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Ep7 リチャードの碑文

いやぁ、いつも教えている生徒さんが帰国してたんでしばらく来れなかったんだよ、ごぶさただったな。リチャードに会うのは四週間ぶりだ。しばらくお話できなかったんでと、彼はカバンをゴソゴソとまさぐり始め、くしゃくしゃの模造紙を取り出すと、そこにとある「詩」を書いてみせた。

私の先祖のJohn Peelという人物の墓に彫ってある詩だ。見てみろ、Kenって書いてあるだろ?北イギリスやスコットランドではKenはknow、つまり、知るという意味なんだ。私の先祖はハンター(狩人)だったんだ。人望がとてもある人物だったんだぞ。そんな彼を称えた碑文なんだ。読むぞ。

灰色のコートの男JohnをKenしてるか?陽が昇らないうちに馬と猟犬と遠くへ行ってしまったその人のことを。

しばらく会えなかったから、次ケンに会った時は絶対このことを言ってやろう!とたくらんでくれた、そんなリチャードの僕への思い、そしてその用意周到さが嬉しくも、ちょっぴり照れくさい。

いやぁ、シンプルだけど、なかなか味わい深い詩だね、リチャード!しかも、さっき言ってたKenって入ってるね、なんだか名誉に感ずるよ!そう感激の意を表しつつも・・・自分の本当の名前は実はKentaroで、KenはKenでも自分のKenは健康の健だから、knowの知るとか、いやぁぜんぜん関係ないんだけどなぁ・・・という、心のつっこみにいかんいかん!とつっこみつつ、僕は、ほぉー、ほぉー、と大げさなリアクションをとりながらも、遠い異国の墓石に刻まれたKenの文字を思い浮かべてみるのだった。

最後に、別れ際に聞かれた。ケン、そういえば日本の戦国時代のビッグウォー、セキガハラで戦ったサムライは、トクガワとイシダ・・・なんだっけ?三成だよ、と答えると、こう言われた。”You, Ken!”

画:久保雅子 www.masakokubo.com/

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