見出し画像

ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.7

東京・白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。

第二章 プロの世界へ

“はじめまして”の方で、vol.1から読みたいと思ってくださった方はコチラからどうぞ → 第一章 レストランのシェフになる

7.フランスへ!!

スーシェフ抜擢!

2002年、東京駅の目の前に誕生した丸の内ビルディングの最上階に「レストランモナリザ丸の内店」がオープンしました。僕は丸の内店のオープニングスタッフとしてしばらく働き、恵比寿の本店に戻りました。なんとポジションは、スーシェフ!恵比寿本店のシェフに就任した小暮さんが僕を指名してくださったのです。
小暮シェフは、料理の腕が素晴らしいのはもちろん、河野シェフの料理を数字という形で定量化した凄い方でした。僕自身にとっても、「僕の今の料理の大半は小暮シェフに教わった」と言っても過言ではない大きな存在です。

シェフを目指すために

24歳で恵比寿本店のスーシェフになって2年ほど経ち、僕は26歳になっていました。当時、週に一度、河野シェフも小暮シェフも不在になる日があったのですが、僕は店を営業するのに必要なことは全て出来ていたので、問題ないだろうと思っていました。でも、現実は甘くなかった。「一人でやる大変さ」を実感し、「シェフの大変さ」をとことん思い知ったのです。
そうして本店に戻って3年経つ頃には、僕の中でフランス修業へと気持ちは固まっていました。

フランス修業を決意

実はフランスに行くのは初めてではありませんでした。スーシェフとして働いてしばらくした頃、河野シェフが1ヶ月間フランスに行かせてくださったんです。しかも「仕事」としてではなく「お休み」扱いで。その上、費用も河野シェフが出してくださいました。
パリを中心に気になっていたお店で食事をしたり、街や人を見たりして、いろいろ刺激を受けて、楽しかったですね。河野シェフはもっと仕事寄りの過ごし方を期待されていたようでしたが(笑)

2度目のフランス、今度は100%仕事です。フランス語も出来るだけ勉強しておこうと参考書を3冊買って読み込みつつ、プレイステーションポータブルで常にフランス語を聞くようにしたりしていました。
その時、修業したいと思っていたお店がブルゴーニュのシャニィにあるミシュラン三つ星店「メゾン・ラムロワーズ」でした。河野シェフに相談してコネクションを作っていただき、最終的に、まずボーヌのシャルルマーニュで働いてからラムロワーズに行くという手筈になりました。
そして「モナリザ」を退職し、ワーキングホリデーでフランスに渡りました。27歳でした。

一筋縄ではいかなかったフランス初日

フランスに着いたその足でボーヌに向かいました。到着した頃には日も暮れて、迎えらしき人はおろか辺りには人の姿が殆どありません。尋ねようとしても、僕のフランス語は全く通じないし、相手の言っていることも分からない。途方に暮れていたところに、一人の日本人が自転車に乗って現れました。
シャルルマーニュで働いると聞いて安心したのも束の間、店に連れて行ってもらうとオーナーシェフはシンガポールに行っていて不在とのこと。店の人も僕のことは誰も何も聞いておらず、仕方なく「ラムロワーズ」に行ったら、こちらもオーナー不在。代わりに出てきたシェフは「話は聞いていない。空きはない」の一点張りです。フランス語と格闘しつつ、何とかラムロワーズ出身のシェフのお店を紹介してもらうことになり、20分ほど離れたブイヨンという村にある「オステルリー・ビュー・ムーラン」へと向かいました。

震える手を握り締めた夜

「オステルリー・ビュー・ムーラン」に着いたのは、もう夜中近くでした。オーナーと話をして、明日から働くことにOKをいただいた時、心底ほっとしたのを覚えています。店の裏に寮もあって、厨房スタッフらしきフランス人の青年が部屋まで案内してくれました。
荷物を置いて最初にしたのが、神棚づくりでした。神棚といっても正式なものではないですよ。自分なりにお守りを飾った、自分にしか分からない神棚です。
飾った瞬間、突然、手が震え出しました。誰ひとり知っている人がいない中、言葉は通じない、相手の言っていることも全然分からない、自分が経験したことのない状況で自分は本当にやっていけるのか?ぶるぶると震える手を押さえながら「無理だ。日本に帰ろう。」と本気で考えていました。
そうして僕のフランス修業始まりの長~い一日は、恐怖と不安でいっぱいな中、幕を閉じたのでした。

*******************
このnoteを初めて読んでくださった方へ
*******************
はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

お店の公式Facebook、youtubeチャンネルもご覧ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?