症が題材にある映画だった。周囲からはどんなにおかしいと思われても、本人にとって現実である以上、これはもうどうしようもないのだ。

ちょっと話は逸れたが、自分は幽霊を観たことは一度もない。けれど実体験したことは一度だけある。

大学四年の秋ごろだったろうか、後は卒業を残すのみといったような時間を持て余していた頃、思い立って初めての1人旅を計画してみた。

行先は四国。

まず新宿駅から夜行バスに乗り、淡路島を通過して香川県高松へ。ひたすら本場の讃岐うどんを梯子して、たらふく食べた。一日目は駅の近くの安いビジネスホテルで一泊。本来であれば次の日は朝一で特急に乗り、愛媛県に移動、道後温泉近くのちょっといいお宿を予約していたので、そこで温泉につかってゆっくりする算段であった。

ところがなんせ旅のタイミングが悪かった。二日目は朝から台風が四国を直撃。特急は全線運休で高松駅で足止めを食らった。やけ食いでうどんをもう一杯(もう全然飽きていておいしくなかった)。仕方なく何とか見つけた漫画喫茶で時間を潰すことに。多分6時間くらいだろうか。一体何をしに四国まで来たのやらトホホ・・・と大変気を落としながらも、夕方18時頃になってやっと電車が動くとのアナウンスが。道後温泉までは大体3時間くらい。まだ間に合う!すぐさまお宿へ電話して、チェックインがかなり遅くなるが泊まれるかを確認。気を付けてお越しくださいとの丁寧な対応を受け、せめて一人旅最後の一夜、部屋でゆっくり過ごそうと、特急に乗り込んだ。

愛媛につくと既に店など閉まっていて辺りは真っ暗。送迎のタクシーに乗って目的のお宿へ到着。チェックインをしようとすると女将が思わぬことを言う。

今日は大変だったでしょう。もしよろしければ、ご予約いただいていた部屋よりも1ランク上質なお部屋が空いてございます。ぜひお値段そのままで、そちらをご利用くださいませな。

これは願ったり叶ったり。というわけで女将にお礼を言い、案内されたのは1階の客室で一番奥の角部屋。荷物は案内係の人が持ってくれて、こちらですと部屋に一歩踏み入れた瞬間から・・・

なんかおかしい

入った瞬間から明らかに空気が重たい。ここだけ重力が違うみたいだ。そして元々予約していた部屋は1人用の部屋であるにもかかわらず、和室、リビング、ベッドルームと3部屋もある。1ランクアップというか、、あの、広すぎますけど?

それではごゆっくり。かなんか言って早々に部屋を後にした案内係。まあ広い分にはいいか。和室とか、使わないけど。と思い、とりあえず大浴場で身体を休める。そして部屋に帰ってくると、うーん、やっぱり入った瞬間雰囲気が違う。なんだこれ。

とりあえず買ってきたビールを一杯。テレビをつけっぱなしにして、オフタイマーを付けて明らかに広いベッドに横になる。台風はすっかり上がって外は静か。気づいたらそのまま眠ってしまった。らしい。

目が覚めたのは部屋の中をドカドカ歩き回る足音のためだった。

目を瞑って寝ぼけている自分は、最初は、ん?なんだ?という感覚であったが、自分のベッドの足元を明らかに誰かが歩いていることに気づいた自分は、これは夢であったとしても無かったとしても目を開けたら見てはいけないものを見てしまいそうで、グッと目を閉じたままジッと足音を聞いていた。

ドカドカ

というのがふさわしいほど、足音ですよ~と主張しているがごとく、明らかにそこに何かがいるのがわかる大きさと感覚。

ずっと我慢して、あ~夢であってくれーと思っているとふと、足音が消えた。おっ、と思ったその瞬間に「ブンッ」と音を立ててテレビが付いた。

ザーザーザー

しかも砂嵐。なんで!?思わずわっ!ともきょっ!ともふえっ!ともつかない変な声を出して飛び起きてしまった。反射的に起きちゃったけど、よかった。とりあえず足音の主はいない。(少なくとも僕の視界には)

いやよくない。テレビがザーザー言ってる。怖い。人間の頭とはよくできていてパニックになりながらも冷静な自分がいる。寝るときテレビ見てたから、寝返り打ったとこにリモコンを踏んじゃったんだろう、これは。と何とか論理的に考えていた。で、リモコンは?ない。ない。怖い。

最悪なことによく見たら、リモコンはきっちりテレビの目の前に置かれていた。えええ、、またフッと思った。これテレビを消したら、画面暗くなる。テレビのサイズはまあまあデカい。部屋になんかいたらどうする。考えただけで最悪。そこで自分はとりあえず砂嵐をどうにかするために、1chのボタンを押した。ザーザー。変わらず、砂嵐。

えっ!?じゃあ4ch。ザーザー。6ch。ザーザー。

完全にパニックに陥った。いくら夜中で田舎だからって(別に韻を踏んだわけじゃない)、全部砂嵐ってありえる!?なんで??なんで??パニック状態でリモコンのボタンをポチポチ。すると「地上デジタル」のボタンを押すと、通常のテレビ番組が画面に映った。

ああ、、アナログ放送になってたから、どのチャンネルにしても砂嵐だったんだ。なあーんだ。

なんだじゃないわ!

なんでアナログ放送なんだよ。誰が寝る前にわざわざアナログ放送の砂嵐にしてから、オフタイマー付けてさあ寝よう。ってやつがおんねん(これは怨念とかけているわけではない)。

足音の時点ではまだ寝ぼけているだけかなあと思っていた所謂「霊障」が、がっつり電化製品を通して明らかな現実として起こってしまった。この時点で夜中の3時過ぎ。さあどうする?テレビはありがたいことにやかましく通常の番組を映している。でももう頭では「呪怨」のワンシーンを思い出す。怖くてテレビを付けたら、レポーターの顔が奇妙に歪みはじめ「ああああああ」となるあれだ。テレビが付いてることすら怖い。でも静寂も怖い。悩んだ結果、テレビを聞こえるか聞こえないかくらいの音量にした上で、掛布団を頭から被り、布団の中でYouTubeでお笑い番組を観るという手段をとった。お前なんか怖くないぞという幽霊さん側へのアピールも兼ねて、「はははは!」と必要以上に笑った。あんなに内容の入ってこない漫才・コントは後にも先にもあの時だけである。

朝6時までそのスタイルで乗り切ったところで、大浴場が開く時間=ロビーに行けば人がいる!と思い、私は逃げるように猛ダッシュで部屋を出た。ヨミは的中。早速大浴場にも3~4人の一番風呂目当ての宿泊客がおり、とりあえず風呂に入ることで緊張状態から脱却した。窓を見るとようやく日が昇り台風一過の快晴で朝日が差し込んできた。よし・・・乗り切った。

せっかくのいい宿、いい客室。チェックアウトの時間までだらだら満喫していたかったのだが、もはや一刻も早くここから出たい。さっさと荷物を片付けよう。と、部屋に戻って一歩踏み入れたその瞬間。

うわっ・・・やっぱりおかしい。

すっかり忘れてた。最初からこの部屋おかしかったわ。朝でも関係ないんだ。明らかに入った瞬間からおかしい。そしてもう一つ気づいた。朝なのにやけに暗い。もういよいよもって早く帰りたい。角部屋で日が入らないのか?と窓を見ると朝日が少し差し込んでいる。ちょっとでも部屋の中を明るくしようと、分厚いカーテンをざっ、とおもいきり開けた私は完全に絶句した。

外は一面の墓だったのだ。

ええ、なにこのベタな落ち。もう答え合わせされているような感覚に陥った。フザケンナ。と女将に一発食らわせてやりたいくらいの気持ちになった。とりあえず荷物をまとめ朝食も食べず、駅までの送迎を依頼した。まだ朝の7時頃。タクシーの運転手は宿で働く、若めのお兄さんだった。

あの、角部屋に泊まってたんですけど、あそこ出るんですか?

「ええ!?お客さん視える人なんですか??聞いたことないですよ」

視えたことないですよ!(キレ気味)でも、出たんですよ昨日!全然寝れなかったし、朝カーテン開けたら、思いっきり墓じゃないですか!(ブチギレ)

「まあそうですけど・・・へえ、出るんですねえ」

ちなみにその後は、本家の道後温泉でひとっぷろ浴びて、畳の休憩室で昼寝。坊ちゃん電車に乗り、松山の街を探索。松山城にも一人で登った。

正直、正味半日しかいなかったのだが、愛媛は自分が過去に行った日本の街の中でもかなり好印象な風情ある街並みだった。

だいぶ長くなったが、自分が明らかな霊障を体験したのは道後温泉でのこの一夜だけである。

ただねえ、九州のばあちゃんのはなしとか・・・

これはまたの機会にしましょうかね。

結果、何が言いたいかというと、幽霊がいるいないはともかくとして、実際に体験してしまうと、それは当の本人からしたら事実として残っちゃうんだよね。

だから大切な人が亡くなった時に、自分のところに最後に逢いに来てくれた。とか、それはその体験した本人にとってはまぎれもない真実であって、それ以上でも以下でもないと思うのです。

死んだら、世話になった人に挨拶回り行くもん。絶対。

そりゃ墓の隣にいれば、挨拶回りから帰ってきた霊が通ったておかしくないでしょう。でもテレビ勝手につけるのとか、マジやめて。

長文失礼しました。九州の話、聞きたい人いたらまた書きます。

以上

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