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インタビュー|服部みれい ロングインタビュー(後編)

先週につづき、本書を企画・編集した服部みれいのインタビューをお届けします(前編はこちらから)。2020年、13年めとなった冷えとりライフを通じて、いまの自分のからだ、こころはどう見えているか、現代社会の傾向、未来の形とは……? まさに今、からだやこころに不調を感じている人に、読んでいただきたいお話です。


――お話をうかがっていると、すごく冷静にご自分のことを観察されているように感じます。冷えとりをしていると自分を客観的に見られるようになるんでしょうか? 

冷えとりももちろん関係あると思いますし、あと、瞑想をしていることもあると思います。自己参照性がある程度高くなるというか、からだやこころに意識が向きやすくはなりますね。

たとえば、子どものころ、大変な虐待を受けていたある人は、常に自分の思いを殺す癖がついていて、自分がどう感じるか、どう思っているかが自分でまったくわからなかったそうです。でも、冷えとりをはじめて、からだの声が聞こえるようになったとおっしゃっていました。頭寒足熱の生活をしていると、自然に自分へと意識がむくようになるんだと思います。冷えているとからだの機能がくるってくるから、食べすぎていても気づかなかったりします。

ある50代の女性は、乾燥肌だったのが、冷えとりはじめて肌がすごくきれいになったそうです。まわりからも同じようにいわれるそうです。化粧水がいらなくなったという方もいます。冷えとりで潤いを保てるってすごいですよね。クリームや美容液がやたらと必要っていうのは、自分の中にある潤いを出す力が弱まってるから、ともいえます。逆にいえば、現代的な都市生活をしていると、自分自身が自然な状態ではなくなり、いろいろなものを足さないとならなくなる。そういう人間がたくさんになると、消費活動が活発になる。ものを売る側の立場が過剰になってくると、自分で潤いを出せない人が増えれば増えるほど儲かる、みたいなシステムができあがっていったりもすると思うんです。さらに過剰になっていけば、足りないものを喚起するようにもなっていったり……。そういう渦のなかにしらずしらずに巻き込まれ、「自分は足らない」「自分には何かを足さないと」と思い込まされたりして、依存の循環に入っていっているかなと。


――冷えとりでからだのくるいを元に戻せるってうれしいですね。

からだのくるいは、自然から離れ、頭ばかり使っていることから起きていると思います。症状が出ることを悪いことだと思いがちだけど、症状はSOSなんですよね。症状が出たら、まず治そうと思うのではなくて、その症状に耳を傾ける。たとえば、うつっぽくなって、つい涙が出ちゃうような状況だったら、緊急の場合は、薬も役立つでしょうが、薬がなくてもいい状態ならば、何が何でも薬で止めて治そうとするんじゃなくて、どうしてこんなに涙が出るんだろうという感情の部分にフォーカスする。そこに最大のヒントがあるんじゃないかな、と。しっかり休むなどして、そこをしっかりと見つめることができたら、次へのステップにつながるはずです。症状や出てきていることには重要なメッセージが含まれていて、それに気づかない限り、本当の意味での治癒はやってこないのかな、と。いたちごっこになってしまうんですよね。


――しっかり休んだり、自分を見つめたりできないのは、つらいからでしょうか?

うーん、どうなんでしょうか。そういうことに慣れていないとか、働いていないと、動いていないと不安ということもあるのかも。

人って元気で明るくてたのしい状態がふつうなんだっていう思い込みもすごい気がします。でも、人間だから調子が悪いことあるし、無理したら悪化するし、いやなことがあれば傷ついてうつっぽくもなりますよね。3年間ずっと落ち込んでいる、という状況だってあると思うんです。その状態を自分でもまわりも許してあげられたら、どんなにすばらしいかと……。

わたしの場合は、30歳代の前半に、潰瘍性大腸炎になったのですが、人生で大変なことが3つも4つも続いたら、病気にだってなりますよね。それをなかったことにしたら、からだがかわいそう。しかも、大変なことが続いたということの原因は、わたしの中にあったのだというところまで気づいたところで、ようやく、症状をつくる大元みたいなものが解放される気がします。

たとえば、症状が出ていて、腸が子どもだとしたら、目の前で子どもがギャン泣きしてるわけです。子どもが泣いていたら、部屋に押し込めるのではなくて、部屋から出してあげて「どうしたの?」って聞いたり、背中をさすってあげたり、おいしいもの食べさせたりするのが、親である自分の役目ですよね。こころを部屋に押し込めているケースもあると思います。からだとこころはつながっているから、原因はからだかと思っていたら実はこころだった、と。いずれにせよ、いつかは部屋のドアをあけなくてはいけないんです。1つ1つのことに立ち止まって、向き合う。目の前のことをよく見る。なによりまず、子どもが泣いているという事実を認める。それが自分を大切にするということだと思います。


――確かに、ネガティブでいることがダメだというムードはありますね。

それって厳しいですよね。わたしも若いころはネガティブで、うまくいってなかった時期も長かったんです。

現代社会のシステム自体がポジティブでいることを要求してるのかもしれないですよね。そのほうがものは売れるし、消費も活発になりますよね。がんばって熱を薬で抑えて出勤したり、雪や台風の日に行列に並んで会社にいったり。なんだかその姿がロボットみたいに見えたりして……。会社に行くか行かないかという決断さえ、個人でできなくなっているのだとしたら、ちょっとホラー映画みたいな感じもします。だからこんなに、体調が悪い人や精神状態が不安定な人が多いのではないでしょうか。自分以外のものに、自分をむりやり合わせすぎなんだと思います。各症状は、「ねえ、気づいて!!」とちゃんと声をあげている。その声に気づいてあげないと……。症状に気づいて、冷えとりをはじめるのもいいし、そもそも冷えとりじたいが、その声にきづくからだづくりの基礎となると思います。


――今回、9年ぶりの『冷えとりスタイルブック』となりますが、この9年にみなさんが自分にあった冷えとりスタイルを探した結果が、豊かに反映されているのを感じます。

本当にそうですね! 今回、制作をして、冷えとりを続けてこられたかたに、本当に不調がなく、若々しく、しかも幸福であることが証明されてしみじみと感動しました。

これからの時代は、ひとりひとりが自分の内側から出たものをしっかり表現して、したいことをして、それがみんなと調和する。そういうほんとうの意味で豊かな世界がたちあらわれていくと思っています。そういう世界観が、この誌面によくあらわれている。あたらしい未来のかたちの片鱗が、この本にはちゃんと表現されている、と。


これからは働き方も経済もパートナーシップも変わっていくと思うんです。たとえば結婚っていう制度もいずれなくなって、個だけになる。だけど孤独じゃない。拡大家族のような形で暮らす人もいるでしょうし、家族の概念もまったく違うものになっていくように思っています。そのさきがけ的な周波数も、この『冷えとりスタイルブック』には入ってるように感じます。


もうすぐ未来に立ち現れてくるあたらしい世界って、こころの冷え……我執がない世界。ひとりひとりが目醒めていて、ひとりひとりが違っていていいという世界。それでいて調和をしている世界だと思うんです。

冷えとりはそういう世界を支えるベースになると思いますし、冷えとりをしていると「自分は自分でいいんだ」って心底思える。自分のことが過不足なく好きになるし、たいせつにできるようになるんです。そういう自分だと、ちゃんと人のことも大切に愛せるようになる。自分を大切にできているから、ほんとうの意味で利他的になれる。ここで本物の循環がはじまるのかなと。

しかも、冷えとりをつづけていって、からだとこころの循環がよくなっていくと、自分がウィークポイントだと思っていた部分も、「いいじゃん!」って思えるようになります。すでにあるものを愛せるようになるってすごく豊かですよね。足さなくていい。この本は、そうやってみんな生きていいよって、肯定している気がします。

冷えとりにはさらにすばらしい点もあります。わたしも、人一倍からだが弱かったのに、今は人より強くなったと思います。すごくタフになったし、集中力がすごく増しています。疲れ知らずで仕事もしっかりできる。これらは本当に冷えとりのおかげです。

からだを土にたとえるなら、以前は農薬や肥料がたくさん入っていて、冷たくてかたくて、さらに肥料を入れないと育たなかった土だったのが、冷えとりのおかげで、あたたかくて、ふわふわでほくほくで、やわらかい土になった。こういう土だと、やたらと栄養素を加えなくても、元気でいられるようになるんですね。自分という土の改良がだいぶ進んだから、種をまくと上手に育ちます。土壌改良がすすむと本当に楽だし安心です。どんな天候になってもそれなりに対処できるし、ダメだったらあきらめられる。人と比べなくなるし、いやなものはいやといえる。自分がいい土壌でいることが、本当に幸福でいるために大事なことだし、幸福そのものだとも思っています。

(聞き手=アマミヤアンナ)

*『冷えとりスタイルブック』では、エッセイ「冷えとりが、じんわりたのしいわけ」(48ページ〜)と、「服部みれいが愛する服」(50ページ〜)をご紹介しています。ぜひ、ご覧ください!

服部みれい【はっとり・みれい】
文筆家、マーマーマガジン編集長、詩人。9年前に『冷えとりガールのスタイルブック』(主婦と生活社=刊)を企画・編集。主著に冷えとりの体験がくわしく載っている『あたらしい自分になる本』シリーズ(ちくま文庫)。近著に『わたしの中の自然に目覚めて生きるのです 増補版』(ちくま文庫)、『わたしと霊性』(平凡社)。冷えとり歴12年、靴下は8〜10枚以上、レギンスは1枚(冬は2〜4枚)、半身浴は1〜2時間。冷えとりしてよかったことは、気をつかわない、ほんらいの自分になったこと。

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