見出し画像

「はじまりのうた」の感想。最高の音楽映画!それとカントリーミュージックについて。

とても面白かった。僕は良い曲が良いタイミングで流れればそれだけで感動してしまうので、音楽映画とは基本的に相性が良い。その上で曲の盛り上がりと物語的な盛り上がりがリンクしていれば、それはもう最高の音楽映画だ。

見やすい映画。

ライブバーでの主人公(キーラナイトレイ)とプロデューサー(マークラファロ)の出会いをまず描いて、それからプロデューサーがどんな経緯でここに来たのかの回想が、そしてその後に主人公がどんな経緯でここに来たのかの回想が入る。
かなりしっかり回想を描いているので、ここまでで映画の尺の半分弱が使われていたけど、マークラファロのダメ親父っぷりが可愛かったので全然退屈しなかった。
(あと、1回目の回想の後に展開を進めていたので停滞している感じも抑えられていた)

その後はレコーディングをしていき、主人公とプロデューサーの心も通じ合っていき、主人公もプロデューサーも自分の問題を解決していく、単純に上向きな展開。ストレスなく楽しく見られる。
退屈していた音楽家を集めての屋外レコーディングの様子が楽しそうすぎた。
親子セッションも最高。

メガネをかけていた繊細そうな元彼が、髭を生やしてどんどん"男らしく"なっていく様子は、まさにカントリー歌手が辿る変遷の典型でめちゃめちゃ笑えた。それをバカにするコーディーも最高。ていうかコーディーがいい奴すぎた。
(しかし彼の、曲をかけて踊るのを我慢するゲームだけは理解できない。くっそつまんなそうで笑える)

最高の別れのシーン。

劇中何度か流れる"lost stars"は、主人公にとっては自分と彼の2人の歌だったのが、元彼にとってはファンも含めたみんなの曲だったというすれ違いが事前に描かれていた。(これを曲のアレンジの仕方で表現するのも上手い)
それでもライブを見にきて欲しいってことで会場にいく主人公。
「もし会場に来てるなら、ステージに上がって一緒に歌って欲しい。いるなら来て」
この言葉で、彼がlost starsを2人の曲として歌おうとしているのが分かる。
そんで、袖から元彼を見る主人公と、ステージの上で歌う元彼との目が合って、思わず2人とも笑顔になっちゃうんだけど、主人公から見た元彼はもうどうしようもなくスターで、何かを懐かしむような顔で涙を流して、主人公は会場を去る。
このシーンが本当に切なくて最高だった。その後で、もう彼女が去ってしまった舞台袖を見る彼氏側の心境も伝わってくる(それでも歌は続く)、マジで最高の別れのシーン。

最高のシーンを彩る最高の曲(本編映像ではないです)

自分達2人のものだった曲は、ちゃんとした形でもみんなの曲として受容されていた。
ここで自分の気持ちに整理がついて、主人公は「2人で曲を聴く」ことの象徴としてのスプリッターをマークラファロに返す。
そして自分達の曲を純粋な形で世に出すために、会社を通さずにアルバムを売ることに決める。

とにかくラストのライブシーンが素晴らしかった。

その他、細かな感想。

・この映画が出た頃には、曲をネットに直で発表するなんてのは考えられない選択だったんだなと急激な時代の流れを感じたりした。

・曲を聴いただけで浮気に気づく主人公の感性よ。
確かに彼氏の曲の中に出てくる「君」のイメージは明らかに主人公とは違っていた。主人公は彼を新しい場所に引っ張って行くタイプじゃない。

・元彼が抹茶を飲んでいたのは浮気相手の影響なんだろうけど、浮気相手の役者が中華系なので、日本人の観客からすると意味の分からない演出になってしまっていた。
(欧米の人間からしたらアジア系人種の見分けは難しいんだろうし、アメリカで見る分にはこれでも問題ないんだろう。でも映画が海を越える想定をしていなかったのは浅はか。観客として国内にいるアジア系人種の存在を想定できていなかったのも浅はか)

・元彼のライブに行ったシーンでの、主人公の主観カット→主人公の表情→元彼側の視点で観客達を映すカット
の一連のカットがめちゃくちゃ好き。
主人公は女性客達を見て、自分と彼の曲が彼女達にとっては彼女達の曲なんだと知ったのかもしれない。

・屋外のレコーディングシーンは本当に最高。寄せ集め楽団のわちゃわちゃ感がたまらないのは勿論だけど、それを録るマークラファロも良かった。「c'mon c'mon」のホアキンフェニックスといい、くたびれたおっさんがガンマイクを握っている画はなぜこうも良いんだろう。

・主役2人に負けないくらいジェームズコーデンも可愛かった。トカゲ飼ってる?

余談。好きなカントリーミュージック、"Cruise"

元彼が典型的なカントリー歌手の変遷を辿っていて笑えたと書いたが、せっかくなので僕の好きなカントリーミュージックを貼っておく。
フロリダジョージアラインというユニットの"cruise"という曲だ。
原曲よりもアコースティックアレンジの方が好きなので、そっちを貼る。

1:38で微かに聴こえる「へっ」って笑い声と、2:46の「ケァモ〜ン!」が大好き。
歌詞は「イケてるベイベーとドライブしてぇな〜」って感じでマジでしょうもないんだけど、メロディがとにかく良くて一定の詩情が生まれている。
終わりゆく価値観の残り日というかなんというか。だから僕はカントリーミュージックが好きだ。

車!女!バー!偉大な父親!地元の仲間!これがカントリーミュージックの基本構成要素。ひとつかふたつ選んで歌詞に入れておこう。

今知ったのだが、このフロリダジョージアラインは今年の8月に解散していたらしい。へ〜。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?