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第3話 雪の花(小説/ラブストーリー/ヒューマンドラマ)

-6-

ブーッ ブーッ

「……」

ブーッ ブーッ

「……?」

スマホの振動がテーブルを揺らし、氷室は自分が寝てしまっていたことに気づいて、顔を上げた。突っ伏していたためか、差し込まれる記憶について書いたノートに一部、しわができている。

「ん……」

一度伸びをして、首をくるくると回してから、振動を続けているスマホを手に取った。

「もしもし」

「マサ? なに? 寝てたの? 仕事は?」

電話の向こうで、菜々美はまくしたてるように言った。

「今日は休んだ。どうした?」

「風邪とか? 大丈夫?」

「大丈夫だよ。今日は仕事が落ち着いてたから、ちょっとのんびりしようと思っただけだ」

「本当に大丈夫……?」

菜々美は、少し含みがあるように言ったが、氷室は姿勢を正して、

「問題ない。で、どうした?」

「大丈夫ならいいけど……あのね、夕飯でもどうかなと思って。あたし、明日休みなの」

「そうだったな。ごめん、忙しくてうっかりしてたよ。じゃあ、今日は夕飯食べて、そのまま家に泊まるか?」

「うん、そうしたい。実は着替え持って仕事来てるし(笑)」

「そうだったんだな(笑)
俺は家にいるから、仕事終わる頃に連絡くれるか? 駅まで迎えに行く」

「うん、ありがとう。また連絡するね」

電話を終えると、裏側を上にして、テーブルにスマホを置いた。時計を見ると、16時まであと5分というところで、家に帰ってきたのが何時だったか、正確に覚えていないが、二時間ぐらいは寝てしまっていた気がした。

「……」

ダイニングの椅子に座ったまま、しわを伸ばしてノートを確認する。駅で挨拶したこと、電車に乗って会社に行くこと、今自分がいる家とは違う家に帰ってくつろぐこと……どれも、他愛もない、特別と言えるようなものじゃない、夢で見た光景かもしれないと思えるようなものだが、夢を覚えているのとは明確に違っていた。

夢で見たものは、夢だったと分かる。どんなにリアルでも、冷静に見ると、現実離れしている部分がある。だが差し込まれる記憶は、現実とは違うということを除けば、夢のような違和感がない。本当に体験したことのような……

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