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静かなるゴールデンウィーク

吾輩はねこまなり。名はいまだ無し。
いづこに生れしやほうとはかりのつかぬ。すべて薄暗きじめじめせるにねうねう泣ける事ばかり覚悟せり。吾輩はここに始め人といふものを見き。


都電荒川線、都電雑司ヶ谷駅を降りた。
真っ青な空に、広がる緑。
その風景の奥に高層ビルがそびえ、目の前にはグレーの墓地が整然と並び続ける。

ゴールデンウィークとは無縁の静けさが包む雑司ヶ谷霊園。
都内の人混みを避けるべく結果、ここに辿り着いた。

自動販売機で冷たいブラックコーヒーを買い、誰も座っていない、木陰の木製ベンチに座った。
コーヒーを飲みながらネットで調べてみると、至るところに、知った面々が眠っていた。

そのうちの一人、夏目漱石の眠り場に行ってみた。
それまでの文語文から、言文一致の現代文を作ったわけで、「吾輩は猫である」をはじめ、今の文学の祖を成し得た。

こうしてたくさんの本を読めるのも、漱石のおかげかと、一際大きい墓石に一拝し、薔薇咲く出入り口を後にし、カンカンと鳴る踏切を渡って駅に戻った。


吾輩は猫である。名前はまだ無い。
どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。

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