【児童文学評論】 No.307 2023/09/30

スペイン語圏の子どもの本から(55)

 先日、『あいうえおばけのおまつりだ』(うえのあきお文 美濃瓢吾絵 ロクリン社 2023.6)を読んでいて、同じ出版社のこの本のことを思い出しました。


『南米妖怪図鑑』(ホセ・サナルディ文 セーサル・サナルディ絵 寺井広樹企画 ロクリン社 2019.7)

 子どものころ日本文化に興味をもち、水木しげるや歌川国芳のよる妖怪の世界に出会い、日本に留学したアルゼンチン人の著者が、多くの文献から南米の40の妖怪(モンスター)を選び紹介した本です。

 妖怪ごとに見開きで、1ページはカラーのイラスト、1ページは解説という形式で紹介しています。絵は迫力がありグロテスクなほどですが、怖いものみたさで思わず見入ってしまいます。

 風土や歴史や生活をからめた解説を読んで、南米に興味をもつ子どもが出てくるといいなと思います。私たちが接する南米の情報には、人びとの暮らしぶりに触れたものがあまりにも少ないので。パタゴニア地方、マプーチェ、グアラニー、ガウチョ、パンパ地方、リャノ、インカ帝国、マテ茶など、解説に出てくる言葉は、日本の子どもは知らなくても、ラテンアメリカの人たちにはおなじみの語。わからなくてもいいので、少しずつ親しんでもらえたら。

 南米なので、スペイン語圏だけではなくポルトガル語圏のブラジルも出てきます。物が見当たらないときなどに、ブラジルでは「サシーがいたずらした」と言うと、以前ブラジルに詳しい方から聞いたことがありますが、これは本書に出てくるサシー・ペレレのこと。私が今訳しているメキシコの小説には、ラ・ヨローナ(ジョローナとも)が出てきます。奇妙な、時にはぎょっとするような妖怪も。人間の想像力というのは、なんと豊かで多様で驚きに満ちていることか。

 中南米の文化や歴史に根ざした妖怪の本、難しい漢字はルビがついているので、小学生から読むことができるでしょう。

https://www.rokurin.jp/book/nanbeiyoukai

 

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イベントのお知らせです。

JBBY 新・編集者講座 第9期2023(1)

「デジタルでひらかれる子どもの本の将来」

日時:2023年10月16日(月)18:30-20:30(10月24日まで録画配信)

会場:(1)会場(専修大学神田キャンパス 7号館3階731教室) (2)オンライン

講師:植村八潮(専修大学文学部教授)

参加費:一般1,500円 JBBY個人正会員/法人会員1,300円

今年度のテーマは、「いま、子どもの本は何を伝えるか?」。第1回目の講師は、植村八潮さんです。

「電子書籍は読書なのか?」━━ 10 年前にはよくこのように問われていました。それから現在まで、子どもの読書環境は急速に変化しています。デジタル化が遅れていると言われている子どもの本の出版ですが、その現状、教育現場での受け入れられ方、さらには紙の本ではできなかったことが、デジタル化でどのように可能性がひろがるのか、など、植村八潮さんのお話を伺いながら考えていきましょう。

詳細・申し込みはこちらからどうぞ↓

https://jbbyonline040.peatix.com

(宇野和美)


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◆ぼちぼち便り◆ *作品の結末まで書かれています。


今回の読書会は『ぼくたちはまだ出逢っていない』(八束澄子/著 ふろく/装画 ポプラ社 2022年10月)を取り上げました。


京都を舞台に、2人の語り手が23章中14章で出会い、もう一人を加えて3人の友情・恋愛関係が描かれます。語り手の一人は中学3年生のブラウン陸。父がイギリス人で、目立つ外見のために、同じバスケット部の豪大(たけひろ)にいじめられ、暴力をふるわれます。もう一人の語り手は、陸と同じ中学に通う2年生の美雨(みう)。お母さんが再婚したことで、岡山から京都に引っ越してきて、再婚相手とその息子で中学3年生の大也(だいや)と1年前から住んでいます。新しい家族になかなか馴染めない美雨は町をさまよい、骨董屋さんで金継ぎのお茶碗に出会い、夢中になります。陸は父と山へ行って漆にかぶれ、美雨は、金継ぎを学ぶ過程で漆にかぶれて皮膚科で出会います。


そして、もう一人の主要人物が陸の親友で同じバスケット部の樹(いつき)。樹は、体が弱くて何度も入院歴があり、歴史と漢字の知識と能力がずばぬけており、陸を外見で判断しないで、休み時間など、陸と一緒に過ごしています。


陸と美雨が皮膚科で出会ったあと、陸は美雨が学んでいる金継ぎを見学に行き、金継ぎの師匠の生きざまに魅せられます。そして、美雨が金継ぎの練習をしているのが、樹のマグカップであることがわかり、樹も金継ぎを見に来て3人がつながります。それから、陸のいじめの結末、陸と樹の関係や進学、二人と美雨の関係、美雨の家族の変化などが描かれます。


まずは、多くの人が、金継ぎについて興味を持ったと発言しました。金継ぎをするとき、金の下地として接着剤かつ、防腐剤の役割を果たすうるしがあることを知って驚き、その大切さを知った。見えないところでうるしが使われているところに価値があると思った。金継ぎについてもっと知りたいと思って、図書館で本を借りた。壊れたものを見えないようにつなぐのではなく、金を使って継ぎ、それによって新しい美が生まれる、時に元よりすばらしいものに生まれ変わるというのがすごい。金継ぎには時間がかかるところに意味があると思った。金継ぎを実際に習っているので、身近に感じた、などです。ただ、ストーリー展開としては必要だとはわかりつつ、美雨が初めて金継ぎを体験するときに、注意をされたといっても手袋をしなかったというのはやや不自然に感じた。金継ぎ体験の最初に、自分の物ではなく、人のもので練習するというのもやや不自然に感じた、などの感想も寄せられました。


そして、金継ぎは、この作品を読むキーともなっています。この作品の中で金継ぎは、若い男女や家族がつながったという意味も、金継ぎによって、大人たちが結びついたという意味もある。登場人物が持つ傷や痛みや不安が金継ぎによって再生されると読むこともできる。中2、中3の思春期の子どもたちが昔からの確かな伝統的なものに吸い寄せられていく様子がリアルに感じられた。美雨が金継ぎに引き寄せられるのが、なかなか渋いと思った、なども述べられました。


また、3人の中学生についてもさまざまな感想がありました。陸と樹のさりげない友情が心に残った。陸の十円ハゲは自分にも経験があり、身近に感じた。陸が父親の好きな歌であるジョン・レノンの歌「イマジン」を大切に思い、平和主義を貫こうのしてけんかをふっかけられても反撃しない姿がリアルだった。もてることが当たり前になっている陸が樹にジェラシーを感じたところが興味深かった。二人の友情が一度壊れて、また繋ぎ合わされたところに金継ぎを思った。樹は、手術のために体に傷があってもありのままでいて、金継ぎをした器のような人だと思った。美雨には友だちがおらず、居場所がなくて、町をさまよう様子が心に残った。二人が皮膚科で出会い、樹とも関係するというのはややできすぎだと思った、などです。


大人の描かれ方にもさまざまな意見が出ました。美雨の母親の様子から、思春期の子どもがいる再婚の難しさを感じた。陸の両親には名前があるが、美雨の母親には名前がないのが気になった。美雨の母親はもう少し美雨の気持ちを気遣えてもよかったのでは?娘に対する配慮が欠けているような気がした。そんな中で、美雨がマカロニグラタンを作ってほしいといえてよかった。陸のおかあさんについては、無頓着すぎるという意見と、おおらかなお母さんがステキだと思ったという意見があり、甘えん坊の陸の弟の母親からの自立が描かれていたところが興味深かったという人もいました。


登場する大人は、基本的にみんないい人で、保護犬を散歩させるおばさんが作者と重なって見えた。ばらばらの人間関係が合わさっていく構成は、しゃれていておもしろい。なじみのある京都の町の風景がでてきて楽しかった。美雨が見つけたように、京都の店先に茶碗がおいてある窓もよく見かける。視点の変化がおもしろい、などの発言もありました。表紙については、若者が手にとりやすい魅力的な表紙だという人と、作品のイメージと違うという人がいました。そして、金継ぎの金粉は、筆を使って蒔くが、表紙を見ると筆で金を塗るように見えてしまうのでは?という指摘もありました。


タイトルに「ぼくたち」とあるが、だれのことかも話し合い、読者も入っているのでは?という人もいました。全体としては、説教臭さがない。読み心地がいい。悩みが描かれているがさわやかな読後感だった。続編に期待したいと続編を望む声もありました。


その次の日である9月16日(土)13:30?15:30に、「児童文学のしあわせ」という八束澄子さんの講演会が大阪府立中央図書館でありました(主催:気になる本を読む会・IICLO)。講演の中で、八束さんは、どの作品を創作するときも、うわべだけ取材をするのではなく、モデルとなる人物の懐に飛び込んで、のめり込むようにして付き合っていらっしゃることを語られました。金継ぎについても、1年以上通って体験し、手がかぶれた経験があり、漆芸修復師の清川廣樹氏を深く知るのみでなく、そこに来ている高校生たちとも知り合ったことを語っていらっしゃり、その体験が一人一人の人物や金継ぎの工程のリアリティにつながっているのだなと思いました。(土居安子)


<財団からのお知らせ>

● 難民の家族を描いたイタリアの絵本作家フランチェスカ・サンナさんが来日されます!!

当財団では、国際講演会と子ども向けワークショップを開催します。

参加申込受付中! 会場:大阪府立中央図書館 多目的室

◇国際講演会「イタリアの絵本作家フランチェスカ・サンナ 自作を語る」

10月7日(土)13:30~16:00 定員60人、参加費1000円

通訳:松下宏子さん(関西大学ほか非常勤講師)

http://www.iiclo.or.jp/03_event/02_lecture/index.html#sannarec

◇ワークショップ「イタリアの絵本作家フランチェスカ・サンナさんと絵本をつくろう!」 ※通訳付き

 10月8日(日)13:00~16:00 小学生対象、定員30人、参加費500円

 http://www.iiclo.or.jp/03_event/01_kids/index.html#sannaws


● 講演会「中由美子と中国児童文学の世界」

中国児童文学翻訳者である中由美子さんのお仕事を振り返り、中国語圏児童文学の魅力について語り合います。

日 時:11月26日(日)13:30~16:00

会 場:大阪府立中央図書館 多目的室 および オンライン

登 壇:秦文君さん(作家、中日児童文学美術交流中心会長)他 ※通訳付き

定 員:会場60人、オンライン(Zoom)100人 参加費:1000円

主 催:日中児童文学美術交流センター、中国児童文学研究会、IICLO

詳細・お申し込みは→ Peatix https://nakayumikorec.peatix.com/


●オンライン講座「2022年に出版された子どもの本から」

2022年に出版された子どもの本約300冊をテーマやジャンル、年齢別に紹介し、現在の子どもの本の傾向について考えます。(約3時間半)

◎講師:土居 安子(当財団総括専門員)

◎視聴期間:7月15日(土)~12月15日(金) ◎視聴料:1000円

※ お申し込み(Peatix)→ https://2022kodomonohon.peatix.com


● 寄付金を募集しています

詳細は → http://www.iiclo.or.jp/donation_10th.html


*以下、ひこです。

【絵本】

『どんぐり』(たてのひろし 小峰書店)

 どんぐりの実が、恵として枝から地面へと次々と落ちてきて、リスが鳥が食します。虫も食べ、残ったどんぐりの根が出て地面に潜り。やがて芽が出ます。その若芽を食むものたち。生き残った目は成育を初め……。自然の命の営みが細密画でダイナミックに描かれていきます。たてのの画は、やはり、ドキドキします。

https://www.komineshoten.co.jp/search/info.php?isbn=9784338362016


『おばけっているの?』(エラ・ベイリー:作 木坂涼:訳 光村教育図書)

 近ごろ、物が移動したり、なくなったりが多いと思う女の子。ハローウインの季節だから、おばけかな? いや、そんなことはないない。それからも奇妙なことが色々起こりますが、女の子は頑な。でもね、でもね。

 ということで、最初のページからおばけを探しましょう。楽しい。

https://mitsumura-kyouiku.co.jp/ehon/292.html


『いろいろ色のはじまり』(月刊「たくさんのふしぎ」2023年10月号 田中陵二:文・写真)

 岩絵具などの顔料から、藍や紅花などの染料まで、色の解説と歴史が詰まっています。すでに知っていることと、まだ知らなかったことが合わさって、色への知識が豊かになります。そして付録がすごい。いまではなかなか手に入らない、見ることの出来ない「幻の色たちポスター」なんです。全64色もあります。豪華だ。

https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=7203


『きょうりゅううんどうかい』(たしろちさと 小学館)

 福井県で発見された新種の恐竜フクイベナートルによる司会の元、恐竜たちの運動会が始まります。それぞれの特長を活かした競技で楽しいです。そして最後は、恐竜音頭で、大賑わい。裏に、登場した恐竜たちの図鑑もついておりますよ。

https://www.shogakukan.co.jp/books/09725309


『はだしであるく』(村中李枝:文 石川えりこ:絵 あすなろ書房)

 カラスがネット越しにスイカを食べちらかしているので、少女は追いかけます。長靴が脱げて裸足です。土の上、アスファルトの上、少女は走ります。地面の感触は地球の感触。ドキドキ、とても気持ちいい。やがて森の中。彼女は自然と一体になっていきます。

 心が解放されていく絵本です。

http://www.asunaroshobo.co.jp/home/search/info.php?isbn=9784751531143


『しんちゃんのひつじ』(川村みどり:文 すぎはらともこ:絵 徳間書店)

 眠るために羊を数えるといいと言うけれど、羊を知らないしんちゃんは家族に聞くのですが、毛が長いとか、セーターを作るとか、角が生えているのもいるとか、色々聞いて、想像が膨らみ、とんでもない怪物に。それがとても自然で、笑ってしまいます。1999年文化出版局から出ていた作品の大型判での復刊です。

https://www.tokuma.jp/book/b631849.html


『庭にくるとり』(石川えりこ ポプラ社)

 お母さんと二人、おじいちゃんの家に住むことになった「ぼく」。新しい生活、新しい学校に慣れないぼくに、おじいちゃんは鳥の餌台を作ってくれます。自然の動植物との関わりの中で、しだいに落ち着きを取り戻していくぼく。

https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/2083085.html


『うまれたよ! キンギョ』(松沢陽士:写真・文 岩崎書店)

 キンギョのことはもちろん知っています。キンギョ掬いも何度もしました。飼っていたこともあります。けれど、養魚のことは知りません。で、この写真絵本。卵が産み付けられて、孵り、幼魚がたくさん泳ぎ、だんだん色が付いてきて、うれしい。キンギョ掬いでキンギョをもらうときや、買って飼うときも、この絵本を読んでおけばだいぶ気持ちが違うと思いますね。

https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b629058.html


『じっとみるの』(たちばなはるか 岩崎書店)

 ゼリー、ビー玉、チューリップ、石、パン。見つめるとわたしは、どこにだって入れる。想像の力はわたしを、どこにだって連れて行ってくれる。読む人に解放感を与えてくれます。

https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b629060.html


『よるよ』(コジヤジコ:作 中山信一:絵 偕成社)

 タイトル、テキストの作者名を読めばわかるように、回文絵本です。

 よるに伸びていくニジの乗って、犬、ネコ、クマの3匹が夜空で出逢う不思議な物語が、見事に展開されます。虹の絵が良いです。

https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784033521602

『うかぶかな? しずむかな?』(川村康文:文 遠藤宏:写真 岩崎書店)

 アクリルの水槽に水がたっぷり。そこに色んな物を入れて行きます。浮かぶのか、浮かばないのか。重い物だと沈むのか、軽いと浮くのか。そんなことはないのだ! という、シンプルに楽しい実験絵本です。

https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b629068.html


『どうぶつ でんしゃ』(西村敏雄 あすなろ書房)

 この電車に乗っているのはどんな動物なのかな? 電車の顔で当ててみて! それから、電車たちはどこへ向かっているのかな?

http://asunaroshobo.co.jp/home/search/info.php?isbn=9784751531259


『ティーカップ』(レベッカ・ヤング:文 マット・オットリー:絵 さくまゆみこ:訳 化学同人)

 故郷で暮らせなくなった少年は、船で旅立ちます。一冊の本と、一本のビンと、一枚の毛布と、ふるさとの土が入ったティーカップ。

 凪の日、荒れる日。星が見える夜、見えない夜。雲は様々な動物に姿を変えていき、ティーカップからは植物が生えてきて……。陸地はどこにあるのか? 

 絵本が終わったところから大きな物語が始まります。

https://jbby.org/book/6250


『ゆめわたげ』(クリス・サンダース:作 糸畑くみ:訳 三辺律子:監修 山烋)

 「三つの願い」をベースにした作品です。一年に一度願いを叶えるゆめわたげが、どうしてかウサギくんの体に三つもつきます。何をお願いすればいいのだろうと迷ったウサギくんは、ネズミ、キツネ、クマに相談した結果、それぞれの願いを知ります。そしてみんなの願いを叶えます。気付けば自分の分はもう残っていない。でもね。

 みんなが幸せになれるのは、いいですねえ。

https://honno.info/kkan/card.html?isbn=9784769205050


『むれれれれ』(中垣ゆたか:作 「こどものとも年中向き」10月号 福音館書店)

 中垣さんお得意のmob満載の絵本です。ネズミの群れを追いかける猫の群れを追いかけるイヌの群れを追いかける……。一体どこまで行くんだというように、どの見開きも群れ群れ群れ。見ているだけでも楽しいし、じっくり一体ずつ眺めるのも楽しい。ただし、決してウォーリーを探してはいけません。

https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=7167


『きみにおやすみをいうまえに』(ジョルジュ・ヴォルペ:文 パオロ・プロイエッティ:絵 ほりぐりみのり:訳 関口英子:監修 山烋)

 赤きつねのロッソと、やまねのクイックは仲良し。毎日のように一緒に遊びます。だけど冬が来るとロッソはさみしい。だって、クイックが長い眠りにつくから。どうしてかクイックを起こしていこうとするロッソのけなげさが良いです。クイックを思うロッソの一途な思いが画面からもひしひしと伝わってくる秀作です。

https://honno.info/kkan/card.html?isbn=9784769205067


『わたしのおにんぎょうさん』(でくねいく:さく・え 偕成社)

 なんとかわいらしいお話でしょう。友だちのエマちゃんのために、おかあさんが作ってくれたおにんぎょうが、わたしのおにんぎょうになるまでを描いています。知らない家にいきたくないおにんぎょうが公園で遊ぶ姿は微笑ましく、とても幸せな結末へと向かいます。

https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784033521701


『たべるぞたべるぞ』(田島征三 佼成出版社)

 シンプルなテーマで、田島のパワーが爆発です。そう、みんなたべる。さかなもたべる。やぎもたべる。むしもたべる。にんげんもたべる。たべていきて、たべていきて、たべまくるのだ。いきるのは、いいぞ。

https://books.kosei-shuppan.co.jp/book/b632545.html


『クリアせよ! スパイめいろ』(バレシア・ダニロヴァ、ショーン・シムズ他:絵 サム・スミス:文 宮坂宏美:訳 あかね書房)

 最初は、かなり簡単です。それで油断すると、後半が大変。いいバランスで難しくなっていきます。迷路物として、優れていますね。最後、苦労しました。

https://www.akaneshobo.co.jp/search/info.php?isbn=9784251097163


『パッチワーク』(マット・デ・ラ・ペーニャ:文 コリーナ・ルーケン:絵 さくまゆみこ:訳 岩波書店)

 子どもたち一人一人に語りかけるような絵本です。子どもの君は今、好きなこと、得意なことがある。でもそれだって変わっていくこともある。恐れないで。変わっていいのだから。生まれてから今まで、様々な好きだったこと、得意だったこと、全部がパッチワークになって君を作っている。力強いメッセージ。

https://www.iwanami.co.jp/book/b631505.html


『どすこいみいちゃんパンやさん』(町田尚子 ほるぷ出版)

 理屈はなく楽しめる絵本です。

 ねこのフミフミ、ニギニギでパン生地をこねて、焼き上がるまで、何故か土俵入りしているけれど、気にしない。見たいよね、土俵入りしているねこの姿って。

https://www.holp-pub.co.jp/book/b631133.html


【児童書】

『あしたへのまわり道』(梅田俊作・梅田佳子:作 ポプラ社)

 学校システムになじまず時々学校を休むイクハル。災害で父親を亡くし、今は祖母の家で暮らす、不登校のシュリ。父親の暴力を回避しながら、自分もクラスメイトをいじめてしまうヤラガセ。それぞれの事情を抱えた子どもたちが前を向いて一歩を踏み出すまでを描いています。願いが一杯詰まった秀作です。

https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8400008.html


『アンナの戦争』(ヘレン・ピーターズ:作 尾崎愛子:訳 偕成社)

 ナチスの迫害から逃すため、両親にイギリスへと送り出されたアンナ。疎開先の納屋で傷ついたイギリスの脱走兵を見つけ、世話をする。が、アンナは聞いてしまう。誰もいないとき彼がドイツ語で毒づくのを。イギリスへと送り出された子どもたちの歴史と、勇敢は一人の少女の成長を描いた物語。最後は泣かせます。

https://www.kaiseisha.co.jp/books/9784037268008


『100年見つめてきました』(吉野万里子:作 川上和生:絵 講談社)

 日本の100年を見通すために、日本最古の大型遊具であり、戦争遺跡でもある奈良県生駒市の生駒山上遊園地遊具「飛行塔」に視線を借りて物語られていきます。飛行塔ですから、感情過多になることもなく、淡々と語られる故に、時にこちらの感情が揺さぶられもします。


『ココロノナカノノノ』(戸森しるこ 光村図書)

 中学一年生の毛利ネネ(寧音)はいつも心の中に、生まれてくることが出来なかった双子の妹のノノ(野乃)を感じています。それは欠落ではあるのですが、一方で過剰でもあります。それがどうなっていくかが読みどころ。

ネネとノノという名前は、母親のナナ(奈菜)に由来していますから、ネネやノノは母親と分かち難く結ばれています。そして、ナナの妊娠を通して自らがノノと共にお腹の中で育っていった過程を辿り、ネネの欠落と過剰は一つのいとしさとして心の中に落ち着いていきます。生まれたのはるる。奈菜、寧音、野乃が漢字であるのと違ってるるがひらがななのは、この三人をめぐる欠落と過剰のドラマから彼女が距離を置いているからでしょう。

 ネネと、その同級生たちの関係性や距離感などの描き方はとてもリズム感よく、活き活きとしていて、本当にうまい。戸森さんは、「今」を代表する書き手です。

https://www.mitsumura-tosho.co.jp/shoseki/tobunohon/book-th011


【その他】

『いじめ防止法 こどもガイドブック』(佐藤香代 三坂彰彦 加藤昌子:著 まえだたつひこ:絵 子どもの未来社)

いじめ防止法(平成二十五年法律第七十一号いじめ防止対策推進法https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=425AC1000000071_20221001_503AC0000000027)から、子どもの権利条約(https://www.unicef.or.jp/kodomo/kenri/syouyaku.html)、憲法までを紹介しながら、「いじめ」とは何か、被害と加害、その対策までを詳しく、分かりやすく解説しています。子どもに届いて欲しいな。

http://comirai.shop12.makeshop.jp/shopdetail/000000000331/


『きみもできるか!? 天才科学者からの挑戦状』(マイク・バーフィールド:作・絵 ポプラ社)

 おもしろいです。古今の科学者たちが発明、発見した事の中で、今では簡単にできる実験を40数個解説しています。DNAを取り出したり、マイクロ波の速さを測ったり。科学がとっても身近になりますよ。

https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/4900309.html


『お仕事ノンフィクション 自分がえらんだはたらき方1 好きをきわめてはたらく』(お仕事ノンフィクション編集部:編 岩崎書店)

 全5巻。様々なはたらき方を具体的な人を紹介しながら解説しているので説得力があります。1巻では、こどもの頃から、けん玉が大好きだった伊藤佑介さんが、けん玉師という仕事を生み出して、どう活躍しているかがおもしろいです。

https://www.iwasakishoten.co.jp/search/s18623.html


『文月今日子の世界 最上級のロマンス・メイカー』(図書の家:編集 立東舎)

 わたしが少女マンガに興味を持ち始めた頃にデビューした文月さん。ユーミンやモトさんが時代の先っぽで描き始めた時、彼女の安定したラブコメは、少女マンガの豊かさを支えていました。ロングインタビューが、素晴らしいインタビュアーを得て、文月さんの50年を浮かび上がらせています。いいわあ。

http://rittorsha.jp/items/23317410.html


【絵本カフェ】

『ぼく』(谷川俊太郎:作 合田里美:絵 岩崎書店)

「ぼくは しんだ」。という言葉から始まる絵本です。続けて、「じぶんで しんだ」。「ひとりで しんだ」。

 「しんだ」と繰り返す言葉の前には「ぼく」、「じぶん」、「ひとりで」が置かれていて、自死であることをくっきりと浮かび上がらせます。

 このあと、生前の「ぼく」の様々な気持ちが語られます。

 「ともだち すきだった」。「おにぎり おいしかった」。「かねもちに なりたかった」。そして、そのあとには「ぼくは しんだ」と繰り返し述べ続けられます。

つまり、どんなことを思い、どんなことを感じていたとしても自死は、「ぼくは しんだ」というたった一言に収斂されてしまうのです。それまでどんなに豊かな人生であろうと、どんなに悲しい人生であろうと、「ぼくは しんだ」で何もかもが終わってしまう。

 その厳然たる事実があるにもかかわらず、「ぼく」は死んでしまうことがあるのです。

 絵本の中の「ぼく」は、いつもどこかを、何かを見つめていて、こちらを見ようとは決してしません。誰かと話す様子もありません。心はもう内に向かっていて、すべてのコミュニケーションも拒否してしまっているのでしょうか。

 こちらを向いて目を合わせてくれさえすればいい。クラスメイトに声を掛けるだけでいい。そういう歯がゆい思いが沸き起こってきます。

もちろん、生身の人間ではなく絵本の中の「ぼく」であるかぎりそれは叶わないのですが、その歯がゆさは読者の記憶に残り、自分自身が「ぼく」のような気持ちになったときの歯止めになるに違いありません。「ぼく」は「なにも わからず」、「ぼくは しんだ」と語りますが、読者はもう、死が何かをわかっているのですから。

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