蜘蛛
ある夜
洗面所に小さな蜘蛛がいた
今まで見たこともない蜘蛛だ
平べったい体
沢蟹のような細長い足
その場から全く動かない
不思議な蜘蛛だ
翌朝
蜘蛛はまだ洗面所にいた
昨日と僅かに位置が変わっただけ
やはりピクリとも動かない
同じ日の夜
洗面所に蜘蛛はもういなかった
私は蜘蛛が動く姿を
遂に一度も見ることはなかった
蜘蛛は、沈黙の中に何を見たのだろう
生命の様相を
ある一線で区切るとしたら
彼は、どこまでも植物だった
樹木が 草花が そうするように
彼もまた 静かに忠告していた
君たちは、
あまりに言葉が多すぎると。
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