見出し画像

「ウィッシュ」の感想。瑕疵ある願いの物語と、それでもそれを語るディズニー。

どうせ2ヶ月もすればdisney+で見れる。そう分かってはいるんだけど、100周年記念作品って特別感があるし、主題歌がめちゃめちゃ良かったので我慢できなかった。

休日に映画館に行くのは久々だった。空いてるのも良いけど、混んでるのも映画館のポテンシャルをフルで体感できて良い。特にこういう家族向け映画は。
ほぼ満席で、ほぼ子供を連れた家族客で、ディズニーすげ〜ってなった。

願いの物語に欠けているもの。

つまらなかったとは言いたくない。実際面白かったし。「ウィッシュ」はやっぱり超良い曲だった。
でも、なんなんだろう。「最高の映画だった!」と迷いなく言える感じでもない。

観終わって思ったのは「これ、足りてますか?」ということ。

この映画では、かなり序盤に主人公と悪役の対立が発生する。
マグニフィコ王はアーシャの祖父の願いを叶えないという。なぜなら、彼の願いは王国にとって危険なものになりうるから。
それを聞いてアーシャは王に逆らうことを決める。確かに祖父の「皆に音楽を聴かせたい」と言う願いは危険でもなんでもなく、それを奪ったままにするのは酷い。
しかし王の言うことも、悪役の身勝手な論理というわけではなさそうだ。彼の言い分にも一理ある。

ここら辺で、「これは願いと平和の相入れなさの話なのかな?」って思った。
遠くの星に願うのは自由だけど、一つの国はみんなの願いを叶えるには狭すぎる。
例えばアーシャの友人の願いが王様と結ばれることだったとして、それが叶うことは王妃を不幸にすることになる。
だから、アーシャがみんなの願いを解放した結果、国中が混乱に陥るような展開になったりするのかなと思っていた。
「マジかよ。もしそんな話だとしたら、100周年記念作品でどんだけ尖った話をやるつもりなんだよ」
そう思って興奮してたけど、結局「夢は叶えるべきものであり、願いを叶えることが世界のためにもなる」という価値観が相対化されることは無かった。

また、そもそも王が民達の願いを管理していたのは、願いが叶わない痛みからみんなを守るためだ。
であれば、王から願いを取り戻すってことは、願いが叶わなかったときに感じる痛みも引き受けるってことで、それを描かないのはどうなの?と思った。
結局ディズニーって願いを叶えた人間達が集まるスタジオで、そういう人達が作る映画なんだよなって思ったりもする。(そう思った直後、エンドロールでディズニー100年の歴史が流れて、うぎゃーってなった)

一旦まとめると、この映画では願いによって社会と個人が負う二つのリスクが示唆されている。
・社会が脅かされる可能性
・願いが叶わず傷付く可能性
そしてこの二つは、アーシャの持つメタ的な願いによって結びつけられる。アーシャの願いとは「みんなの願いを取り戻したい」という、願いについての願いだ。
アーシャがみんなの願いを取り戻した場合、願いが叶わず傷つく人がきっと大勢現れる。だからアーシャの願いは社会を脅かす願いということになる。
アーシャはこの二つのリスクを乗り越えないといけなかったはずだ。なのに、中盤から願いのシステムの体現者であったはずのマグニフィコ王が暴走を始め、ただ私欲の為に動く存在に堕ちたことでどちらもなあなあになってしまっていた。

みんなが願いを追うことによって社会が負うリスクや、みんなが願いを叶えられる訳ではないこと、願いが叶わなかった人が抱える痛み。
そこまで描いて、それでも願いを肯定してこその「願いの物語」なんじゃないのか?

しかしこれがディズニーなのでは?

しかし、これで良いのかもという気持ちもちょっとはある。
これまでディズニーがずっと描いてきたのは願いを叶える物語だったのだという100年分の総括がされ、そしてこれから描いていく映画もそうなんだっていう宣言がされ(スターは次の誰かの場所に行く)、そしてエンドロールではこれまでの数々のディズニー作品が星屑で描かれる。
これは確かに感動的で、ディズニーはこれで良いのかも、子供達には「願いは叶う」と言うべきなのかも、と思ったりもする。

複雑な気持ちだ。
でも微妙な映画だとかは言いたくない。それと、これまでの総括を超えた、新しい次のディズニー映画を早く見たい。

その他、細かな感想。

・観念的すぎて、若干意味が取りづらいところもあった。「誰もがスター!」の部分とか。
今作はこれまでのディズニー映画の総括をするメタ的な話になってるから、話の抽象性が増してる。

・主人公がしっかり反逆者やってるなと思っていたら、途中から露骨にレジスタンスものになっていてウケた。

・群衆のバカな質問とか「こんな儀式をしましょうよ!」などと勝手に話を進めちゃう感じとか、王のイラつきも分かるっちゃ分かる。
マグニフィコ王からは強くエリーティズムを感じた(魔術を学んだ賢く強い王っていう設定からしても)。中盤以降の王の豹変具合も、エリーティズムの暴走の結果の独裁のように見える。

・「無礼者達へ」のミュージカルシーンが楽しかった。鎧を蹴っ飛ばしたりとか、王がはっちゃけてて良い。
ヴィランの曲って良いの多いよな。モアナの「シャイニー」とか。(レリゴーも成り立ち上広義で言えばヴィランの曲って言えなくもないかも)

・ウィッシュのリップシンクがすごかった。

・バレンティノの低音ボイスで子供達が笑っていて良かった。実際面白かった。

・今回のCGはマットな質感で2Dアニメっぽさを出してた。
国の説明をするシーンではマットな質感がむしろ昔ののっぺりしたCGっぽくも見えたりした。
でも陰影のあるようなシーンやグラフィカルなシーン(思い出の木の上で星に願うシーンとか)ではよく映えてたと思う。
髪の毛の質感がちょっと浮いてないかな?(特にクッキーを焼く女の子とか)と思ったりもした。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?