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アンモナイトの目覚め/フランシス・リー 監督

2021-05-30鑑賞

フランシス・リー 監督の「アンモナイトの目覚め」を見る。19世紀前半のイギリスに生きた古生物学者メアリー・アニング(1799〜1847)の物語だ。
https://gaga.ne.jp/ammonite/

地質学、古生物学に大きな功績を残しながら、女性でしかも労働者階級の彼女は論文を書くことも叶わず、イングランド南西部の海辺の町で、アンモナイトの化石や貝殻で作った装飾品を土産物として観光客に売ることで糊口を凌いだ。独身を通したそうだが、その生涯についてもまた同じ理由でほとんど明らかにされていない。よってこの映画の物語は、ほぼフランシス・リー 監督の創作である。

ある日、裕福な化石蒐集家がメアリーの店を訪ねて来る。「あなたの功績は英国地質学会で評判ですよ」という紳士に「…ああ男社会ね」と素っ気なく答える。保養地でもあるその土地で、紳士は「抑うつ」を抱える妻シャーロットをメアリーに預け、ひとりで旅行に出てしまう。そもそも人間嫌い(そう見える)のメアリーだが、年老いた母親を抱えた彼女は、仕方なくその「仕事」を引き受けることにする。

メアリー・アニングを演じるケイト・ウィンスレットの演技が圧巻だ。鬱々としたイギリスの冬空とどこまでも続く石浜の海岸。スカートをたくし上げて粘土層の崖に登り、化石の埋まった岩を掘り返す。メアリーの、おそらく天性である直感と粘り強い観察眼が化石の発見・発掘に至らしめるのだが、ことはむしろ、掘り起こした岩石から慎重に不要物を取り除き、化石を岩盤から(あるいは時間)から開放する、地道で長い作業の方なのだ。ケイト・ウィンスレットの演技は、人生の晩年に差しかかったメアリー・アニングの屈折した感情とその表情を精緻に写しとっている。

映画は決して分かりやすいものではなく、いや、むしろ冒頭から全てが謎に満ちているのだが、メアリーとシャーロット(シアーシャ・ローナン)との出会いによって、物語は解体され、それは大きく動き始める。創作でもある映画の結末として、それはそれでも構わないわけだが、結局のところ、監督のフランシス・リー はメアリー・アニングを元の歴史の地層に戻すことにしたようだ。解放と拘束はある意味で表裏一体の関係にある。「じゃあ私の自由はどうなるの?」メアリーは憤然と、また同時に深い悲しみを湛えてシャーロットに言い放つのだ。

伏せられたガラスのコップの中で羽ばたく蝶。我々が問われていることを、映画のプロットの中で何度も繰り返し思い出してみる。

こうむ余談になるが、メアリー・アニングはあの有名な早口言葉「She sells sea shells by the sea shore.」のモデルだと言われている。「彼女は海辺で貝殻を売る。」…感慨深い言葉だ。

監督:フランシス・リー  
出演:ケイト・ウィンスレット | シアーシャ・ローナン | ジェマ・ジョーンズ

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