【児童文学評論】 No.269 2020.7.31


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 ◆ぼちぼち便り◆ *作品の結末まで書かれています。

今回の読書会はチリの世界的詩人パブロ・ネルーダの少年時代を描いた『夢見る人』(パム・ムニョス・ライアン/作 ピーター・シス/絵 原田勝 /訳 岩波書店 2019年2月 を取り上げました。

 

落ちている鍵や貝殻や松ぼっくりやことばを集めることが好きで、 孤独を愛するネフタリは、兄と妹と思いやり深い継母ママードレと、ネフタリを医者か歯医者にしたいと決めつけている威圧的な父親と住んでいます。家族みんなが父親におびえながらも、ネフタリは自分の好きなことを守り抜き、白鳥の死を体験したり、叔父の新聞社で手伝いをしたりします。ネフタリの7歳の少年時代から、パブロ・ネルーダという名前を見つけ、大学入学のために自宅を離れるところまでが描かれています。

 

まず、主人公のネフタリについては、自由でありたい気持ちが伝わった。絶望があっても何らかの方法で立ち直る芯の強さを感じた。前半は自然との心の交感が描かれていた。ネフタリが詩人になるために、雨、および森が決定的であることが伝わってきた。幼い頃からことばを紙に書いて引き出しに集めたり、学校へ行く道でいろいろなものを拾い続け、集め続けたりするという執着心の強さから、ネフタリは天才だったのだと思った、という感想が述べられました。

 

ネフタリの父については、威圧的だが、息子を父なりの方法で愛していることも伝わる。誇りを持って仕事をしている。ネフタリが少しずつ成長し、力をつけていくにつれ、父の周りに人が集まるのは父を尊敬しているからではなく、お金や権力のためであることがネフタリに理解できるようになり、父がかわいそうにも思えた。車掌の笛で家族を呼ぶ父は「サウンドオブミュージック」を思い出した。また、継母のママードレや兄、妹、ネフタリを本の世界に導いてくれたアウグストさんなども印象に残ったという人がいました。

 

心に残った出来事としては、まず、塀の穴を通して知らない子と羊のおもちゃと松かさを交換したエピソードが挙げられました。この場面は、「作者あとがき」にネルーダの「あの交換によって……人はみなどこかでつながっているのだ、という、とても大切な考えがわたしの胸に刻まれた……。」(p.264)が引用されています。自分の手を離れた松かさがどうなったのかを想像することで世界が広がると同時に、手にした羊のおもちゃの来歴を想像することで、世界を身近に感じ、自分自身を世界の中で相対化して考えることにつながったということがわかります。また、白鳥の死を看取る場面、父親に無理矢理泳がされた波間に自分にとって大切なものを幻影として見た場面、海から離れる前に、砂浜に「おろかもの」「やくたたず」など、父から言われたことばを書き、それを波がさらっていった場面、父に大切なノートを燃やされる場面が印象に残ったという発言がありました。

 

この作品は、自然や気持ちを表現する章立てと、章立ての前に3コマの絵、「わたしは詩」から始まる詩と絵、「火はことばから生まれるのか?それとも、ことばが火から生まれるのか?」(p.228)のような15の問いと絵、字体を変化させた音の連なり、そして本文、と様々な層で構成されています。「わたしは詩」に注目した人は、「わたしは詩」という詩を主人公にした視点から見る感覚が心地いいと感じたと発言しました。つまり、ネフタリの視点だけで書かれていないことによって、読者が縛られないで自由な気持ちで作品世界を旅することができるということです。字体を変化させた音の連なりの描写が、詩人ネフタリらしい描き方だと思った人もいました。また、問いの場面について、一つの答えだけではない問いが提示されることで、人は問いを持ち続けることで世界が広がることが示唆されている。ネフタリは問いを持ち続けることで父の殻から出て自分の世界を作っていくことができ、ことばによって人に思いを伝えられるようになっていったと述べた人もいました。

 

挿絵と装幀と文字の色についても多くの感想が述べられました。ピーター・シスの絵がこの作品と一体化している。父に押しつぶされそうになるネフタリの気持ちを読んだ後に絵を見ると、心は自由で豊かだと確信できて、ほっとする。鳥が自由を象徴している。空想の大切さが感じられる。見返しの色と文字の色、しおりの色までが深い緑でとてもオシャレな本だと思った。「作者あとがき」に「緑はエスペランサ―希望―の色だと考えていた」(p.264)とあり、納得した、など多くの肯定的な感想が述べられましたが、緑色のインクが読みにくかった。横書きが読みにくかった、と感じた人もいました。

 

そのほか、詩的な文章が美しい。言論の自由の大切さを感じた。作品の中で迫害されているマプチェ族は、調べてみると今も迫害されている事実を知った。この本をきっかけに世界への目が広がった。映画「イル・ポスティーノ」に登場するネルーダと重ねて読んだ。「イル・ポスティーノ」を見直した。南米の事を知らなかったので興味を持ったなど、この作品をきっかけに、世界を広げたり、深めたりした発言もありました。

 

以上の感想に加えて、パブロ・ネルーダが、生涯何度も思想弾圧を受けたことと関わる「言論の自由」は作品の重要なテーマになっています。また、マプチェ族のことは、ネルーダのこだわりであり、メキシコから移民した祖母を持つ著者パム・ムニョス・ライアンのこだわりでもあったことがわかります。ライアンは養父に育てられており、養母がネフタリの成長に欠かせない意味を持っていた点も共通点ということができます。

 

章立てが巧みで、年齢が上がるにつれて、章の長さが長くなり、時間的な感覚と章の長さが呼応しています。その章立ても雨から泥、森、海、恋、情熱、炎と人間的なものに変化していく点が興味深く、各所にちりばめられている問いも抽象度が増していきます。ネフタリの人間的な深まりがさまざまな層で描かれていることがわかります。それでも、その底には、雨の音が流れ続けており、ピーター・シスの絵に描かれる点描が、雨の音と呼応しているようにも感じられます。

 

『パブロ・ネルーダの生涯』や『ネルーダ回想録』を読むと、この作品では書かれていないネフタリを発見でき、著者がネフタリの「孤独」「ことばへのこだわり」「父の呪縛からの解放」「母、兄、妹への愛」に焦点を当てて書こうとしたことがわかる点も興味深く、パブロ・ネルーダについてより深く知りたくなりました。家族とは、詩とは、詩と自然との関わり、ことばとは、自由とは、空想とは、言論の自由とは、異なる民族との共生とはなど、多くのことを考えさせられる美しく深い本でした。(土居安子)

 

<財団からのお知らせ>

●「第37回 日産 童話と絵本のグランプリ」作品募集

アマチュア作家を対象とした創作童話と絵本のコンテストです。構成、時代などテーマは自由で、子どもを対象とした未発表の創作童話、創作絵本を募集しています。締め切りは10月31日(土)です。詳細は↓↓

http://c1c.jp/1593/bqDEhx/2061

 

● 寄付金を募集しています

当財団の運営を応援いただける個人、法人の皆さまからのご寄付を募っています。寄付金は、当財団が行う講座・講演会など、さまざまな事業経費に充てさせていただきます。ぜひ、ご協力いただきますようお願いします。<クレジットカードでご寄付いただけるようになりました>

詳細は → http://c1c.jp/1593/UHEMZX/2061

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三辺律子です。


 新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)は、収まるどころか勢いを増しているように見える。質の高いノンフィクションの紹介で人気を誇るサイトHONZで、大阪大学大学院教授仲野徹さんが『新型コロナウィルスを制圧する ウイルス学教授が説く、その「正体」』(作者:河岡 義裕 ,河合 香織)という本を紹介なさっているのだが、そこにこう書かれていた。


「(新型コロナウイルスについては)よほど確実なエビデンスが出るまで思考を停止することにした。専門家の間でさえ、いろいろと意見が分かれるのである。前提が偽の命題はすべて真になってしまう。少なくとも今の段階では、素人が考えてもほとんど無駄だろう。」

https://honz.jp/articles/-/45730


 そうなのだ、世界中の専門家が解明しようとしている最中だというのに、理系の科目を取ったのは高2が最後のわたしに、なにかわかるはずもない――んだけど、ついあれやこれや考えてしまうのが止められない。日本は死者数が少ないのはなぜ? どうして若い人は軽症なのだろう、いやそもそもそれらは本当なのか、もしかして、ぜんぜん別の要因なのでは……


 でも、少しでも知識を仕入れてしまうと、「つい考えてしまう」のはなかなか止められない。


 でも、「つい考えてしまう」のも、悪いことばかりではないかもしれない。

ここでも何度か言及したが、わたしは今、Black Lives Matterについて、つい考えてしまうのを止められない。

先日、ネットフリックスで無料公開していた『13th 憲法修正第13条』。『グローリー 明日への行進』の監督エバ・デュバーネイが、人種差別問題と刑務所制度の関係に切り込んだドキュメンタリーだ。製作は2016年なので、今回、多くの人の目に触れる形で再公開されたのは喜ばしい。

奴隷制を禁止する「合衆国憲法修正第13条」(1865制定)はすべての人に自由を認めるものだったが、「犯罪者は例外」という言葉が抜け穴となる。結果、アフリカ系アメリカ人は「大量投獄システム」の標的にされ、刑務所ビジネスは莫大な利益を得る。それが黒人=犯罪者という誤った構図を人々の頭に刷り込んだのは、言うまでもない。

 なぜ直接の交流すらない(←わたしが、です)異国の人々のことを、ここまで「つい考えてしまう」のか。たまたま今日(2020.7.31)、鷲田清一が朝日新聞の「折々のことば」で田尻久子の『みぎわに立って』を紹介していた。


「熊本市にある橙(だいだい)書店の店主はテーブルの下で寝そべる猫の気持ちになりたくてそこに身を横たえる。何が安心か、何に怯(おび)えるか、ありありとわかった」


本を読んだり映画を見たりすることは、テーブルの下に寝そべってみるようなものなのかもしれないと思った。

そして、知ってしまえば、考えずにはいられなくなることがある。もちろん、ただ考えるだけでは足りないけれど、今日の「ことば」はまず考えることの大切さを教えてくれる。


「想像力のなさは、知らぬうちに人に刃を向けることがある。」

 (田尻久子)



〈一言映画紹介〉


 緊急事態宣言中に、試写会が軒並み延期や中止になったこともあり、紹介できる映画が少ない! もっと見なければ! 


『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

 『赤毛のアン』の続編で、アンがギルバートと結婚した時なんだか裏切られたような気がしたわたしは、『若草物語』の映画化と聞いて、ちょっとだけ警戒してしまった(←理由を書こうとしたけどネタバレなので止めます)――のだが、大丈夫、グレタ・ガーウィグ(監督・脚本)を信じてよかった! ストーリーを変えずしてちゃんと新しくしているのが、さすが。

 そんなことを書きつつ、ローリー役のティモシー・シャラメ、よかったです。


『その手に触れるまで』

 『ある子供』(観て!)のダルデンヌ兄弟監督・脚本。ベルギーの平凡な13歳の少年アメッドが、無責任な導師に引きずられイスラム原理主義に傾倒していく様を描く。

 導師に煽られ、アメッドは熱心に指導してくれた女性教師の殺害を企てるのだが、なぜそこまで“狂信的”になったのか、理由は描かれない。家庭の事情や経済問題等と安易に結び付けて観客をわかった気にさせない描き方が、ダルデンヌ兄弟らしいと思う。

 

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以下、ひこです。


【絵本】

『ファイアー』(長谷川集平 理論社)

 TVで怪獣映画「トリゴラス」を見たぼくは、眠れない。と、消防車のサイレン。近所のホームセンターが火事を出したのだ。かおるちゃんの家は側だ。ぼくは心配で仕方がない。先生の話では、かおるちゃんは無事で避難所にいるらしい。次に日かおるちゃんがやってきて、当時の様子などをみんなに話してくれる。極度に緊張している時は、実感がないということなど。

 ぼくは母親から「地震・雷・火事・おやじ」という言い回しを教えられる。でも、おやじはもう怖くないから、おやじではなく戦争、「地震・雷・火事・戦争」かなと。

 ぼくは戦争でトリゴラスがかおるちゃんを助けてさらっていく夢を見る。次の日、ぼくはかおるちゃんから、お見舞いの返礼にお守りをもらう。

 ぼくとかおるちゃんが出てきますし、映画「トリゴラス」を見ますが、『トリゴラス』の続編ではありません。旧作が少年の内面、その愛と性をえぐるのに対し、本作は外に向かって開かれていて、子どもが遊ぶこと、心騒がせること、心の儘に想像すること、恋すること、そして社会や世界を考え感じることについて描いています。今の時代が妙に閉じて、卑屈に、非寛容にねじれてしまっていることへの、作者の思いが溢れているのです。


『ぼくだってとべるんだ』(フィフィ・クオ:作 まえざわあきえ:訳 ひさかたチャイルド)

 飛びたいペンギンの子ども。翼があるから飛べるはずだと色々試みますが出来ません。親はペンギンは飛べないよと教えてくれますが、子どもはまだまだ挑戦します。そうして勢い余って海に落ちると、なんと軽やかに泳げることか、潜れることか。まるで空を飛んでいるみたい!

 ペンギンの仕草がなんともかわいいです。そして、自分を発見していくドラマも良くできています。

 素敵なパステル画。


『ふーってして』(松田奈那子 角川書店)

 紙に落とした水彩絵具の点。それに息を吹きかけると?

 太陽ができたり、ネコのひげであったり、それぞれの想像力でいくらでも展開できそうでわくわくさせられます。

その楽しさを松田は実に美しくかつ、シンプルに見せてくれます。

エルヴェ・テュレ作品をより参加型にした感じ。

 いいわあ、この絵本。


『おむすびころりん はっけよい!』(森くま堂:作 ひろかわさえこ:絵 偕成社)

 さんかくおむすびの国とまんまるおむすびの国。両国は、さんかくかまるかで争っていました。国境にある具材の畑をさんかくの国がアルミホイルで囲って壁を作ってしまい、ついに戦争か!

 両国の王様が相撲で決着を付けることとなり、その結末は?

 出だしはちょっと『みどりのトカゲとあかいながしかく』みたいですが、その後の展開は愉快愉快。

 何と言ってもおむすび一個一個の顔が違うのが素敵です。


『あるひあるとき』(あまんきみこ:文 ささめやゆき:絵 のら書房)

 大連に住んでいる女の子。家には市松さんもフランス人形もあるけれど、手に取って遊んでいたのはこけしのハッコちゃん。いつもいつでも一緒です。

 戦争に負け、一家は引き上げるまでの期間家財を切り売りに生活を送ります。売れなかった物は、寒い大連、ストーブの薪にします。

 市松さんもフランス人形も売られてしまったけれど、遊んでよごれているハッコちゃんは幸い、女の子の手元に残ります。

 引き上げが決まります。ハッコちゃんを連れては帰れません。引き上げの日、父さんにハッコちゃんを渡す女の子。そこから先は覚えていないけれど、ストーブが燃える音が残っています。

 戦争が、子どもの日常のどこまで侵略してくるかを、物語は淡々と語り、それ故、しみてきます。


『ハクトウワシ』(前川貴行 新日本出版社)

 写真絵本。

 表紙のハクトウワシの顔でもう、やられてしまいます。なんと美しいこと!

 前川は、イーグルレディことジーン・キーンに会うためにアラスカ年部に向かう。イーグルレディは、絶滅寸前にハクトウワシを救い、今では危惧種からははずされるまでにした人物です。

 彼女のフィールドで前川は、子育てをするハクトウワシを撮り続けます。この絵本はその記録です。

 ハクトウワシの荘厳さを堪能しつつ、命の大切さを感じ取れます。


『つかまえた』(田島征三 偕成社)

 川の浅瀬に大きな魚。そっと近づき、転んで川に落ち、つかまえた!

 あんまりうれしくて男の子は大きな魚を抱きしめ、河原で眠ってしまいます。

 目を覚まし、魚が弱っているのであわてた男の子は川へと走って逃がします。

 命を捕まえ、抱きしめて、命を自由にする。それは自分も含めた命を感じることであり、感じることで命を愛おしむことでもあります。

 田島の絵はデビュー以来ますます輝きを放っています。すごい。


『ヒゲタさん』(山西ゲンイチ 徳間書店)

 チカちゃんは雨の日、ちょびひげネコと知り合います。名付けてヒゲタさん。ヒゲタさんはひげのくにからやってきたそうで、チカちゃんを案内してくれます。ただし、付けひげをするのを条件に。ひげがなかったら捕まるそうです。

付け木気が落ちて捕まったチカちゃんをヒゲタさんはどうして救うのでしょうか?

とってもヘンで、楽しいお話です。

背表紙も何気にいいです。


『うみでなんのぎょうれつ?』(オームラトモコ ポプラ社)

 「ぎょうれつ」シリーズ最新作です。

 エビさんに言われて、大小50種類の海の生き物が並びます。それぞれのドラマもあり飽きさせません。どうして並んでいるかは、最後の観音開きをお楽しみに。51匹目だ!


『よい子れんしゅう帳』(おかべりか 福音館)

 故おかべりかさんの、「よい子」であります。

 「よい子」になるにはどうすればよいかを伝授しておりますよ。はい。ほんとうです。だから、ほんとうですって。

 時間割でしょ、ちこくの仕方、いや、ちこくしない方法と忘れ物をしない方法を、原因から対処に仕方まで、詳しく解説しています。たとえば、ちこくしないためには、校庭に住む。ね、役に立つでしょ。

 「よい子」になりたい大人も子どもも読みましょう。


『ここにいる』(あおきひろえ 廣済堂あかつき)

 幼い頃からの父との思い出が淡々と描かれていきます。読み進むに連れ、父親の姿が奥行きを増してきて、自分がまるでその家族の一員のような気持ちになります。

 そうして、迎える父の死。

 その人生をおめでとうと言って送る娘の豊かな心が、じわりと伝わってきます。

 絵本、いいな。


『おんなじ だあれ?』(しもかわら ゆみ:作 あかね書房)

 見開きに小さく開けられた二つの穴から覗く手や耳や鼻。どれもそっくりですが、違う動物。どんな動物かを当てるのはなかなか難しいですが、ページを繰って、わかったときの喜びは余計に大きいし、それぞれ違って、ちょっと似ていて、つまりは多様性の受容をも感受できます。

 絵が細密で、非常に良いです。


『コウノトリがはこんだんじゃないよ! おんなのこ、おとこのこ、あかちゃん、からだ、かぞく、ともだちのこと』(ロビー・H・ハリス:著 マイケル・エンバリー:イラスト 子ども未来社)

 幼児からわかる性教育絵本です。隠すことなく、臆すことなく、語っていて気持ちが良いです。ジェンダーも多様性も意識して書かれています。

 レッツも読むかしら?


『はつめいたいかい』(ピップ・ジョーンズ:ぶん サラ・オギルヴィー:え 福本友美子:訳 BL出版)

 『はつめいだいすき』のイジーが帰ってまいりました。

 発明大会にイジーが招待されます。5人で争うのですが、いじわるな子がいて、準備されていたパーツを持って行かれ、道具は壊されてしまいます。

 もう何にも出来ないと落ち込んでいたイジーが思いついたのは、壊れた道具を直す機械! 

 でも、電気も通じない。困った!

 発明家ですもんね。イジーはやるさ。

 女の子の自信がみなぎる物語です。


『カメレオンどろぼうドロン』(苅田澄子:作 伊藤夏紀:絵 あかね書房)

 『だいぶつさまのうんどうかい』で大笑いをさせてくれた苅田作品です。

 どんな背景にも溶け込めるカメレオンどろぼうドロンは、その長い舌で金の王冠を盗もうとし、塗ってあった辛いカレーでのたうちまわり、捕まってしまいます。が、そこはドロン。見事抜けだし、再び盗もうとするけれど、先に盗んだ泥棒がいて……。絵本の短い尺で、二転三転、見事な大活劇で、オチも決まっています。

 本当に、上手いなあ。


『おたすけこびとと おべんとう』(なかがわちひろ:文 コヨセ・ジュンジ:絵 徳間書店)

 たんぽぽじまのひょうたんいけまで、忘れ物のおべんとうを届けるお助けご依頼をいただいたこびとたち。おたすけ船に大きなお弁当をのせて進みます。いつものように、まあなんてこまかく一人一人のこびとが描かれていることでしょう。もうそれだけでも楽しいです。

 たんぽぽじまに着いて、働く車たちを下ろして、出発。ああ、楽しい。


『うさぎのバレエだん』(石井睦美:ぶん 南塚直子:え 小学館)

 バレエ教室で先生に「うさぎみたいに はねて、はねて」と言われますがうまく出来ないかこちゃんは、飛び出してしまいます。

 桜林でかこちゃんは、うさぎのようにはねて上手に踊っている男の子と出会います。あんな風になりたいかこちゃん。男の子は夜に劇場でバレエを踊るから見に来ないかと誘ってくれます。親にこっそり出かけるかこちゃん。

それはうさぎたちのバレエでした。男の子はそのお中心で踊っていて、かこちゃんも一緒に踊ります。

もうバレエはいやじゃない。

 南塚の画の幻想的なこと!


『まあるくな~れ わになれ』(真珠まりこ すずき出版)

 歌を歌いながら、動物たちが次々に集まって手をつなぎます。それがだんだん輪になった行く様子が楽しいです。


『かくれているよ 海のなか』(高久至:しゃしん かんちくたかこ:ぶん アリス館)

 海中で擬態して隠れている生き物たちの写真絵本です。写真絵本ですが、見つける絵本になっています。

 生き残り戦略ですけれど、なんだか愉快なのは、隠れているからなんでしょうね。

和みます。


『てのひらのあいさつ』(ジェイソン・プラット:文 クリス・シーバン:絵 なかがわ ちひろ:訳 あすなろ書房)

 赤ちゃんの時、ぐっすり眠っている君と、そっと握手をする。鳴いているとき、背中を掌でぽんぽんと叩く。

 言葉はなくても伝わる感情。父と息子を描いています。

 やがて君は大人になって、わたしは年老いて、それでも伝わる気持ち。

 濃密で暖かな時間が流れています。


『みんなみんな おやすみなさい』(いまむらあしこ:ぶん にしざかひろみ:え あすなろ書房)

 羊の子ども、ふくろうの子ども、兎の子ども、そして人間の子ども。ねむたくなったおやすみなさい。

 おやすみなさい絵本ですが、にしざかのペン画が素晴らしい。


『きょうりゅうたちの おーっと あぶない』(ジェイン・ヨーレン:文 マーク・ティーグ:絵 なかがわちひろ:訳 小峰書店)

 子どもたちをきょうりゅうにみたてて、もう本当に恐竜の姿で描いてしまうシリーズ最新作。

 転びそうになったり、滑りそうになったりしていますが、そこは大きな大きな恐竜なもので、まわりの人間(親など)の方が危険そうで、なんだかおかしい。恐竜大好き子どもにとって、子どもが恐竜の姿な絵本って最高でしょうね。


『フランクリンとルナ、本のなかへ』(ジェン・キャンベル:ぶん ケイティ・ハーネット:え 横山和江:やく BL出版)

 シリーズ三作目です。

 今日はドラゴンのフランクリンの606歳の誕生日。ちゃんと祝ってもらえるかな?

 郊外の本屋さんに入ってみると、ふるい本があって、カメのニールが広げると本の中へ入ってしまいました。ニールを助けないと!

 二人も本の中に飛び込みます。三匹の子ブタを始め、様々な昔話や童話の主人公たちが次々と一緒に来てくれてついにニールを見つけます。

 本好きにはやっぱりたまらないシリーズです。本と世界は繋がっているんだね、フランクリン。


『わたしたちのえほん』(南谷佳世:文 大畑いくの:絵 ぶんけい)

 りくは絵本を持ってきます。ママに読んで欲しいのです。

 この絵本は、絵本を読んでいる親子と、その読んでいる絵本の物語とが平行して進行します。読者の親子が一緒に読んでいるときの様子そのままに。

 つまり、絵本が絵本の持っている、人との寄り添い方を語る形式です。

 絵本好きのみなさんに。はい、どうぞ。


『あっくんとデコやしき』(八百板洋子:文 垂石眞子:絵 福音館)

 おとうさんはデコをつくる職人で、季節柄忙しくて、何日も作業所のデコやしきから帰ってこない。

 おかあさんは赤ちゃんが生まれて、その世話に忙しく、あっくんは遊ぶ暇もないほどお手伝いをしている。

 今日も、とうさんへお弁当を届けるお使いに出されたあっくんは不満たらたらで、途中で桜の枝を折り、その枝でネコをいじめてしまう。

 ようやくデコ屋敷にたどりついたあっくんですが、サクラの精やネコの妖怪に襲われてしまいます。

 伝統に伝説を溶け込ませ、成長物語に仕立て上げています。


『グレタとよくばりきょじん たったひとりで立ちあがった少女』(ゾーイ・タッカー:作 ゾーイ・パーシコ:絵 さくまゆみこ:訳 フレーベル館)

 グレタの行動をrespectした絵本です。

 欲張り巨人たちと戦う決意をしたグレタはたった一人、路上で訴え始める。やがてそれは共感を呼び、グレタと同じ世代の人々が同じ志を持って立ち上がった。欲張り巨人は聞く耳を待つだろうか?


『火も包丁も使わない! 安心・安全クッキング アレルギーでも安心レシピ』(寺西恵理子:著 新日本出版)

 子ども時代から、身の回りのことが出来るようになっていた方がいいのですが、料理ももちろんそうで、この写真絵本は、まずは安全に料理が出来ることを目指しています。特に本作のように、アレルギーを持つ人には、自分で作れるようになることは大事です。

 写真があるので、イメージしやすく、作りやすいでしょう。もちろん、この後は包丁も火も使ってくださいね。



【児童書】

『アーニャは、きっと来る』(マイケル・モーパーゴ:作 佐藤見果夢:訳 評論社)

 大戦下、フランス。スペインとの国境近くの村。母グマを殺された子グマを発見したジョーはそこで見知らぬ男と出会う。彼は出会ったこと、子グマことを秘密にするようにジョーに言い、子グマを連れて立ち去る。

 ジョーは、偏屈者で通っている老婆を友達とからかっていたずらをしているとき、あの男と知り合う。彼はベンジャミンというユダヤ人で、老婆の義理の息子だった。この家で、逃げてきた子どもたちをかくまい、スペインに逃がそうというのだ。ベンジャミンは、娘と生き別れていて、この家で落ち合う約束をしている。だから彼は、ここを動くつもりはない。

 そんな折り、村にドイツ軍が進駐してくる。スペインに逃亡するユダヤ人を見張るために。

 ジョーは彼らへ食料を運ぶ役目を担い、そのことは家族にも村人にも話さない。とはいえ、子どもたちにかさむ食料代に、老婆のお金は尽き、昔恋人だった、ジョーの祖父に豚を売ることにし、彼も秘密を知る。

 ドイツ軍の捕虜だった父親が帰ってくる。4年の歳月は彼をすっかり変えてしまい、駐留軍と親しくする村人やジョーへの怒りを隠せない。そんな息子を見た祖父は、彼に秘密を打ち明け、ジョーがどれほど危険を承知で戦っているかを教える。そして彼らは、村人たちを巻き込んだ、子どもたちの脱出計画を実行するが……。

 戦争に巻き込まれたジョーや村人のみならず、ドイツ兵にもその視線を届かせながら、穏やかな村で起こる事件と、人の正義感、勇気、そして悲しみを描いた、モーパーゴの傑作。


『サンドイッチクラブ』(長江優子:作 岩波書店)

 珠子は6年生。別に志望校もないけれど、なんとなく塾に行き、それでも成績が芳しくないので個人指導をしている塾にも通っている。そんな珠子が出会ったのは同じ個人指導塾に特待生で通っているヒカル。彼女の目標は米国大統領になること。なぜならそうすれば世界を良き方向に変えられるだろうから。あまりの高い望みに呆然とする珠子だが、ヒカルが今挑んでいる砂像作りに加わることになる。

 そして、プロの砂像家を目指す葉真との戦いが始まる。

 といってもバトル物ではなく、一人一人子どもの心の動きを丁寧に追っています。

 どでかい目標を持つヒカルと、先のことはまだ考えていない珠子、それぞれが生きる実感というか手触りを獲得していくのです。

 傑作。


『ファーブル先生の昆虫日記 めぐる命と虫の役割 4』(奥本大三郎:文 やましたこうへい:絵 ポプラ社)

 ファーブルの情熱がそのまま奥本さんに乗り移って、とってもわかりやすく昆虫について話してくれ、やましたさんが息もぴったり描いてくれているシリーズももう4冊目です。

 今作も、ハエや玉虫、アゲハチョウとなかなか豪華です。

 たっぷりと楽しんで下さいな。


『本屋のミミ、おでかけする!』(森環 あかね書房)

 ミミは、おじいちゃんが開いている地下の本屋さんを手伝っています。本が大好きで、本がすべてで、そとにはちょっと怖くて、なかなか出て行きません。

 店の常連の絵描きさん。うつも素敵な絵を見せてくれるのですが、最近顔を見せません。心配なミミ。

 絵描きさん、足を骨折して家を出られないのがわかりました。見舞いに行きたいけれど、行けるかな?

 少し引っ込み思案な少女が、勇気を出して一歩前に歩み始める姿を見守ってください。

 森はちょっとファンタジックな要素を交えた暖かな鉛筆画で表現しています。いい絵だなあ。


【お知らせ】

「読書探偵作文コンクール2020(第11回)」開催中!
~外国の物語や絵本を読んで、おもしろさを伝えよう!~

 募集作品:翻訳書を読んで書いた作文
 対  象:小学生、中学生、高校生
 しめきり:2020年9月30日(水) 当日消印有効
 枚  数:小学生部門 2,000字(原稿用紙5枚)程度まで
      中高生部門 字数制限なし
 選考委員:プロの翻訳家
      小学生部門 越前敏弥、ないとうふみこ、宮坂宏美
     :中高生部門 金原瑞人、田中亜希子
 賞  品:小学生部門 賞状、図書カード1,000円~ 5,000円分
      中高生部門 賞状、図書カード5,000円~10,000円分
      (応募者全員に作文へのコメントと粗品をお送りします)
 主  催:読書探偵作文コンクール事務局
 協  力:翻訳ミステリー大賞シンジケート、やまねこ翻訳クラブ

 詳しくは専用サイトをどうぞ!
  小学生部門 http://dokushotantei.seesaa.net/
  中高生部門 https://dokutanchuko.jimdo.com/
 たくさんのご応募、お待ちしています!!

 

なお、当コンクールは、開催趣旨をご理解くださるみなさまからのご支援で運営しております。詳細は下記のページでご案内しておりますので、ご高覧ください。

カンパのお願い

http://dokushotantei.seesaa.net/article/366683535.html


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★ブックフェア「おとなりどうし 世界とわたしをつなぐ絵本.」

テーマ:ソーシャルディスタンスが生活の中心になり、日本国内の移動もままならないですが、心に国境はありません。絵本や物語など読書を通じて、どこまでも想像の翼を広げ、世界の人々とつながることができます。対立や分断が広がる中で、この時こそ、お互いの違いを認め合い、相手の立場を理解して、供に生きる社会の一員になって欲しい。未来は分断の中にはなく、共生にあるのだから。


<時期・場所>

9月初旬まで。

大垣書店 イオンモールKYOTO店にて。
kyotoekimae@books-ogaki.co.jp
〒601-8417 京都市南区八条通西洞院下ル
イオンモールKYOTO Kaede館2階
TEL :075-692-3331

イメージ画:日隈みさき

「おとなりどうし」の基本テーマである「絵本を通じて相互理解」から発展した、より一層読者に伝えたいテーマを4テーマにしぼり、棚9本で展開します。

『世界の昔話』:昔話は、その国の歴史や考え方がより濃く反映されます。絵本でわかりやすく、世界の国々を感じてみよう。(選書:鈴木加奈子)

『おとなりどうしなのに 戦争セレクション』:絶えることなく、繰り返される戦争。おとなりどうしなのに、争いが起きてしまうことを、伝えたい。(選書:ひこ)

『今、世界で掬いあげたい子どもたち』:貧困や移民問題、心に傷を負った子どもたちは、まだまだ世界中にいる。今、同じ地球の上で、問題を抱えている子どもたちを知ってほしい。(選書:ひこ)

『おとなりどうし もっとなかよし絵本! 』:国籍や文化、立場のちがいを認め合う。ちがっているって素敵でしょう?(選書:ひこ)


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『レッツはおなか』(ひこ・田中:文 ヨシタケシンスケ:絵 講談社)

https://bookclub.kodansha.co.jp/title?code=1000036470

『ネバーウェディングストーリー』(ひこ・田中:作 中島梨絵:画 福音館書店)

https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=6662

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