見出し画像

【上野くんと往復書簡】(五通目)|のだめカンタービレの千秋さまがすごい


働く大人の自己肯定感について友人の上野くんと往復書簡を始めて五通目になります。下の記事は前回、上野くんからいただいたお返事(四通目)です。いきなり五通目に入る前に、まずはこちらの文章を読んでいただければ。


上野くん。こんにちは。

上野くんと同じように、ぼくも週末が近づくとお返事を書かなきゃとソワソワするようになってきました(笑)。


その割に前回から二週間くらい待たせてしまってごめんなさい。書こう書こうと思っていたんですよ。本当に。


さて、これまで二人でやり取りしてきた論点1〜3を考えるにあたって、以下の視点をいただきました。

高垣先生は高い自己肯定感を維持している状態をある種の大きな目的として捉えるべきだと主張しているのでしょうか。
「自分という存在を支える根っこのようなもの」という表現に含まれた高垣先生の意図を解きほぐして解釈することが
【論点②】「自己肯定感を高めよう」とみんなが言うのはなぜなのか?
【論点③】「働く大人」にとって自己肯定感が大切なのはなぜなのか?

この2つの論点の橋渡しになる視点のような気がします。


ぼくは三通目で、高垣先生が提唱する「自分の中の全ての自分を受け入れる」自己肯定感がどのような経緯で生まれたのかを、勝手な想像も含めながら上野くんにお話ししました。

ですが、高垣先生が「高い自己肯定感を維持している状態をある種の大きな目的として捉えるべきだと主張」しているかどうかは、ぼくには分かりません。

ただ、これまでの高垣先生との関わりから感じるのは、スキルとしての自己肯定感から、「自分の中の全ての自分を受け入れる」自己肯定感への理解のシフトこそが、高垣先生の主張なのかなと思っています。

なので、高垣先生がいう根っことしての自己肯定感(=「自分の中の全ての自分を受け入れる」自己肯定感)の意図を解きほぐすことが、【論点②】と【論点③】の橋渡しになるかと言われると、ちょっと分かりません。

でも、上野くんからもらったお返事から考えたことをまとめたこの五通目では、【論点③】まで触れるようなお話ができればと思っています。ずいぶんお待たせちゃったしね。


【論点②】「自己肯定感を高めよう」とみんなが言うのはなぜなのか?


この理由を考えるにあたって、上野くんは、

自己肯定感の高さがハイパフォーマンスにつながる。
もっといえば、「自己肯定感の高まり→セルフコントロールの向上→パフォーマンスの向上」

というロジックを提示してくれました。


自己肯定感が高い人は、他人の言動や環境の影響、身近な誘惑に振り回されることなく、自分の意思で物事を決定・遂行できる(=セルフコントロールの向上)。結果、自分にとって重要なことを成し遂げることができ、パフォーマンスが向上する。(四通目より)


そして、こう捉えると自己肯定感が低い人や上昇志向が強い人など、いろんな人にとって自己肯定感を高めることが魅力的に映るので、「自己肯定感を高めよう!」とみんなが言うのだと。


いや、その通りですよね。多くの人が自己肯定感を高めようと言うのは、きっとこのロジックからだと思います。仕事柄、保護者さんと子どもの進路について話すと、「自分に自信を持って、自分が行きたいと思う学校を選んで欲しいんです」とおっしゃる方がままいます。

もしかするとこのような保護者さんたちも、上野くんがいうロジックが頭にあったかもしれません。

【論点②】「自己肯定感を高めよう」とみんなが言うのはなぜなのか?

この答えとしてはバッチリだと思います。


ただ、この「自己肯定感の高まり→セルフコントロールの向上→パフォーマンスの向上」という順序で考えると、「働く大人」が自己肯定感を高めるにどうすれば良いのか考えきれないんです。ぼくにとっては。

「働く大人」が自己肯定感を高める方法は、論点に挙がっていませんが、自己肯定感の向上を考えたくてぼくたち二人のやりとりを読んでくださる方がいるかも知れないので、参考になる方向性くらいは示したい気持ちです。

上野くんの興味がない部分だったらごめんね。少し付き合ってください。


「働く大人」が自己肯定感を高めるにはどうすれば良いのか。

ぼくは、「自己肯定感の高まり→セルフコントロールの向上→パフォーマンスの向上」の順序ではなく、

「セルフコントロールの向上→自己肯定感の高まり(分人軸的にも時間軸的にもOKと思える)→パフォーマンスの向上」

なら、自己肯定感を高めることが可能ではないかと考えました。


この理路を説明する中で、

【論点③】「働く大人」にとって自己肯定感が大切なのはなぜなのか?

にも触れていくつもりです。


お気づきだと思いますが、上野くんが示してくれた順序の1つめと2つめが入れ替わっています。

これは、ぼくと上野くんでセルフコントロールの解釈が違うからだろうなと思ったので、ぼくがセルフコントロールをどう捉えているについてお話ししますね。


まず、分人主義の考え方を使って、「自分の中の全ての自分を受け入れる」自己肯定感を整理してくれてありがとうございました。


縦:分人軸 ー 自分にはどんな分人がいて、それぞれどういう状態か
横:時間軸 ー 過去・現在・未来における自己認識(=自尊心・自己効力感)


この文章が目に入った瞬間、「そうそう!いろんな自分って、これのこと!」と思いました。これから自己肯定感の説明をするときは、パクらせてもらいますね(笑)。


恥ずかしながら、分人主義については耳にしたことがあるくらいで、その意味をよく知らなかったので分人主義を学ぶ良い機会になりました。

お家ではゲーム三昧の自分
同級生にフラれた当時を思い出してほろ苦い気持ちの自分
職場では猫かぶっている自分
一週間後のプレゼン準備が進まず明日は怒られそうな自分

たくさんの時間軸と対人関係の中で生まれた自分(分人)がいますよね。


心理学ではこれを「自己複雑性」というそうです。

自己複雑性は、心理学者のリンビルが1985年に提唱した概念です。自分を多面的に把握しているか、それとも一面的で単純な捉え方しかしていないかという自己知覚構造の特徴のことだと、以前ぼくが主催したフォーラムで登壇いただいた先生に教えてもらいました。

たくさんの自分(分人)を知覚していると自己複雑性が高いです。なんと自己複雑性が高い人ほど、ストレスフルな出来事があっても落ち込みが少ないんですって。

「仕事で失敗したけど、ゲームでストレス発散しよう」とか、「彼女にフラれた…友だちに声かけていっぱい愚痴きいてもらおう」と切り替えができるからでしょうね。分人で説明するなら、分人Aが傷ついたから分人Bと分人Cにフォローしてもらおうという具合でしょうか。


自己複雑性とストレスの関係も面白いんですが、自己複雑性の理解で欠かせないのが「エージェントセルフ(統括する自己)」です。

この「エージェントセルフ(統括する自己)」は、様々な自己の側面を調和がとれるように方向づける存在だそうです。

ゲームが好きな自分
友だちの前では明るい自分
職場では暗めの自分
過去の失敗を今でも引きずっている自分

オーケストラで例えると、これらの様々な自己(分人たち)一つひとつが楽器の奏者です。チェロとかティンパニーとかトランペットとか。対して、エージェントセルフは指揮者です。『のだめカンタービレ』の千秋さまです。

ぼくが考えるセルフコントロールは、エージェントセルフが健全に働いてもらうことです。上野くんが言った、自分の意思で物事を決定・遂行できる自分も、ぼくの中では様々な自己(分人たち)の一つだと解釈しました。

だから、パフォーマンスの向上を考えたときに、セルフコントロールの向上が一番最初にくるんです。

もう少し話を続けますね。

「エージェントセルフ(統括する自己)」の獲得無しにはセルフコントロールは始まりません。獲得といっても難しいことではなく、エージェントセルフは客観性が芽生える思春期くらいから自然と育ってきます。(発達の程度はあるとしても。)


そして、セルフコントロールを向上させるとは、エージェントセルフが環境や他人との関わりの中で、自己の様々な側面に気づいたり生み出したりすること。そして、様々な自己(分人たち)を全体的に調和させようとすることです。

チェロにだけやたら厳しくて、他のパートにはとても甘い千秋さまとかイヤですよね。本当はオーボエもオーケストラにいるのに、その存在に気づいていない千秋さまはもっとイヤです。

エージェントセルフの働きは、高垣先生の「自分の中の全ての自分を受け入れる」自己肯定感ともぼくの解釈では繋がります。エージェントセルフが「根っこ」なんだろうと思っています。

作者が意図して描いたかは知りませんが、『のだめカンタービレ』は千秋さまを通して、エージェントセルフの望ましい働きを極めて巧みに描いています。千秋さまは、作中で個性とトラブルに溢れる様々なオケを指揮しますが、一度もメンバーを見捨てません。

メンバーの一人ひとりと向き合い、時には自分を変容させながらオーケストラを導いていきます。エージェントセルフのお手本のようです。『のだめカンタービレ』はただの恋愛漫画じゃありません。あの漫画は本当にすごい。


ちょっと脱線しました。

エージェントセルフについて、もう少しだけ具体的な話をさせてください。様々な自己を全体的に調和するにはどうすればいいか触れておきたいです。先ほどチラッと話したフォーラムで教えてもらったのは、様々な自己(分人たち)全てに意味や価値を見出していくんだそうです。


「テストで40点しか取れなかった。終わった。」ではなく、「40点取れたうちの20点は友だちに教えてもらったから取れた。教えてもらうのは初めてだったけど、悪くないなぁ。」

「彼氏と別れた。もう無理。」じゃなく、「大好きだった彼氏と別れることになった。すごく悲しいけれど、今は自分にとって仕事の時間を大事にしたいと気づけた。ありがとう。」

みたいな感じです。

子どもの自己肯定感を育みたいなら、子どもは表現するための語彙も、意味や価値を感じる物事も少ないので、大人が意識的に日常の些細なことでも意味や価値を言葉にしていこうね、とも教えてもらいました。


このように、一見ダメに思える様々な自己(分人たち)にも意味や価値づけがなされ、調和する(=受け容れる)ことができれば、

「これまでもおっけー」
「これからもずっとおっけー」
「だから私はおっけー」
(=自己肯定感の高まり)

になると思うんですが、どうでしょう。

さらには、「オッケー」な自分だからこそパフォーマンスを向上させようという意欲も湧き、結果としてパフォーマンスも向上すると考えます。心理的な安全性が担保されているコミュニティでは集団に属するメンバーのパフォーマンスが向上するそうです。(『心理的安全性のつくり方』より)


整理すると、

「セルフコントロールの向上→自己肯定感の高まり(分人軸的にも時間軸的にもOKと思える)→パフォーマンスの向上の意欲が湧く→パフォーマンスの向上」

こんな流れです。

ずいぶん長くなりましたが、パフォーマンス向上に至るまでの道筋について、ぼくの考えは伝わりましたかね。ぼくと上野くんでは解釈が違うだろうと思い、自分の考えを説明してきたけれど、実は解釈が同じだったら言ってね。

そしてようやく、

【論点③】「働く大人」にとって自己肯定感が大切なのはなぜなのか?

自分の考えを述べて、次回へのパスにしようと思います。長かった(笑)。


ここまでの自分の考えを踏まえて言えば、働く自分のパフォーマンス向上を狙って自己肯定感を高めようとすると、結果的に自己肯定感が下がってしまう。少なくともその可能性があると考えます。

それは、エージェントセルフが、パフォーマンス向上につながらない自分やそれまでの過程を認めず、全体としての自分の調和が取れなくなるからです。


「自己肯定感を高めるために、自分のいいところを100個書くぞ!書き終えた頃には仕事をバリバリこなす理想の自分のヒントが見つかるはず。」
(1時間後…)
「うーん、なんか違う。しかも全然良いところが浮かばないし。はぁ…」


こんな倒錯が起きる可能性があると思っています。ただ、この辺りの理路がまだ自分の中で整理しきれていないので、上野くんとのやり取りで探っていけたら良いなと思っています。

おそらく、「働く大人」としての自分(分人)が損なわれたり傷ついたりしたときにエージェントセルフがどう働くかで差が出てくる気がしています。

それこそ、本来働く自分だけが自分の全てではないはずなのに、働く自分にのみ関心を向けざるを得ない状況にいることがあまりにも多いという、分人主義的な観点からも自己肯定感が大切だと言えるのかな。


なんだかやり取りを重ねるたびに文章が長くなっていますが、最初の申し合わせでは3〜4往復くらいのやり取りを予定していたので、そろそろ終わりが近づいてきました。

3つの論点を語り合い二人が納得できる結論が出るのか。はたまた「俺たちの戦いはこれからだ!」的なオープンエンドになるのか。

予想がつかないけれど、最後まで往復書簡を楽しんでいきましょう。


セルフコントロールの向上や、【論点③】についてどう考えていますか。

上野くんからのお返事を楽しみに待っていますね。

年度末なので、お仕事も忙しいだろうから落ち着いたタイミングで良いからね。健康と質の高い睡眠を大事にしよう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?