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人間顔認識能力の低下

 わたしは人の顔が覚えられない。幼稚園に通い始めてから自覚している。
最初に断っておくと、その人に興味がないとか好きじゃないとか、そんなことは一切関係がない。人間の顔が覚えられないのである。もはや猫の方が顔が覚えられそうだ。
 物事を画像で覚えることが極端に苦手で、人の顔を覚えるときは「眉毛の下にホクロ、パーマ、唇が厚い」のように、言葉で3つほど覚えるようにしている。なので、「パーマ」が「黒髪ストレート」に変化してしまうとアウトである。
 学生時代は本当に苦労した。クラス替えがあるまでの一年間をかけてさえ完璧に覚えられず、二、三人は区別がついていない。体育の時間などは、体操着に名前が書いてあるので、答え合わせができてホッとした。どうしても名前が分からない時は、近くにいる友達が、その子の名前を呼んでくれないかと聞き耳を立てていた。そうしているうちにクラスが変わり、また振り出しに戻る。
 わたしの通っていた高校は、二、三年生はクラス替えがなかった。さすがに二年間同じクラスなら覚えるかと思ったが、正直怪しい。当時の担任が、間違った熱血体育教師で、「テストで赤点を取るやつが出たら、席替えを実施しない」と二年生の初めに言った。席替えがしたいから勉強頑張るぞ!というほど幼くもなく、白けた空気で一致団結していた。結果、二年間同じ席、廊下から二列目の一番後ろの席を死守した。席がアイウエオ順なので、座っている間は全員の名前がわかって便利だったが、友達になった人たちはア行からカ行に集約されていて、窓側の列との交流はないに等しかった。(これは、わたしがずっと席に座って、ぼんやり過ごしていたせいだとは思うが)アイウエオ順に甘えて、名前を覚えるのを疎かにした為、わたしの人間顔認識能力は退化する一方だった。
 そして店をはじめて、さあ困った。一体、一日に何人と顔を合わせているんだろう。すべての人の顔を覚えるのは困難だが、せめて何度も店に来てくれる方や、たくさん話した人のことは覚えたい。iPadのメモ欄は、大量の文字でビッシリだ。「涙袋、髪の毛染めてる、〇〇ちゃんに似てる」「背が高い、オシャレ、黒髪」
見返したところで全く思い出せないが、覚えるんだぞ、と己の脳に指令を出す。それでも知り合いなのか判断がつかなくて五分五分な時は、思い切ってフレンドリーに話しかけてみる。そして「今日初めて来たんです」と言われて撃沈する。初めて来たのに、なんだか馴れ馴れしいなと思ったらおそらく勘違いしています。すみません。


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