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離陸

会社の女性陣が、おやつにドーナツを食べたいと、聞こえなさそうで聞こえる声で、それでもほぼ命令形で主張してきた。
ドーナツを進んで食べる男性は、私を含め周りにはいない。
あれはほぼ、女性が食べるものだと思っている。
あんなに甘く、油で揚げてカロリーも高く、買ってはくるが、たくさん食べて大きくなるがいい、などと口にしようなものなら、セクハラだと騒がれるので、はいはいかしこまりましたと言って出かけた。

仕事が終わり、近くのドーナツ屋さんに行った。
案の定、店内の客は、年代問わずほとんど女性だ。
何を選んだらいいのかわからないが、並んでいる間、甘そうでカロリーの高そうなものを目で選んだ。
あとは、前のおばさんが買えば私の番。
あれとこれとそれと・・・、おばさんが選び終わった。

テイクオフ、でね。

なんの不自然さも躊躇もなく、サラッとおばさんは言った。
思わず笑いそうになった。
店員の若い女性は、一瞬固まったものの、たぶん必死に笑いをこらえながら、手際よく箱に詰め始めた。

次は私の番だ。
しまった。どうしよう、何を言えばウケるんだ?
テイク・・・オン?テイク・・・オーバー?
あんなに上手く言えるのか?
ドキドキした。

お待たせしました、どうぞ。
店員の女性が私を呼んだ。
あれとこれとそれと・・・、私は選び終わった。

テイク・・・アウト・・・で。
女性は淡々と、さもつまらなさそうに、手際よく箱に詰め始めた。
いや、これが普通だろ、と思いながら、おばさんのような堂々とした言いっぷりができない自分の情けなさに、少し呆れもした。

女性陣に、恩着せがましさを一切見せず言わず、買ってきたよと一言、ドーナツの箱を手渡した。
え〜?、これぇ?、なんでハイカロリーなヤツばっかりなのぉ?
堂々と口を揃えて文句を言われ、これじゃパワハラだよな?と思いながら、ごめんねと謝り、自分の情けなさに、また少し呆れもした。


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