見出し画像

発達性トラウマの正体を知る!第4の発達障害「発達性トラウマ」とは?


発達性トラウマ『生きづらさ』の正体(みきいちたろう著:ディスカヴァー携書:2023)を読む。

発達性トラウマとは?

第4の発達障害

「発達性トラウマ」とは、第4の発達障害として定義(第一が精神遅滞、肢体不自由など古典的な発達障害、第二が自閉症やアスペルガー症候群、第三が学習障害、ADHDなどの軽度発達障害という分類に続いて)し、「発達性トラウマ障害」が、虐待や幼少時の不適切な養育などによるトラウマ(発達性トラウマ)によって複雑性PTSDに至るものとする。

複雑性PTSDとは?

P T S Dは、「再体験(フラッシュバック、悪夢など)」「回避(トラウマとなった思考、感情、事物や状況を避ける)」「脅威の感覚(過度の警戒心)」の三症状で定義され、それに加えて、「複雑性PTSD」とは、PTSDの三症状(再体験、回避、脅威の感覚)に加えて、三症状(感情調整の障害、否定的な自己概念(無価値観)、対人関係の障害)がある場合に診断される。

生物における「ストレスに対する脆弱性」の変数の理解の重要性


筆者は、トラウマを傷として捉えるのではなく、「ストレス障害」として、捉えることが有効的であるとしていた。それとの関連で、筆者が挙げていた“生物における「ストレスに対する脆弱性」の変数”である(1)〜(4)の要素は、ストレスとの関わり方、付き合い方との関連から重要である。
これらの要素をしっかりと理解し、日頃からストレスに上手に付き合うことが大切であると再確認。
(1)【予測可能性】不規則で予測できない場合の方がストレスが強くなる。
(2)【コントロール可能性】自分でコントロールできるか否かが、ストレスに大きく影響する。
(3)【感情の表出、フラストレーションの発散】フラストレーションの発散ができなかった影響は長時間続く。
(4)【ソーシャルサポート】社会的な生き物である人間にとって、ソーシャルサポートは生存の基盤であり、つながりが切れることは心身に重大なダメージがある。

トラウマの克服のためにできること

学校現場にも、トラウマを抱える子ども、大人が少なからず存在している。
本書で、筆者が「トラウマの克服」のために挙げていた次の項目は、そうした生きづらさを抱える子ども・大人へのアプローチにとっても重要である。

(1)環境を調整する
・外的な環境を見直す ・家は必ずしも安全基地ではない ・環境調整とは、自分を大切にすること

(2)身体(自律神経など)を回復する

(3)自己(主体、セルフ)を再建する
・自己を抑えて理想の状態を目指す「ログアウト」志向を止める
・ニセの責任、ニセの役割に気づく:自分が悪い。他人のせいにせずに、自分でなんとかしなければならない」と考えない。
・自己(主体、セルフ)から始める:自分を大切にするということを前提に、自分の都合で考えて、自分の欲とは何か、何がしたくて、何が欲しいか、とシンプルに考えることを心がける。
・1人称で考え、感じる:思考や発話の中に、常に「私は」という主語をつけて考えるようにする。

(4)記憶・経験を処理する

(5)他者(社会)とのつながりを回復する
・幻想から自由になる手段の1つとして「関係は”機能”として捉える」という方法がある。機能不全の場合で、改善が難しい場合は、距離を取る、場合によっては、代わりに機能を果たしてくれる人と関係を結ぶ必要も出てくる。
・自分を開くのではなく、しっかりと閉じることを意識する:生きづらさを抱える人の多くが社会性がないためではなく、社会性過多であるために、社会とつながることができなくなっている。トラウマを負った人は、自分をうまく閉じることができないままに、開こうとして敗北を繰り返している。健全な人格形成、愛着形成とは、しっかりと自分を閉じることだと言える。それが自分自身を大切にすることであり、自分の内側に安全基地を持つことである。
・完全に満たされることも理解されることもない。対人関係の回復を妨げるものとして、自分を完全に理解されることを相手に求めてしまうことがある。完全に満たされようとして他者に求めては落胆し、また求めては気が利かない相手をこき下ろしてしまう。

健全な子ども集団、教師集団のために

5つの自殺予防因子抽出研究より

最後に、自殺率が日本で最も少ない徳島県海部町(現・海陽町)を対象とした和歌山県立医科大学による「自殺予防因子」抽出研究より、自殺の少なさの要因として、次の5つのことが挙げられるということが指摘されていた。
(1)異質な要素を受け入れ、多様性を重視する
(2)人物の評価は多角的に長期に行う
(3)有能感・自己信頼感を醸成する
(4)問題は早期に開示させ、早期に介入する
(5)緊密すぎない、ゆるやかなつながりを維持する

問題の外在化ができる関係づくりのため

これらの要素は、子どもたちが取り結ぶ関係性の基盤だけでなく、教師集団の中における人間関係づくりや集団づくりにも応用されなければならないと感じる。

特に、「信頼できる知り合いに愚痴を言う」ということは、臨床心理的にも、「問題の外在化」(悩みが解決する際に、問題が自分から離れ、客退化、相対化されていく現象)の観点からも、上記(4)との関連からも重要だと考えた。日常の実践の中に取り入れていきたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?