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「アイダよ、何処へ?」/ヤスミラ・ジュバニッチ監督

2021-10-17鑑賞

ヤスミラ・ジュバニッチ監督のアイダよ、何処へ?」を見る。不思議なタイトルだが原題では「QUO VADIS, AIDA?」となっている。
https://aida-movie.com

1995年は自分はロンドンにいたのだけれど、旧ユーゴ連邦の崩壊から独立をめぐる民族間紛争が激化し、BBCではそれこそ毎日のようにボスニアの現地特派員から悲痛な叫びとして伝えられていた。インターネットも普及していない時代だし、日本にいた頃はほとんどニュースにならなかったはずだが(バブルに浮かれていたこともあろう)、ロンドンに来て感じたのはその「近さ」だ。そういえば大学入学前の英語補習クラスで一緒になったひとりがユーゴからの避難民だった。

映画は、ボスニア紛争末期の1995年7月11日、ボスニア東部の街スレブレニツァがセルビア人勢力の侵攻によって陥落し、いわゆるスレブレニツァの虐殺の話だ。推計8000人のボシュニャク人(イスラム教徒)が殺害されたという。戦後欧州での最悪な虐殺事件となった(ちなみに当時の国連事務総長は明石康だった)。

当時スレブレニツァは国連によって「安全地帯」に認定され、いかにも「軽装備」なオランダ軍部隊600人が警備していた。アイダ(ヤスナ・ジュリチッチ)は国連保護軍の通訳として国連施設で働いているのだが、そこに避難場所を求める2万人の市民が殺到し、施設に収容しきれない人々が周辺に溢れた。

アイダは特権を利用し、夫と二人の息子を施設内に招き入れるところまではできたのだが、ムラディッチ将軍率いるセルビア人勢力は、空爆に消極的な国連の弱腰な保護軍を介して行われた「合意」を破棄し、一方的に避難民の「移送」をはじめた。それが何を意味するのかアイダにはわかるのだが、結局、撤退する職員のリストに彼女の家族を加えることはできなかった。

四半世紀前の「傷」の話であり「痛み」の話だ。監督のヤスミラ・ジュバニッチ(1974年生まれ)はサラエボで生まれ、ボスニア紛争を生き延びた。前作は未見だが、直接の激しい戦闘シーンや殺戮シーンはそこには描かれていない。アイダの緊迫感だけがこの映画を動かしていると言っても過言ではない。

以前は教師だったアイダは、教え子で、息子の同級生らしい若いセルビア人の兵士に話しかけらる。ほんの数年前の平和な町は敵と味方とで分断され、互いに憎しみ合い殺し合う。

虐殺から数年後、街に、そしてかつての自分の家に戻ったアイダは、セルビア人の家族がそこで暮らしていることを知る。軍人や政治家はともかくも、その人々もまた紛争の被害者であることには違いない。過去に引き裂かれる思いでもある。

今、見るべき映画。

監督:ヤスミラ・ジュバニッチ  
出演:ヤスナ・ジュリチッチ | イズディン・バイロヴィッチ | ボリス・イサコヴィッチ

BBCニュース「スレブレニツァの虐殺」から25年 新たに身元確認の9人を埋葬


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