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自伝小説 ままごとかあさん10 家族(6)

「なんでそんな所においたんだ!

食べれないねっか!」

突然、祖母が怒りだした。

幼いワタシは裏山のゼンマイを採って

裏口の階段へ並べていた。

急な事にポカンと祖母を見る。

ブツブツ言いながら怒り続けている。

怒りでいっぱいの目。

ワタシの方を見ようともしない。

祖母の口の端しから泡が出ている。

‘’おばあちゃんがそこに置けって言ったんじゃん‘’

と言おうと思うが身体は強張り声が出ない。

ブツブツと怒ったまま

祖母は家の中へ入って行った。

重くて泣きそうな気持ちで

集めたゼンマイを手に取り地面に投げた。



祖母はハウルの動く城に出てくる

荒れ地の魔女みたいに太っていた。

踊りと民謡が好きで

祭りになると地域の仲間と浴衣姿で踊った。

仲間の家におしゃべりに行ったり

畑仕事をしたり。

外ではフツーの田舎のおばあちゃんだった。



でも…

家では違った。

いつも

婿であるワタシの父の悪口を言っていた。



たいてい、

祖母の父への悪口はワタシの前で始まる。

ご飯を食べている時。

テレビを見ている時。

父のここが駄目

あそこが駄目

あの時こんな事を言ったのが悪かった

なんて悪い人なんだ


壊れたラジオみたいに

何度も同じことを言っては

ずっと怒っている。


口の端しから泡を出しながら

怒り続ける祖母。



父親の悪口を延々と娘に聞かせていると。

自分の方が酷いことをしていると。

反論したくても言葉が出ない。



この人と同じ血が

ワタシにも流れていると思うと

身体が地面にめり込むくらい

重たかった。



父や母が来ると

悪口はピタッと止み

祖母は部屋に戻って行く。



たぶん今思えば

ナントカ失調症とか

そんな精神的な病気だったのだろう。

でも幼いワタシにそんなことが

分かるはずもない。

祖母の存在は重く

忌々しかった。



母には2つ上の姉がいた。

たまに伯母は季節の贈り物を送ってくれた。

ワタシ宛てにも手紙を送ってくれた。

まだ会ったことのない伯母の文字は美しく

文章からは思いやりと聡明さを感じた。


伯母は高校を卒業して

地元の有名銀行への就職が決まっていた。

が、

突然

今でもワイドショーで取り上げられる

宗教に入り

そのまま家に戻って来ることは無かった。


祖母と祖父が連れ戻しに行ったが

会うことはできなかったようだ。


ワタシには伯母の気持ちが

わかるような気がした。



つづく

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