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ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.6

東京・白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。

第二章 プロの世界へ

“はじめまして”の方で、vol.1から読みたいと思ってくださった方はコチラからどうぞ
 → 第一章 レストランのシェフになる

6.レストランモナリザで始まった料理人人生

「バターを切る」って難しい!

「モナリザ」で最初に任された仕事は、パン用にお出しするバターを切ることと前菜でした。
1ポンドのバターを縦横4等分して厚さ5mmほどにカットする。単純ですが、やってみるとこれが意外と難しい。真っすぐ切っているつもりでも曲がってしまっていたり、等分と思ったのが違ったり。小皿に3切れずつ盛るので、大きさの違いは一目瞭然。サービススタッフに叱られることもしばしばでした。
前菜の仕事もあるので、バターにばかり時間を使う訳にはいかない。お客様にお出しするものなので大切だけど、仕事としては単純で面倒くさい作業だし、できるだけ早く終わらせたい。でも速さに気を取られて断面が曲がれば、ヘラで直したり余計に時間がかかってしまう。
「包丁を温めて切る」といった基本的なことは、聞けばシェフも先輩も教えてくれます。しかし、どうやったらきれいに切れるか?手早くできるか?は自分で考えて見つけなくてはなりません。
包丁の水分を取りきる、包丁を2本使う、切った後のバターの並べ方を変えるなど、美しさや作業効率を上げるため日々工夫を重ねて試行錯誤していました。

任せられた仕事以外をどれだけ出来るか

前菜も同じです。例えば、「モナリザ」のアミューズの定番「ナスのカネロニ」なら、ナスを薄くスライスしてオーブンで焼き、ナスのピュレ、トマト、バジル、サーモンを巻く・・・といったことを120人分やります。やはり、いかにおいしく、美しく、手早く作業するか、なんです。
当時「モナリザ」の厨房には、前菜、ソース、肉・魚、デザートそれぞれにシェフ・ド・パルティがいました。僕は6人目のスタッフとして入り、バターと前菜が終わると、肉・魚セクションで付け合せを切るなどの手伝いをしていました。
1ヶ月ほどして配置変えがあって、ソースと肉・魚のシェフが入れ替わりました。その頃、僕は6時くらいには店に入って、先輩が来る前にバターと前菜を終わらせるようにしていました。そうすれば、先輩が来た時には手が空いているので、先輩に新しいことを教われるからです。さらに「明日何をやるか」を聞いておいて、翌朝その“やること”を先輩が来る前に終わらせておく。そして、また一つ上のステップのことを教えてもらう。
そうこうするうちに、1ヶ月半もすると先輩のやることがなくなりました。僕も早々に自分の仕事を終えるので、二人で前菜の仕込みを手伝ったりしていました。

シェフ・ド・パルティ就任!

そうしたらある日突然、その先輩が店に来なくなったんです。いわゆる“ばっくれ”です(笑)。そして河野シェフが魚・肉セクションのシェフに指名したのが、なんと僕だったんです!まだ入って3カ月くらいの20歳で、ですよ?驚きましたが、もちろん嬉しくもありました。でも僕が失敗したら、「モナリザ」の看板に傷をつけるし、河野シェフの顔に泥を塗ることになる。それは絶対に嫌だったので、必死になりましたね。

「大変」を「チャンス」に

シェフ・ド・パルティになってからも、変わらず料理以外のこともやり続けました。例えば、他のスタッフが来る前にダスターの準備をしておく、とか。当時、僕は20歳で年齢も店でのキャリアも一番下だし、人より一生懸命やるのは当然。「柴田がいると、朝来てすぐに仕事ができる(から助かる)」と思ってもらえればと思って、他のセクションの準備も進んでやっていました。
先輩の中には「次は自分が肉・魚セクションで!」と思っていた方もいたでしょうし、自分より年もキャリアも下の人間が自分たちを飛び越えた役職に就くことを面白く思わない人だっているでしょう。でも「モナリザ」の厨房には意地悪や嫌がらせをする人は一人もいませんでした。
河野シェフも毎日だいたい9時か9時半くらいにお店に来ていましたが、来ると「柴田、何かやること出しといて」と言って、仕込みを一緒にやってくださるんです。でも僕はこういう性格なので、シェフに聞かれたら「大丈夫です!」と答えたい。だからシェフが来る前にがんばって全部終わらせちゃう(笑)。
実は僕は先輩が急にいなくなった時、焦ったり不安になったりということは全然なくて、「出来る仕事が増えてラッキー!」と思ったんです。
そんな毎日の中、シェフや先輩方に恵まれた環境にも助けられながら貪欲に自分の技術や仕事の質、キャパシティを高めていきました。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

公式Youtubeチャンネル、Facebookページもご覧ください。


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