【児童文学評論】 No.146 2010/03/31

          
1998/01/30創刊 今号の発行部数3202部
〔児童文学書評〕 <http://www.hico.jp>

【絵本】
『ともだち くろくま』(たかいよしかず くもん出版 2010)
 シリーズ四冊目。これで四季がそろいました。
 今作では黄色のきいくまくんが登場。
 黄色と黒がベースの画面の中で、黄色いチョウチョを追ったり、黄色い花畑にもぐりこんだり、お互い見え隠れしながら遊びます。この辺りの無理のない展開はさすが。
 今作でも、「アート」や「アイデンティティ」などよりむしろ「キャラ」を前面に押し出し、そこで何ができるかに力を注いでいるたかいの腰の据わり方が良く出ていて、好感度が高いです。(ひこ)

『うっかりもののまほうつかい』(エヴゲーニイ・シュワルツ:作 オリガ・ヤクトーヴィチ:絵 松谷さやか:訳 福音館書店 2010)
 機械を作る名人のイワンは魔法使いでもあります。
 ペットの犬もロボットです。
 通りすがりに出会った荷馬車を引いた子どもから、この馬をネコに変えられるかと聞かれ、小さくする魔法のレンズを使って見事ネコに変えるのですが、大きくするレンズがなくて馬はネコのまま。でも力は馬のままなので、子どもはそのまま連れて帰るのですが・・・・・・。
 といったユーモラスな展開の絵本です。
 1945年初頭、ソ連作品ということを考慮すれば、ここに寓意を見ることも可能でしょうが、オリガ・ヤクトーヴィチによる現在の絵は、あくまで軽やかに、物語の面白さを描き出します。(ひこ)

『王さまライオンのケーキ はんぶんのはんぶん ばいのばいの おはなし』(マシュー・マケリゴット:作・絵 野口絵美:訳 徳間書店 2010)
 王様ライオンの食事会に初めて招待されたアリ。ドキドキやってくると、ゾウやカバたちは好き放題に食べ散らかしています。最後に出されたのはデザートのケーキ。さすがに全部食べてはいけないなと、ゾウは半分食べてカバへ回します。カバはその半分を食べてゴリラに。
 という風にみんな次々半分食べて、最後にアリに回ってきたのは、ほんの一かけ。あんまり小さいので、半分にしようとしてアリはケーキを壊してしまいます。アリは礼儀知らずだと責める他の動物たち。
 恥じたアリは明日ケーキを一個自分で焼いて届けると王様に約束。するとほかの動物たちは意地をはって、アリの倍の数を届けると、次々と言い、最後のゾウはなんと二五六個!
 と、半分と倍の概念をユーモラスに 伝える絵本です。(ひこ)

『重さと力 科学するってどんなこと?』(池内了:文 スズキコージ:絵 「たくさんのふしぎ」2010・04 福音館書店)
 いよいよ301号に突入した「たくさんのふしぎ」。
 その節目にふさわしく、直球です。
 池内が重力という概念について、そのややこしさも含め、できるだけわかりやすく語っています。
 重力と質量の概念は、科学だけではなく物語にも大きな影響を及ぼしてきました。空を飛ぶことからテレポートまで、そしてアイデンティティそのもののイメージまで。要するに近代小説は、重力と質量から逃れられません。
 今作では、例によってスズキコージがイメージの赴くまま、でもちゃんと計算もしながら、科学で遊んでいます。(ひこ)

『パックン! おいしいむかしばなし』(ルーシー・カズンズ:さく・え 灰島かり:やく 岩崎書店 2010)
 「メイシーちゃん」シリーズでおなじみのルーシー・カズンズによる、おなじみの昔話8作まとめて絵本です。
 「あかずきん」「おおきなかぶ」「ブレーッメンのおんがくたい」など、これ一冊で楽しめます。
 ルーシー・カズンズの絵を賞味するにはぴったりの一冊でしょう。
 でも、最近どの社も、昔話絵本ばかり出してるなあ。安全策ですかね。(ひこ)

『ぼくとかれんの かくれんぼ』(あきびんご くもん出版 2010)
 あほくささで一級品である、あきびんごの新作。
 今作はアップリケ絵本。布絵なのですが、そのヘタ度はなかなかのものです。そして、なにより内容のベタさです。
 「ばく」と「かれん」で「かくれんぼ」から始まって、「ジャガー の じゃがいも」などといったものが連発されます。しかも、「ジャガー の じゃがいも」が布絵で、そのまんま描かれるわけです。
 大人にとってこの連発は、おやじギャグ以上の耐えきれない、あほくささなのですが、子どもはベタが好きなので受けることでしょう。(ひこ)

『ステラが うんとちいさかったころ』(メアリー=ルイーズ・ゲイ:作 江國香織:訳 光村教育図書 2010)
 赤毛のステラとその弟トムのこのシリーズももう10年ですか。早いですね。
 今作では幼かった頃のステラの目から、世界尾はどう見えていたかを描いています。
 読んでみなさんもきっと、うんうんと納得される事でしょう。確かに層だったと。
 そして今のステラがいるというわけです。
 ここには成長への不安はみじんもありません。ちょっとうらやましい。(ひこ)

『このあいだに なにがあった?』(佐藤雅彦+ユーフラテス 福音館書店「かがくのとも」2010・04)
 毛がフサフサの羊と、皮膚がむき出しの羊。「このあいだに 何があった?」という趣向です。
 おたまじゃくしとカエル。湯船におもちゃを浮かべて遊ぶ子どもと、おもちゃが洗い場に出てしまっている状態の子ども。
 二つの時間の間、その流れの中で何があったかを想像していきます。でもそんなの難しい想像ではありませんから、佐藤の思惑はそこにありません。プロセスを理解してもらうことがキモです。
 これも絵本ならではの方法で、なかなかおもしろいですね。(ひこ)

『がんばったね。ちびくまくん』(エマ・チチェスター・クラーク:作・絵 たなかあきこ:訳 徳間書店 2010)
 母子物です。
 母親は家事にメールにと色々忙しい。かまってもらえないちびくまくんは、一人遊び。それもだんだん夢中になって、一人で遊べた!
 という段取りです。
 変わることのないパターンですが、ママが育児以外のメールや電話をしている雰囲気は、今の時代の匂いが少しするでしょうか。(ひこ)

『カクレクマノミは大きいほうがお母さん』(鈴木克美:作 石井聖岳:絵 あかね書房 2010)
 わかりやすいタイトルですね。帯も親切で「オスがメスに変身?」とありますから、もうだいたい話はわかるでしょう。
 ですから後は、それをどう見せていくかです。
 図鑑的要素と絵本的要素を混ぜ合わせて、その辺りをクリアしていきますが、両者のタッチが似ているので、少し分かりづらいところが残念です。
 でも、こういう話を子どもの時に読むともう、絶対に忘れませんので、しかもこのテーマは、子どもたちがこれからインプリンティングされていくであろう性差への疑問の種を渡しておく意味でもいいですね、(ひこ)

【研究書】
『アリスの服が着たい ヴィクトリア朝児童文学と子供服の誕生』(坂井妙子 けい草書房 2007)
 『ウエディングドレスはなぜ白いのか』のような、衣装社会学としての目新しい視点があるわけではありませんが、副題にもあるように児童文学に携わる者は目を通しておいて損のない情報が詰まっています。
 児童文学は子どもの発見と、近代社会の大人が抱えた痛みを癒すための子ども幻想が相俟っていますが、それを衣装から検証した研究書です。だから、創作者にとっても、自分の立ち位置を確認するために役立つでしょう。
お金持ちの大学には一年間給与付きで仕事を休んで研究にいそしむことの出来る制度が備わっているのですが、この本もその成果です。
もちろんお金持ちでない大学では、そんな制度はございませんがね。(ひこ)
 
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【児童文学評論】 No.146          
Copyright(C), 1998~ 甲木善久 金原瑞人 三辺律子 鈴木宏枝 芹沢清実 西村醇子 野上暁 ひこ・田中 ほそえさちよ 堀切リエ 目黒強 令丈ヒロ子
許可無く転載することを禁じます。
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