見出し画像

【MTB】ウィスラー創世記【Podcast和訳】

ウィスラーマウンテンバイクパークの元マネージャーであり、トレイル開発会社Gravity Logicの創設者であるトム・プロハスカがSingletracks Mountain BikeのPodcastにゲスト出演した回。

こちらのポッドキャストがとても興味深い内容でしたのでぜひ多くの方と共有したく、ご紹介します。

あのウィスラーにも当然草創期があり、当初から巨大パークであったわけではなかった。策略があり手探りがあり段階があり判断があり、その発展の経緯を知ることができるのがシンプルに面白い!
さらに経営の観点から普段のメンテナンスまで、長きにわたり幅広く開発に携わってきた彼の経験は非常に稀有なものだと感じました。

以下、Apple ポッドキャストの文字起こしを元に誤植修正をしたのち、日本語訳(自動翻訳に突っ込んだあと意味不明なところを手直し)、小見出し追加、相槌や間投詞の省略等を行いました。太字はインタビュアー。1時間弱の番組、元英文で4万字以上というボリュームですが、読みどころしかなくてほとんど削れませんでした。じっくりお楽しみいただければと思います。

※ボリュームゆえに一旦公開した後、適宜メンテナンスしていく方針です。不正確な表記や誤字等はご容赦ください(コメントでのご指摘大歓迎)。

※以下内容はSingletracks Mountain Bike Podcastによるものであり、執筆者(はゆ)はいかなる権利も保有しません。

提供元: Singletracks Mountain Bike Podcast: On Top of the World: How Gravity Logic Builds the Best Bike Parks、2024年1月23日


ウィスラー創世記 ーどのようにして世界一のバイクパークになったかー

トム・プロハスカ。トムはグラビティ・ロジックの共同創設者兼ディレクターで、この会社はブリティッシュコロンビア州ウィスラーに拠点を置きつつバイクパークの設計および開発を行っています。彼は2001年から2007年までウィスラーバイクパークのマネージャーを務め、2011年にオープンした象徴的なトップ・オブ・ザ・ワールドを設計しました。

まずどのような経緯でMTBのトレイルビルディングに関わるようになったのか教えていただけますか。

2001年にウィスラーバイクパークのマネージャーになったとき、それが私のトレイル作りの初めての経験でした。それ以前は、1981年から熱心なマウンテンバイカーでした。そして、スキースクールのプログラムを管理していたので、その管理スキルをバイクパークにも活かしました。そうして、マウンテンバイクへの情熱がこの仕事を得るきっかけになりました。そしてその後、ロブ・コケットやパートナーのデイブ・ケリーといった素晴らしいメンターに恵まれました。デイブは本当に素晴らしい人です。

2001年当時のパークはどんな感じでしたか?

大部分はかなり草の根的な感じでした。初期には年間12,000人くらいの訪問があったと思います。ほとんどのトレイルはシングルトラックでしたが、Bラインはすでに作られていて、これは最初の掘削機によるトレイルでした。そして2000年にAラインの建設が始まりました。非常に革新的でしたが、その時点ではかなり荒削りでした。ジョイライドや幅が広めのトレイルがありました。

草の根的と言いますが、トレイルを作るための資金はありましたか?それともボランティアがトレイルを作っていたのですか?

たしかに投資はありました。私たちの上司であるロブ・マクスキミングは、新しいビジネスを開発するビジネス開発担当副社長であり、非常に熱心なマウンテンバイカーでもありました。彼のアイデアは、それまでエリック・ホワイトが個人的に運営していたバイクパークを引き継ぎ、投資を行うことでした。エリックは十分な投資ができなかったので、ロブが引き継いで投資を行いました。そして、上層部がロブに『このバカみたいなアイデアが失敗に終わったらこの紐で首でも吊って幕引きにすればいいさ』と言ったことをいつも笑い話にしています。ロブは『それはいい条件だ』と言いました。ざっくり言えばこんな感じです。だから、投資はありましたが、このようにかなり原始的なものでした。興味深いことに、それはビジネスユニット別で運営されており、予算があり、黒字を達成すれば継続することができました。結果として、黒字を達成するだけでなく予算を上回ることができ、その余剰資金をバイクパークに再投資していました。経理部は何年もそのことに気づかなかったのです。だから、初期の頃には多くの資金をバイクパークに投入することができましたが、最初の頃はあまり資金がありませんでした。資材を集めるために古い材料置き場を漁ったりしていました。そういうわけで、ある程度のコミットメントはありましたが、経営側には少しためらいがありました。しかし、2003年、2004年、2005年頃には、この事業がうまくいっていることが明らかになりました。

そうですね。2007年にあなたがマネージャーを辞めた時点で、バイクパークの訪問者数はシーズンで10万人を超えていたと読みました。訪問者数は毎シーズン徐々に増えていったのですか?それとも、特定の出来事がきっかけで急増したのですか?

そうですね、継続的な投資が鍵でしたが、その投資の仕方が重要でした。Aラインという最初のジャンプラインを作り、その後、イージーダズイットを作りました。ガイドが、『ガイドの需要が増えているので、初心者向けのトレイルが必要だ』と言いました。私たちは『何を言っているんだ?これで十分簡単じゃないか?』と思っていましたが、彼らは『本当のグリーン(初級者用)トレイルが必要なんだ』と言いました。バイクパークの従業員の多くが上級者ライダーであり、グリーントレイルは気にも留めません。でもそれこそがバイクパーク運営の大きな収益源であるガイド業務の成功の鍵だったのです。そして、Aラインに多くの初心者が来ていて、彼らはそのトレイルにふさわしくないことに気づきました。そこで、Aラインの簡易版が必要だと思い、クランクイットアップを作りました。すると、クランクイットアップはAラインと同じかそれ以上の利用者数を記録するようになりました。そして、ダートマーチャントという象徴的なジャンプラインも作りました。ところで実はちょっとしたミスがあって、イージードーズイットを作っているときに一旦コースレイアウトの旗を全部立てたんだけど、1コーナー分まるまる目印を見逃してまっすぐ下ってしまったんです。後で見直して、『まあ、これでいいか。じゃあ、ジャンプラインを作ろう』となりました。とにかく、それがバイクパークの象徴的なトレイルになりました。そして、ガーバンゾが成功を決定的にしました。

そうですね。ガーバンゾはバイクパークの全く別のエリアですよね?

そうです。非常に革新的なエリアでした。そしてここで、投資が役立ちました。私たちの会計のやり方が本当に役立ったのです。なぜなら、大金が必要だったからです。そして、管理のためにお金を頼みに行くのは簡単ではありませんが、私たちは基本的にたくさんのお金を稼いでいて、予算はかなり保守的な運営予算でした。そのため、余剰分はすべてバイクパークに再投資していました。だから、現代でも同じことができるかどうかわかりません。

現在、ウィスラーは世界最高のバイクパークとして認識されています。それはある意味、幸運の結果でもあります。長年にわたってリソースとコミットメントに恵まれたことが大きいと思います。ウィスラーを特別な場所にしているのは何だと思いますか?

はい、ウィスラーで起こったことは幸運の結果ですが、デイブ・ケリーのような人々のおかげでもあります。彼は、トレイルを掘削するには特定の勾配で行う必要があることを理解していました。誰がそんなことを考えるでしょう?これは科学です。Aライン、ダートマーチャント、クランクイットアップ、イージードーズイットの勾配が間違っていたら、それらのトレイルは失敗していたでしょう。だから、デイブがしっかりと管理してくれたことは非常に良かったです。また、素晴らしい地形にも恵まれています。フィッツシモンズチェアの下部はかなり平坦な地形です。そこではスキーをする人はほとんどいません。初心者のレッスンだけが行われています。そんな平坦な場所でバイクパークなんかできるのって思うでしょう?でもこれが絶妙な勾配なので、急勾配に苦戦することなくトレイルを作ることができます。そのため、Aライン、ダートマーチャント、クランクイットアップのような素晴らしいトレイルができるのです。そして、刺激的な要素を加えるためにガーバンゾに行きます。そこは全く異なる地形です。崖や岩が多く、滑りやすい岩場もたくさんあります。私たちは素晴らしい環境に恵まれているのです。

ガルバンゾエリアの開発承認を得るのは難しかったですか?リゾート周辺の地形を自由に使える場所ですか?

いえ、承認は得られました。昔はかなり簡単でした。環境管理者と協力していました。彼はマウンテンバイカーではありませんが、環境を理解し、私たちと協力してくれました。彼は排水について教えてくれました。初期の頃は、Aラインには多くの排水設備がなく、春になると泥だらけのエリアに合板を敷く必要がありました。そして、アーサーという環境管理者がやって来て、『ここをきれいにしなければならない』と言い、『どうすればいいのか』を教えてくれました。そこでパイプを導入し、私たちは作業しながら学びました。しかし、最近のクリークサイドの開発では、より多くの他機関の関与がありました。ファーストネーションズ(先住民族)も関与し、州からの環境に関する関与も増えました。しかし、全体としてはまだ比較的簡単でした。アメリカでもたくさん仕事をし、森林局ともやり取りしました。ヨーロッパ、例えばオーストリア、ドイツ、イタリアでの作業では森林管理当局とのやり取りが必要で、それは大変なこともあります。


Gravity Logic設立 ーウィスラーバイクパークから独立分離ー

では、Gravity Logicがどのようにしてスタートしたのか教えてください。ウィスラーバイクパークやトレイル構築に関わっていたようですが、Gravity Logicというトレイルビルディング、トレイル開発会社はどのようにして始まったのですか?

仕事の後にバーでビールを飲んでいるときのことです。当時は、世界中からたくさんのビジターが来ていました。私がマネージャーだったので、彼らをパーク内で案内するために派遣されました。これは楽しかったのですが、その後、事務作業があり、夜の8時や9時までオフィスに残って書類を仕上げていました。それで笑いながら、『コンサルティング会社を始めて、その会社がこういったことを全部引き受けてくれればいいんじゃないか。そして、いつかは世界中でバイクパークを作ることになるかも。さあ、もう一杯飲もう』と話しました。基本的に、それが始まりです。そして、私たちの上司であるRob McSkimmingがこのアイデアを上層部に持ちかけました。すると上層部は、『なぜ我々の競争相手にバイクパークの作り方を教えるのか?それで競争が激しくなるだろう』と言いました。しかし、Robは『他のリゾートがバイクパーク、しかも質の高いバイクパークを作らなければ、このスポーツは成長しない』と答えました。彼らはその考えを受け入れました。冬のビジネスは非常に競争が激しいですが、夏のビジネスは全く異なります。バイクパーク同士は競争ではなく、むしろ共生的な関係にあります。こうして、2005年にGravity Logicをウィスラーブラッコムの別のビジネスユニットとしてスタートさせました。そして、2007年にFortress InvestmentsがIntrawestを買収し、それによりウィスラーブラッコムも買収された際に、運営の細部までチェックされ、『Gravity Logicはリスクが高く利益が少ないからやめろ』と言われました。そこでRobが私たちに『皆、終わりだ。どうする?』と言いました。私は『会社を買うよ』と言いました。Robは『まず奥さんに聞いてみたら?』と言いましたが、私は『いや、彼女は大丈夫だと思う』と言いました。Daveも『一緒にやる』と言い、そしてRob Coquetteも加わり、私たち3人でウィスラーブラッコムから会社を買い取りました。彼らは非常に好条件で譲ってくれました。こうして今の私たちがいます。


訳者注:Gravity Ligicの実績
調べてみたらGravity Logicは過去にHakuba47のマスタープラン(?)を手がけたことがあるみたいです。HPはこちら



Gravity Logicの仕事 ートップ オブ ザ ワールドー

それで、今ではウィスラーのプロジェクトを請け負う形で、トップ・オブ・ザ・ワールド・トレイルなどのプロジェクトに携わっていますね。このトレイルについて少し教えてください。このトレイルがどのようにして出来たのか、そして他のバイクパークのトレイルと何が違うのか。

このアイデアは私のものではなく、ロブ・マクスキミングのアイデアです。彼が『山頂からのトレイルを作りたい、君たちがデザインして、君たちが作るんだ』と言いました。私は実際に息子と一緒にこのトレイルをデザインしました。当時、息子はプロライダーでした。そして建設を始めた時、私はウィスラーから呼び出されましたので、息子が実際にプロジェクトマネージャーを務めました。彼がトレイルのデザインを理解していたからです。このトレイルが他と違うのは、トレイル自体よりもむしろ環境や景観です。基本的にはシングルトラックで、難易度をブルーを目指しましたが、上部はほぼブラックに近いダークブルーです。非常に岩が多い場所です。ダイナマイトを使えばブルーにできるかもしれません。いずれにせよ、このトレイルは素晴らしい景色と環境が特徴で、下のパークにはないものです。このトレイルの約3分の2は高山地帯にあり、木がまったくありません。そして、巨大な森や古代の森林に入っていきます。その全体の体験は非常に素晴らしいものです。クリークサイドの開発に伴い、トップ・オブ・ザ・ワールドの終点に到達すると、ガーバンゾゾーンの下部から村までバイクパークを通り抜けることも、またはクリークサイドに向かって下ることもできます。様々なトレイルがそこにあります。5000フィートの標高差があります。これもこのトレイルを特別にしていると思います。設計そのものが特別というわけではなく、クールなシングルトラックではありますが、とにかく景観が素晴らしいんです。

あなたが言ったように、それは他のパークとは非常に異なります。標高の高さと頂上の自然のままの状態がそうさせているのです。あまり選ばれたわけではなく、地形が非常に険しいからこそ、ジャンプスタイルのトレイルを設置するのではなく、もっと自然な感じになっています。

そうです。実際には、ロブは少し登りを入れたいと言いましたが、私は『ここはダウンヒルバイクパークだよ、ロブ』と言いました。彼は『わかっているけど、上では小さめのバイクを持ってくる人がいて、少し漕ぎたくなるだろう』と言いました。かつては少し漕ぎのセクションがありましたが、最近では、その区間は実際に迂回路が設けられましたが、人々はダウンヒルバイクだけでなく、エンデューロバイクを使ってこの大きな周回を楽しんでいます。「トップ・オブ・ザ・ワールド・パス」があり、それを使うと一日に一回、その場所に行くことができます。ジャンプラインはここには適していません。もっと環境やその場の感覚を楽しむためのものです。

そこにバイクパークのできるとき ーリフトが先か、パークが先かー

近年「バイクパーク」呼ばれるプロジェクトはたたくさんあるようですが、例えば小規模なパンプトラックやスキルパークからフルスケールのリフト搬送トレイルまで様々です。初期のバイクパークビルダーの一人として、この用語の定義はどう考えていますか?また、その定義は時間とともに変わりましたか?

そうですね、変わったと思います。トレイルやトレイルネットワークを一つのゾーンに集中させようとしている場所は、どこでもバイクパークと呼べます。それが自走でも、シャトルでも、リフトでも、それはバイクパークです。昔は、あの山にトレイルがあるね、という感じでしたが、最終的にはそれが集中していきました。私が最初に乗り始めたノースショアを見てみると、80年代初めにはハイキングトレイルが2、3本しかなく、それをガタガタと下っていました。今では、それはバイクパークと呼べますが、リフトはありませんし、人々は自走で移動しています。

そうですね。バイクパークという言葉は、バイクに乗るために作られた場所、つまりトレイルやパンプトラックなど、バイクのために作られたパークということを意味しているようですね。

その通りです。

バイクパークは伝統的にスキーリゾートに位置していることが多く、これは投資回収を最大化し、リゾートを年間を通じて賑やかに保つ良い方法のようです。しかし、最近ではバイク専用のリゾートも見られるようになり、固定リフトサービスを提供している所もあります。バイク専用のグラウンドアップの建設で、運営者は投資回収をうまく行えていますか?

それは簡単ではありません。ハイランドの人たちに聞いてみるといいでしょう。ハイランドはバイク専用の運営で、冬になると閉鎖しなければなりません。

他にリフト付きでバイク専用の運営をしている場所は知りません。

思いつくのはテキサスのスパイダーマウンテンだけです。

そうですね、確かに。割と新しい形態のようですね。そこには雪が降らないので、それもあるかもしれません。

最近雪が降ったと聞きましたが、それはさておき、結局はボリュームにかかっています。バイクパークでは7万〜10万の来場があれば、利益を上げることができます。それ以下だと簡単ではありません。シャトル運営だとさらに難しくなります。また、リフトを購入して3、4、5百万ドルを投資し、その投資回収には10年以上かかると見ています。それは簡単ではありません。しかし、スキーエリアの運営者であれば、すべてのインフラが整っていて、リフトや建物があるので、うまく運営すれば確実に利益を上げることができます。そこが重要な点です。

北米と異なるヨーロッパの事情 ー分割式運営は火の車になりがちー

正しいトレイルを設計し、適切に構築することが重要です。そうでないと、バイクパークは粗悪な車のように、常にどこか壊れていて修理にお金がかかるばかりです。そう遠くないうちにスクラップ置き場行きになってしまいます。車の場合は解決は簡単ですが、バイクパークの場合そうはいきません。いくつかの要素が関係しています。興味深いことに、ヨーロッパでは冬季営業を行う際、リフト会社がリフトを所有し、リフトの下の土地は農家が所有しています。さらに、別の人がスキー学校を運営しており、4~5校ある場合もあります。そしてまた別の人がピザ屋やシュニッツェル店を経営しています。分かりますか?つまり、リフト会社はリフトチケットだけを販売しているのです。バイクパークの場合、これは非常に厳しいビジネスモデルです。バイクパークでは、収益の50%がリフトチケットの販売から来ます。残りの50%はガイディング、レンタル、小売、飲食から来ます。これらの収入源が手中にないと、収益の大きな部分を逃してしまうことになります。


訳者感想:
日本におけるスキー場や地権などの諸事情は、北米やニュージーランドよりヨーロッパのそれに似ていそうですね。地権の話(野沢は下部は畑、上部は牧場になってる)とかまさにそうだし、1つのスキー場にスキースクールが複数あるとか個人経営のレストランが林立しているとか(石内丸山など)よくありますよね。



通年リゾートの経営の中身 ー夏/冬、支出/収入のバランスー

夏と冬の両方で営業しているリゾートでは、冬のシーズンが短くなったり予測が難しくなったりする中で、収益が夏にシフトしていると感じますか?

例えば、ウィスラーのバイクパークの底にあるGLCバーは、バイクパークを始めたころには夏季に閉鎖されていましたが、今では夏の方が冬よりも収益が上がっています。

すごいですね。

午前11時にビールとバーガーを楽しむことができるのですが、冬に午前11時にそこに座っている人なんているでしょうか?スキーしてますよね。ある見方をするとそのような状況ですが、他の見方ではこの場所は200万人のスキーヤーと20万人のバイカーの来訪があります。つまり、夏もある程度の収益はありますが、冬の営業ほど収益は高くありません。

冬のシーズンは夏よりも短いのですか?

冬は12月から4月か5月まで営業しています。つまり約6ヶ月です。ほぼ同じです。実際、バイキングのシーズンは5月から10月中旬までなので6ヶ月よりちょっと短めですね。ただ、利用者数が違うだけです。バイクパークの運営費は冬に比べて非常に低いので、収益率も良いです。降雪機も必要なく、圧雪も不要です。トレイルクルーも冬のスタッフのほんの一部です。来訪者1人あたりの利益率は高いですが、規模で言えば冬ほどではありません。

トレイルメンテナンスについて ー費用と手間を減らすノウハウー

次の質問にも関係しますが、シーズン中にバイクトレイルを維持するために必要な作業は何でしょうか?夏の間ずっと放置ではないですよね。トレイルを良好な状態に保つためには何が必要ですか?

必要なのはコミットメントです。多くの場所では、トレイルに多額のお金を使っても、メンテナンスにはお金をかけないことがあります。コストを節約するために、トレイルを開放して収益だけを得ようとします。しかし、それは車に例えれば、オイルを交換せず手入れしなければ、すぐに多額の修理費がかかるようになるのと同じです。私たちの計画では、資本投資の10%をメンテナンス予算として確保する必要があると述べています。これは大規模なリゾートにとっても当てはめられる数字です。小規模なリゾートではそれほどではないかもしれませんが。しかしこれは順当なベンチマークです。そして、必要なのは管理側からのコミットメントです。彼らは、トレイルを建設するために多額のお金を使い、さらに今後も維持費をかけ続ける必要があることを理解しなければなりません。私たちの場合、クライアントのためにトレイルを設計し、建設もしますが、もし悪いトレイルを作れば、再び依頼されることはないでしょう。だから、設計と建設の段階でメンテナンスが最小限で済むトレイルを作ることが重要です。シーズン中、数日間だけスポットメンテナンスを行うだけで済むなら、それは成功です。2日をおかずにブレーキバンプ(ブレーキをかけた際にできる凹凸)が頻繁に発生するゾーンがあると、それは悪いニュースです。まず、費用がかかる上に、トレイルクルーの士気を低下させます。毎日ブレーキバンプを修復し、次の日には同じ状態に戻っているのを見ていると、非常にやる気を削ぎます。そして、それは設計段階での問題です。

トレイル設計が机上の計画通りにいくことはありますか?それとも、実際に走ってから学ぶことが多いのでしょうか?

ブレーキバンプが発生するのは大きな問題です。というのも、それはトレイルの再配置が必要になることを意味します。100メートルの再配置を行うだけではなく、500メートル上流から始め、さらに500メートル下流で終わらせる必要があります。コーナーを少し広げるなどの小さな調整をしたりもしますが、年々の設計経験から学んだことは、特に重機によるトレイルにおいては重要なのは、設計が完璧であることです。我々のクルーは設計(flagging)を正確に読み取る技術を持っています。設計が完璧であれば、手戻りは発生しません。例えば、2、3年前にドイツのGreen Hillにバイクパークを建設しました。私のメインの担当者であるチェコ共和国出身のジェリー・ルシャンと一緒に設計し、彼が建設の責任者でした。彼は現地で全く自転車に乗らずに設計と建設を進めました。トレイルクルーは『どうやってジャンプをテストするのか』と尋ねましたが、彼は『ジャンプを見れば良し悪しがわかる、乗る必要はない』と言いました。そして、全てが完璧に機能しました。シングルトラックでは事情が少し異なります。シングルトラックはフレキシブルであり手作業での調整が可能です。しかし、大きなジャンプラインなどの重機によるトレイルでは設計が重要です。さもないと修正にコストがかかります。

どちらの場合でも、ライダーからヒントを得ているようですね。ブレーキバンプの例で言うと、通常はライダーがブレーキのかけ方が悪いからだと考えがちですが、実際にはトレイルの設計に問題があることが多いということですね。コーナーが急すぎる、タイミングが悪いなどの理由でブレーキをかけざるを得ないなど。その点ではライダーのフィードバックを設計に活かしているのでしょうか?

その通りです。例えば、急なブレーキが必要な場所にはブレーキバンプが発生します。したがって、ライダーにどう設計すべきかを訊ね歩かなくとも、自ずから最適な設計が分かるのです。Aラインスタイルのトレイルを作る際には、ジャンプ後にすぐコーナーに入るような設計は避けます。着地点がコーナーであった場合、飛びきるためにスピードを必要とする他方、コーナーに向けてブレーキをかける必要がありますよね?私たちはトレイルに逆勾配工(Grade Reversal)を施しますが、普通に乗ってもペダルを漕ぐ必要がないように設計します。なぜならジャンプトレイルではペダリングもまた危険だからです。また、ブレーキが必要な場合は、逆勾配工箇所の上りの部分で行わせることで、地面への影響を最小限に抑えます。なぜなら上り勾配でのブレーキングは軽く済むからです。


訳者注:
「Grade Reversal」について、海外でのトレイルビルディング経験豊富な浦島悠太さんに不躾ながら意味をお伺いしたところ快くご回答いただきました。

地形を大きな面で捉え、うねりを作り、この地形にうねりを加えることによりトレイルの勾配(Grade)が登り返す(reverse)事で水が登り返せずにトレイルの外に排水されるという感じでしょうか。

浦島悠太さんコメント

下り勾配のトレイルにあえて登り返し箇所(逆勾配)を形成し、谷となったところからトレイル外に排水するトレイルメンテナンスの手法を「Grade Reversal」と呼ぶそうです。そしてそれはポッドキャスト上で特に解説なしで使っても通じるほどかなり一般的な用語みたいです。ここでTomさんは排水のためだけでなくブレーキバンプ防止のためにも「Grade Reversal」を適用することがあると話しています。

現段階ではこの概念に対応する日本語がないため、”トレイル上に逆勾配部分を施工する”という意味で「逆勾配工」という造語を当ててみました。

参考までにUS FOREST SERVICEへのリンク(Surface Water Controlの項、排水方法の一種としてGrade Reversalの紹介もあり)も貼っておきます。


とはいえ、現在では多種多様なライダーがいるため、全てのライダーにとって完璧なトレイルというものは存在しません。12〜15mのテーブルがあるトレイルは、普段ウィスラーの7〜9mのテーブルを飛んでいる中級者には適さないかもしれません。ですが普段7〜9mのテーブルを飛んでいてもっとでかいやつを飛びたいと思っている上級者は楽しむことができるでしょう。そのため、多様なトレイルが必要です。ウィスラーでは、Aライン、ダートマーチャント、クラブアップルヒッツなど、様々なトレイルが用意されています。しかし、全てのバイクパークがそのような多様なトレイルを提供できるわけではありません。ウィスラーはその点で幸運です。巨大なのです。

ウィスラーが特別なのは、ブレーキを開放してジャンプをクリアし、次のジャンプに自然に移れる点ですね。速度やブレーキのタイミングを考える必要がなく、直感的に走れます。このような流れるようなトレイルを設計する感覚を身につけるのに時間がかかりましたか?

もし今Aラインを建設するなら、2000年当時から2〜3箇所変えるかもしれませんが、大まかには同じでしょう。トレイルの全体的な勾配が適正です。しかし、何箇所かで逆勾配工が不足しています。これはトレイルを建設する過程で学んだことです。ブレーキバンプが発生する場合、より大きな逆勾配工を追加する必要があります。やってるうちに技術革新があって、上り勾配にステップアップを設けてコーナーに入るような工夫もしたりしました。トレイルを建設するたびに学びがあります。トレイル設計の全てを知っているとは口が裂けても言えませんが、異なる環境で建設するたびに新しい発見があります。そういう意味では面白いです。しかし、ブレーキバンプが発生する理由を理解し、それを繰り返さないことが重要です。年々、私たちの技術は向上し、トレイルの建設は容易になっています。

安全性と楽しさの両立について ーコースのバリエーションの観点からー

トレイルやフィーチャーを設計する際に、安全性と楽しさの間で多くのトレードオフがありますか?安全性を考える必要があるのか、それとも両者は両輪で進んでいくものですか?

確かに両輪で進むね。以前は反対意見が多数ありました。『君たちはギャップを埋めるんだねえ』って言われるんだけど、『なんでギャップが必要なの?』と思うのです。結局、みんなは飛び越えるんだから、問題ないですよね? 安全性は最優先です。今なら『プロ』ラインに指定されますね。私の名前(プロハスカ)にちなんでいる訳ではないよ(笑)。その背景を知りたいなら話すけど、とにかく、プロラインには難易度の上限がありません。ギャップがあったり、バックサイドのないドロップがあったりします。バイクパークの開発段階にもよります。ウィスラーのように開発されきっているようなところなら、他の選択肢がたくさんある。わざわざプロラインのトレイルを選ぶ必要はないですよね?しっかりと看板が設置されていて、警告もあります。もっと気楽に走れるトレイルに行くこともできます。しかしまだ十分に開発されていないバイクパークに行くと、こうした選択肢が少ないか、もしくは気楽に走れるトレイルばかりになります。それ以上何かを追加する余地がありません。真っ先に省かれるのがプロラインなのです。プロラインを作れば、もっと多くの人が利用できるインクルーシブなトレイルを設置できる場所が食い潰されてしまいます。プロラインを設置し、バイクパークに来る人のうち少数だけがそこで乗る、なんてことが果たして良い決断でしょうか?いいえ、そうではありません。

ウィスラーは本当に特別ですね。こんなに広いのに隅々まで開発されている。様々なオプションがあります。数年前にトレイルリストを眺めたのを覚えています。難易度の易しい順にリストアップしているやつ。まさにグリーンといったやつからプロラインまで。数週間かけてリストの上から順に乗っていけば、プロラインに到達する頃には、ほぼ準備が整うでしょう。手順を飛ばして安全でないものに飛び込むことがないように、そのような選択肢を持つことが必要ということですね。

そうですね。前言ったように、Aラインだけだった時、Aラインを走れる技術がない人がAラインで乗って、トラブルが起こりました。だから、クランクイットアップを建設しました。バイクパークのどこかにプロラインを建設して、それより簡単な選択肢がないなら、人々はそこで乗ります。それで、誰かの怪我の責任を持ちたいですか?持ちたくないですよね。だから難しい決断だけど、実際はそうでもない。バイクパークを建設する時に、ギャップやほかのフィーチャーの必要性を求める声があると、私は『ギャップは必要ないよ』と言っているんです。


訳者注:トレイル難易度リストについて
ウィスラーのトレイルリストはこんなかんじ



フロートレイルの是非 ー数と種類のバランスー

さて、難易度の高いトレイルの話題になりましたが、ほとんどのバイクパークの訪問者は、ナチュラルでテクニカルなトレイルよりも、フローなジャンプトレイルを好むようです。ほとんどの人が結局フロートレイルの方でよく乗るにもかかわらず、なぜフロートレイルについて文句を言うマウンテンバイカーが多いのでしょう?

そうですね、声の大きい人は誰だ、ということでしょうか。声が大きいのはエキスパートライダーや、エキスパートライダーになりたがっている人たちだと言え、それが問題だと思います。初心者や始めたばかりの人は、ピンクバイクでフロートレイルについて愚痴をこぼしていますか? いいえ、そうではありませんね。

でも、彼らそれらに耳を傾けていますし、コメントを読んでいます。そして、フロートレイルは良くないと考えて、よりテクニカルなトレイルに乗らなければならないと思っています。

そうですね。でも、それはバリエーションの少ないバイクパークのせいでもあるんです。例えば、いくつかのトレイルを建設したとします。グリーンのトレイル、ジャンプライン、ブルーのジャンプライン、ブルのーフロートレイル、それから2〜3つのシングルトラックがあります。そして、次の年には、さらに1つの重機トレイルまたはハイブリッドトレイルが必要になります。それを建設して、次はさらにフロートレイルが必要だとなります。ナチュラルなシングルトラックが好きな人は何かを言いたくもなるでしょうね。フロートレイルを建設しすぎているわけではなく、単に多様性が足りないということなのだと思います。

興味深いですね。私はジャンプをあまりしません。身の回りにジャンプトレイルがないので、あまり慣れていませんし、上手ではありませんが、テクニカルなトレイルに関しては問題なく走れます。ウィスラーバイクパークには素晴らしいテクニカルトレイルがいくつもありますが、その種のトレイルでは誰ともすれ違わないことが多いです。私にとっては、絶対にスピードが出ず、よりコントロール下にあるため、より安全に感じます。でも、みんなが同様に考えているかどうかはわかりません。

完全に同意します。怪我は高速でジャンプし、大きなエアをするトレイルで起こります。例えば、Aラインは、ちょっとよくわからないけど、来訪者は何百万人にもなると思います。年間100万人以上ですね。パークが20万人の訪問者を受け入れており、パークに来た人が少なくとも5回はAラインで乗ると言えば、100万人が乗ったということになります。それはかなりの数ですね。ハイスピード、ビッグエアときて、ここにスキル不足を組み合わせます。転倒した場合、鎖骨が折れるかもしれませんし、SchleyerやJoyrideで転倒するよりも重篤な事故につながるかもしれません。一方低速の場合は、肘を打ちつけて擦る程度でしょうか。だから、あなたに同意します。

そのほかのパークについて ーそれぞれの独自性ー

最近のバイクパークデザインで見られるトレンドは何ですか?顧客からの依頼にはどんなものがありますか?彼らが将来考えるべきことは何ですか?

いつもビジネスモデルを考えます。最終的にクライアントが利益を得られないと意味がないからです。実証済みのモデルです。グリーンのトレイル、ブルーのフロートレイル、ブルーのジャンプライン、そしてブルーとブラックのシングルトラックがベースになります。しかし、私たちはこれらのトレイルに遊び心を加えてきました。スウェーデンのJärvsöとドイツのグリーンヒルというバイクパークは、非常に小さく、トレイルは立体交差しなければなりません。そのための木製フィーチャーを構築しました。そして、螺旋状のフィーチャーも試しています。これはかなりいい感じの仕上がりです。ドイツのグリーンヒルで調べてみてください。そこには古い雪上キャタピラがあり、クライアントは雪上キャタピラをどこかにどかしたいと言いました。ですが私たちは、雪上キャタピラの上を飛び越すジャンプがあってもいいかもと思ったんです。実際にはトレイル終点と折り合いがつきませんでした。なので雪上キャタピラの周りを螺旋状に登らせて、そのあとその上から飛び降りるようにしたのです。これは最もいい感じのフィーチャーの一つです。同じようなものがトレスルバイクパークのバナナピールというトレイルにあります。あとニコ・ヴィンクも同じものを作ってましたね、360度回転したあと登ってきたトレイルを飛び越えさせるという。基本的にはイノベーティブであるんだけど真新しいわけではなくて、シャークフィンやコーナー終わりのギャップみたいなものなんです。

そうですね。いくつかは、マーケティングやソーシャルメディアの時流の影響を受けているように思えます。各パークは、インスタ映えするユニークで象徴的なフィーチャーを持ちたいと望んでいます。たとえば、雪上キャタピラからのドロップオフの写真を見ると、どこのパークかすぐわかる。それが意思決定に影響を与えますか?

はい、確かに。私自身はソーシャルメディアはあまり気にしませんが、クライアントは気にしますし、私もそれを理解しています。トレイルを設計するとき、これはフロー、ジャンプ、トレイルのようなものではないですが、例えばTop of the Worldのようなシングルトラックについては、見晴らしや興味を引くものなどを見逃さないように留意します。もしこれらの要素を素通りしてしまうような場合、設計を見直してそれを必ず経路に含めるようにします。インスタは私の頭の中にありませんが、インスタよりもライダーのことを考えているのは確かです。

そうですね。ライダーファーストなのは良いことですね。さて、あなたは世界中のバイクパークの建設に関わってきましたね。お気に入りのパークやトレイルはありますか?

いくつかありますね。もちろん、ウィスラーです。私のお気に入りのラップは、Top of the WorldからRide Don't Slideです。ちょっとしたアウトオブバウンドのトレイルですが、容赦がありません。そのラップが大好きです。そして、クリークサイドに到着します。ウィスラーは私の心に深く根付いていますが、私たちが関与したいくつかのプロジェクトもまた、トレイルそのものだけでなく、そこで関わった人たちによって印象深いものになっています。バークシャーイーストのサンダーマウンテンを建設したデイブは、そこで働いている人々と一緒に作業をしていてバイクパークを誇りに思っています。スウェーデンのヤールソエでは10年以上の間一緒に取り組んでいます。ドイツのグリーンヒル、トレスルのボブ・ホルムとそのクルーと10年以上にわたって働いています。グリーンヒルはとても素敵なバイクパークにとても素敵な人たちがいます。彼らはパークに愛情と情熱を注いでいます。とても楽しいトレイルです。トレスルではボブとホルムと彼のクルーが10年以上働いています。お気に入りのトレイルがあります。それはCruel and Unusualと呼ばれています。良質なトレイルがあります。そして、スノーマスも、本当に素晴らしいチームです。人々はプロジェクトにコミットし続けています。成功を収めているので私たちを良く見せてくれます。カナダのニューブランズウィック州のシュガーローフも、グレッグ・ディオンと一緒に取り組んでいます。小さなバイクパークですが、すごくコミットしていて、とても楽しい場所です。

素晴らしいリストですね。トム、素晴らしい話を聞けて嬉しかったです。トレイルの建設プロセスやバイクパークの開発について学べました。ありがとうございます。

はい、ありがとう、ジェフ。あなたと話すのは素晴らしかった。良い質問でした。あなたの質問は本当に良かった。

よかった、ありがとうございます。Gravity Logicがこれまでに取り組んできたいくつかのプロジェクトについて詳細を知り、彼らのサービスについてもっと知るには、オンラインでwhistlergravitylogic.comを訪れてください。ショーノートにそのリンクを掲載します。それでは今週はこれで終わりです。来週また話しましょう。