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プロフェッショナル

『坂道のアポロン』というアニメがある。
青春ものであるものの、ジャズの要素が半分以上入っている良きアニメだ。
主人公のひとりがジャズピアノを弾く場面、この実際のピアノを松永貴志というジャズピアニストが演じている。
アート・ブレイキーの『Moanin ’』をオルガンで弾くエンディングは、実にダイナミックそのものである。

その松永貴志がデビューして間もない頃、何度かライブに足を運んだ。都内では、渋谷のJ'Z BRATでよくライブを行っていた。当時から、パワフルな演奏と繊細なタッチのギャップがよく、おまけにサービス満点、予約をしてまで聴きに行った数少ないライブであった。しかし、ファン層にはお姉様が多かったため、オジサンは遠慮して後ろの席で聴くことにしていた。

後ろの席、実は意外とよく、関係者席も後ろにあるため、休憩時間になると彼と会話ができた。向こうは覚えていなかっただろうが、「オジサンでごめんな」と言っても、意に介さず「全然いいっスよ」と言ってくれる好青年だった。一度、手を見せてもらった。指が長いと思いきや、普通の手だった。比べたら、さほどオジサンと変わらない。「ゴッツいっしょ」と照れながら言った。この手でどうしてあんなに弾けるのか不思議だった。

プロの世界、特にスポーツの世界では、先天的なものを持ってる人間がどうしても有利になるケースがある。あの人は生まれつき有利だ、と思うことがあるはず。しかし、成功者の、今の成功している姿だけを見、羨ましがったり当たり前だと思ったら、それは間違いである。
陰では、当然、常人の想像を絶する努力をしている。挫折もしているはず。むしろ、仮に初めから先天的才能を持っていたとしても、本人はそれに気づかない。「私って、なぜかきっと人より上手にピアノが弾けると思う」などと思う人は決していない。

人は、自分で興味を持ち、自分で調べ、自分で学び、自分で努力しない限り、どんなに優れた先天的才能を持ってたとしても、功を成し得ない。他人にお膳立てされるものでもない。逆に言えば、才能がなくても努力次第では、大きく開花することもあり得る。人のことを羨んだりする暇があったら、まず自分自身で努力しなければならない。他力本願では何も事は進まない。人のせいにしてはいけない。

「もっと指長ければなぁ、っていつも思うんスけどね。しゃーないから、ガンバってるんスよ」
当時、事もなげに言った彼の言葉に、プロ魂を感じたものだった。


ベランダにいた方が涼しく、椅子に座って本を読みながら、iPad から流れてきた『Moanin‘』を耳にし、自戒の念を込めながら思い出し書いてみた。


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