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ミシュラン三つ星レストランへの挑戦 vol.4

東京・白金のフレンチレストラン「ラ クレリエール」のオーナーシェフ、柴田が日々、何を考えているかを綴ります。

第一章 レストランのシェフになる

“はじめまして”の方で、vol.1から読みたいと思ってくださった方はコチラからどうぞ → 1. シェフになろうと思ったきっかけ

4.身体も心も料理漬けで学んだ1年間

「串の坊」でのバイトで学んだこと

串の坊」では、僕はカウンターで店長の横に立って串カツを揚げていました。アルバイトの仕事は大半は洗い場、良くても裏のキッチンでの作業が多く表には出ることは少なかったので、ちょっと珍しいケースだったと思います。出来ることは何でもやろう、先輩の仕事を覚えようとしているうちに気づいたらそこにいた、という感じでしたが、いま思うと恐ろしいですよね。銀座の本店ですから、カウンターには接待や同伴のお客様がズラリ。そこに19歳の若造が串カツを揚げてお出ししてるんですから。
でも店長も先輩もきちんと叱ってくれる方々だったので、調理だけでなく会話やお飲み物などお客様の様子にも気を配るカウンター仕事というものを学ぶことができました。お客様の目の前で緊張感をもって仕事をしているプロの姿や料理の手際を間近で見られたことも大きかったです。

レストランモナリザとの出会い

モナリザ」に初めて行ったのは、学校のホームルームで先生が「タイユバンロブション出身で独立したシェフのお店で美味しいから食べ歩きの選択肢に」と話していたのがきっかけでした。話を聞いて、すぐに食べに行きました。そうしたら、辻調の学生ということで河野シェフが出てきてお話をしてくださったんです。そしてフランスのスタジエという制度を教えてくれて、研修に来ても良いよ、と言ってくださって。
さっそく「串の坊」に事情を話して月に1~2日お休みを入れてもらい、研修に行きました。他に在学中に研修に行っている学生がいるという話は聞きませんでしたが、僕自身は「モナリザ」で1年以上研修させていただきました。

レストランの研修で学んだこと

研修とはいえ、当然ながら当時の僕に出来ることは洗い物だけ。先輩がシェフにパセリのちぎり方や苺のヘタの取り方を注意されていても、僕から見たら何が悪いのか分からない。分からないから質問もできない、洗い物をしながら、ひたすらプロの凄さを感じていました。
シェフがお客様の注文を読み上げるのもフランス語なのでチンプンカンプン。でも何とか分かるようになりたくて、洗い物の横に紙とペンを置いておいて、耳で聞いたままをカタカナでメモして、営業後に先輩に聞いたりしていました。メモを見てキッチンは大爆笑。先輩も笑いながら教えてくれました。そのうち副料理長が勉強の助けにと伝票を捨てずに取っておいてくれたりして。有難かったですね。少しでも分かるようになると面白くて、もっと知りたい!もっと出来るようになりたい!と思いましたし、「なんとかそっち側(=プロ)になりたい!」とますます思うようになりました。

間近で見たプロの仕事が教えてくれたこと

「串の坊」や「モナリザ」で間近にプロの仕事を見たことは、学校生活にも影響していました。実習の時も段取り良く動けるし仲間に指示を出したりも出来るので自然とリーダー的な立場になっていたりして。でも目立つことだけではなく、人が嫌がる仕事も率先してやるようにしていました。例えばプラック(ヒートトップレンジの上にある鉄板)を1年間ひとりで洗うとか。プラックは常時加熱しておいて鍋の保温や過熱を行うものなので、洗うのが大変なんです。地味で目立たないことも一生懸命やっていると周りも認めて受け入れてくれます。リーダー然として浮くことなく、良い関係で頑張ることができました。
実働的なこと以外にも、店長として店を背負って仕事をする人と1スタッフとして働く人との意識の違いというか、覚悟の違いも肌で感じて、「自分で掴もうと思えば掴めるものを掴もうとせずに文句を言うだけの人間にはなりたくない」と思ったのを覚えています。そして学校で過ごす中でも「自分がどこにたどり着きたいか?」を常に意識するようになりました。

料理漬け真空パックの中で

エコール 辻 東京 は、プロの現場で活躍し続ける力を身につける学校なので、入学した当初は知らないことや出来ないことだらけ。でも、それが僕には楽しかった!「なんでこうなるんだろう?」を解決したくて追求していくと、「職人の所作や技術を突き詰めていくと美味しさに繋がる、そして人が喜ぶ」ということが分かってくるんです。さらにバイト先や研修先でプロフェッショナルが真剣にやっている姿を見ることができました。
1年間まるで真空パックのように料理漬けになっていた日々の中で、「最終的にはお客さまと自分があるだけ。誰も助けてはくれない。」、「お客様との勝負ではなく、お客様を納得させられる料理を作れるかが勝負」ということを身体と心で学ぶことができたと思っています。

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このnoteを初めて読んでくださった方へ
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はじめに初めまして。ラ クレリエールの柴田です。
白金でフレンチレストランのオーナーシェフをしています。
2020年のコロナ自粛の間、レストランのあり方や自分が今後進むべき道など色々と考えました。その中で「ミシュランで三つ星を獲得すること」を一つの指標として強く意識するようになりました。
そして、どのようにすれば三つ星を獲得できるのか、三つ星にふさわしいと皆様から認めていただけるのか、日々、考えたことや行動したことを記録に残そうと考えました。
ご興味を持っていただけたら幸いです。

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