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~オンナが作る幸せの舞台裏~結婚式に潜む顔1⃣             


ウエディングエッセイ

【人生最高といわれる一日】


今日も新郎新婦にとっては、生涯に一度の大事な一日、結婚式。

でも彩美にとっては、いつもの景色である。
毎日違う舞台を見ることが出来、参加することができるこの仕事が気に入っている。

ブライダルヘアメイクの仕事に就いてもう10年以上だ。
年間約100件以上、新しい夫婦の誕生に携わってきている。

彩美はその経験から、式場選びや演出には、新郎新婦の結婚式というものに対する想いや、普段の物事に対する考え方が現れることを感じていた。
それは彩美自身が、仕事に入るときの心構えのポイントになっている。

結婚式には、それぞれのバックグラウンドがある。
障害があり、ようやくこの日にたどりつけたふたり。
思わぬことで、急遽この日を迎えるふたり。
強いこだわりや夢を膨らませ、この日を待ち望んでいるふたり。

二人の想い、両親の気持ち、友人来賓の想いそして期待。

友人、知人の結婚式に出席された方の、ほとんどが「いい結婚式だったね」そんな、ほんわかした気持ちでその日を終えるのではないだろうか?
もちろん主役として結婚式を挙げた多くの当人たちも同様だろう。

しかし!
その舞台裏で信じられないようなストーリーがあることは、
誰も想像していない。

彩美も、まさかこの日のラストに、おそらく生涯で最も返答に困ることになるとは、、、、

【夢である「幸せ」を演出するために】

「おめでとうございます!今日はよろしくお願いいたします!」
「お天気良くて、よかったですね」
彩美は仕事の度にテンションを上げ、そう声をかけるのだった。

「ホント!よかったです~」
「デザートビュッフェ、私も食べていいんですか?」
「もちろんですよ!タイミング難しそうでしたら私がお持ちしますから、ご安心下さい!」
「絶対クレームブリュレは食べたいんです。お願いします!」

挙式当日、雨が降らないでくれたら、それだけで結婚式の裏方スタッフは一安心する。

なぜなら。。。。
彩美の仕事現場は、当時大人気のゲストハウス型の結婚式場だったからだ。

そこの披露宴会場は、ヨーロッパのいくつかの国のイメージで建てられた洋館となっていた。
花々に彩られた広いガーデンにはグリーンの芝生が広がり、パラソルの下にはガラスのカフェテーブルと白いチェア。

夢見る女子が好きな、映えポイントが盛りだくさん。
このタイプの式場を選ぶ二人に多く見られるのが、、、

彩美のカテゴリーでは『結婚式がゴール』タイプ。

ガーデンではウエルカムドリンクとピンチョスのサービスから、パーティーがスタートする。
特に多くの新婦の強いこだわりの演出が、披露宴の後半に設定されている。

そろそろ二人が厳選した、BGMが流れる中でのお食事タイムが終わるころだ。
彩美は会場キャプテンとアイコンタクトをし、新郎新婦に声をかける。

するとその瞬間、ガーデンに面したカーテンが一斉にオープンする。
そこにはウエディングケーキを始めとする、色とりどりのデザートと南国フルーツの数々が、キラキラとした景色として瞳に飛び込んでくる。

新郎新婦が先頭切ってガーデンの中央に並び、ゲストへ手招きをする。
二人の両脇では制服マジックをかけた、複数のイケメンパティシエも整列してゲストを出迎えた。

この「ザ・幸せ」シーンを絶対にゼッ~タイに、演出したいのだ。

ヘアメイク兼アテンドという、一日中新郎新婦にべたつきの業務の彩美としては二人には、いや、特に新婦にはご機嫌でいてほしいのである。
それがこの大事な一日が円滑に回る、そして無事に終わる、第一の条件とでもいえる。

この日担当させていただいた、新婦も強くそれを望んでいた。

「体調は大丈夫ですか?少しでも、異変があったらお申しつけ下さいね」

新婦には、間もなく産まれる命がお腹に宿っていたのである。
結婚式の日というのは、想像以上に新郎新婦にとっても体力を使う一日である。
お腹が大きくなっている妊婦にとっては尚更のこと。

彩美は新婦の動きと、顔色を重視しながら、担当プランナーや会場のキャプテンと連携しつつ一日をアテンドしていた。

ガーデンでのデザートタイム。
片手にインスタ映えするデザートを、お皿いっぱいに盛ったお友達が、新婦の周りに集まって来る。

大きくなったお腹を触りながら
「もうすぐだね~」「どっち?男の子?女の子?」などの会話が飛びかい、ほのぼのした空気が流れる。

始終ニコニコと微笑み、時には声を上げてケラケラと笑う楽しそうな新婦。
(ホットしながら、あ~今日も無事にミッション終了だな~)

体調も安定していて、幸せいっぱいの披露宴がお開きとなった。

【女優になるしかない!】


控室に戻りドレスを脱いだあとの新婦は、身体が解放されてリラックスした様子だった。
新郎は着替えの為、別部屋へスタッフが案内していた。  

「次は出産に向けて全力投球ですね」                 彩美は、鏡の前に座った新婦の髪をほぐしながら話しかけた。

好きな人と、夢だった想いのたくさん詰まった結婚式を無事に終え、次は生まれてくる我が子に合う日をドキドキしながら待つ。                               

「楽しみですね!」
誰もが言うであろう、そして盛り上がるであろう会話の糸口を、彩美は切った。。。

つもりだった。。。
まさかこの後、我が耳を疑う言葉を聞くとは想像もせずに。


「でもこの子、
彼の子かどうか、わかんな~い」

(ん? なんて言った今)

「他の人とも付き合ってたから。外人とかも」

(ん????)

(えっ???)

(マジかーーー)

(そんな秘密の暴露されてもーーーー)

新婦から不安がる様子や、困ってる様子があまり感じられなかった。
それは、彩美の思考が停止していたからだろうか?

「大丈夫!元気なお子さんを生んで下さい」

動揺を隠すためにでた、唯一のセリフだった。
彩美の頭の中はぐるぐるしていた。
(どんな言葉が欲しくて、こんな重大なことを私に言ったのか?)

この仕事をしていると時々、女優にならなくてはならないシーンに出くわす。

何が「大丈夫」なのか?

彩美は自分で言いながらも、アメリカ系?アフリカ系?もしや中東系?
アジア系なら大丈夫かも?とか。。。

もし、もし、万一のことがあったとき。

肌の色が違ったり、髪の色が違ったり?

その新生児を取り上げた助産師さんも、私のように?
いや、私以上に女優にならなくてはいけないであろう。

そんな日が、来ないことを祈るしかないと彩美は願った。

末永くお幸せに。

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