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【書評】治療的アセスメントのさいしょの名著 「MMPIで学ぶ 心理査定フィードバック面接マニュアル」


 本ノートは、「MMPIで学ぶ 心理査定フィードバック面接マニュアル(スティーブン・E・フィン著 田澤安弘・酒木保訳)」(以下、本書)を読んだ感想です。

 さいしょにまとめると、本書は、埋もれた良書で、治療的アセスメントのコンパクトなダイジェストに大変有用な書籍です。必ずしも「MMPI」でなくとも転用しうる方法論に満ちています。


ずっとさがしていた、けれど・・・・

 数少ないMMPI関連書籍。これはみたことなかったからほしいなあとずっとおもっていたけれど、入手困難でした。新しい版は出していないのか中古ばかり。メルカリで2万ちかくってどういうこと?と購入できずにいました。でも最近中古で2000円程度で発見!ついに購入したんです。

「治療的アセスメント」の、さきがけの良書


 さて入手して、読んでみると・・・・あれ、知ってる。この内容、しってる
   というのは、「治療的アセスメントの理論と実践 クライエントの靴を履いて(スティーブン・E・フィン著 野田昌道・中村紀子訳)」(以下、理論と実践)にも十分含まれる内容です。いわば本書は「理論と実践」をコンパクトにしてMMPIだけに絞った著作。「理論と実践」は本書より包括的かつ総合的に治療的アセスメントを扱っています。治療的アセスメントを学びたい場合は、「理論と実践」から、がやっぱりおすすめ。それでも出版年は本書のほうが早いので、こちらがさきがけ。でも本書は治療的アセスメント要点をシンプルにコンパクトに語っています。あえてざっくりと要約してしまえば、治療的アセスメントは、心理検査を治療的行うためには、しっかり主訴をきいて、患者さんの知りたいことを第一にして、検査結果を患者さんに分かりやすい形でならびかえてつたえるようにして、対話していくといい、というもの(詳しくは本書とか「理論と実践」とかを参照)。本書ではその、おおむねの原理はほぼ一ページに要約されます。この原理が骨太。薄く、粗削りですが、「理論と実践」よりも、端的かつコンパクトに思えます。
 ぼくはかつて心理検査・アセスメントをまなんだときには「治療的アセスメント」とはならったことがありませんでした。アセスメント/心理査定は、わざわざ「治療的」とつけていなかったんです。つまり「対象者の心理をアセスメント・見立てを行う、検査する」ことは、治療と同じ文脈では語られていなかったのです。でも患者さんたちって常に求めてるのは「治療」。なんのためってみんなたいてい「治療」のために訪れます。心理検査だって同じ。みんな「治療」になるから検査もするのでしょう?

でも、

半世紀も前のメニンガー・スタイルに従い、病理を見逃すまいと長時間かかるお決まりのバッテリーを組んで、あげくのはてにフィードバックをしない、などというのはもうやめようではないか

本書p134 訳者あとがき 田澤安弘


 本書の良いところの一つに、ボリューム満点で有用性の高い「訳者あとがき」があります。MMPIとロールシャッハテストの組み合わせパタンの理解の仕方をまとめていますし、心理検査の「情報収集モード」と「治療モード」の違いの要点もまとめています。それはすべて著者フィン先生の見解です。一粒で二度おいしい著作。ぼくは“MMPIとロールシャッハの組み合わせ”については「理論と実践」でしり、日々よくよく参照しています。なにより、本体部分のフィン先生の巻末文献リストより「訳者あとがき」の文献リストのほうが豊富。訳者の田澤先生の博識と学びの広さに感服します(※1)。

残念なことに・・

 惜しむらくは現在入手困難。MMPI-3時代に突入した現在に、復活の兆し・・・・・・・あるのでしょうか?。そもそも本書ではMMPI-2。本書が多くの人に買われ続けて版を重ねないのはおそらくそのタイトル。「MMPI」をかかげ、なおかつそれが「MMPI-2」であったこと(出版当時、MMPI―2は日本語化されていない)があげられましょう。もう一つは、「MMPIの解釈法」の本じゃないということ。いかに解釈するかという点でたいていの初学者は混乱するものです。にもかかわらず「フィードバック」。MMPIも「2」だしさ、「解釈の本」じゃなくて「フィードバック」だしさ・・・・・初学者には縁遠くかんじるのではないでしょうか。出版当時は「治療的アセスメント」の言葉もなじみがなく、「フィードバック」としてしまったのも、今としてはもったいなかったのかもしれません(当時を思えば「治療的アセスメント」の言葉のほうがさらに読者には縁遠かったかもしれないですが)。

本書が「基礎」になってほしい

それでも訳者・田澤先生は高らかに語ります、

「フィードバック面接は査定者にとってもはや義務(P127)」
「本書が臨床心理学の初学者にとって必読の書になることを願っている(p127)」

本書 訳者あとがき 田澤安弘

 ぼくは、治療的アセスメントをならうことなく学生時代を終え、現場で治療的アセスメントの重要性に気づかされました。その経験から考えると、初学者に“必須”かといわれると少し考えてしまいます。学ぶには、「応用」的な難しさ、を感じもします。初学者には検査を解釈して所見をまとめるだけで精一杯。そのさらに先に、しかも所見をひっくり返すくらいの視点で「フィードバック」を考えるのって、結構脳みそ重労働、とも思います。
 でも「現場での有用性の高さ」は圧倒的です。検査を受ける多くの人は「知りたい」と思います。「自分が知りたいと思うこと/自分の疑問」を、やっぱり知りたい(※2)。本書に繰り返し示される原則に「査定のゴールを定める(p16)」、それは「クライエントの知りたいこと(p21)」にこたえること、です。それにいかにこたえるか、その具体的かつ実践的な方法・工夫に満ちているのが本書です。だからやっぱり、これが「基礎」となってほしい、とおもうのです。

[注釈]

(※1)ぼくのMMPIの学びは田澤先生のサイトからの情報が大きいです。田澤先生、自らは「ロールシャッハテストの研究者」でMMPIは門外漢、とのこと。でもほかにないMMPI情報を出してくれています。この場を借りて感謝申し上げます。おかげさまでよく学べています。ちなみに田澤先生のロールシャッハのある論文はもうほとんど哲学者。メルロポンティがロールシャッハ研究やったらこんな文章かくのかな。と、メルロポンティの「知覚の現象学」をよみながらおもいました。田澤先生論文は多少理解できた気がして「知覚の現象学はよくわかんなかった・・・。
(※2)実際の場面では「しりたい」どころか検査すら望まない人もいます。「心理検査でなにか知りたい?いや、でも検査受けろって言われたから」という受動的で自ら「主訴がない」タイプ。例えば「親に連れてこられた不登校の子」。それでも治療的にアセスメントを行うために「主訴をきく」ことはやっぱり重要です。聞くことによって、わずかにでも「知りたいこと」が語られると、「治療的」な雰囲気が引き出されることがあります。いいかえれば「親がうけろっていった、やらされる検査」が「自分にメリットがあるかもしれない検査」にかわる可能性がある、ということです。

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