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ニューオーダー/ミシェル・フランコ監督

メキシコの監督ミシェル・フランコの「ニューオーダー」を見る。第77回(2020年)ヴェネツィア国際映画祭の審査員大賞。「救い」の無い格差社会を描いたディストピアだ。

マリアン(ネイアン・ゴンザレス・ノルビンド)の結婚式当日、豪邸には政財界の名士が集いパーティーが繰り広げられようとしている。そんな超上流社会の祝祭と並行するかのように格差是正を訴えるデモが暴徒化する様子が描かれる。

かつての使用人ドナルドは妻の高額な手術代(20万ペソ、百数十万円といったところか)を貸して欲しいと彼らを頼りパーティーの最中に訪ねてくる。マリアンの母親も兄も接客を理由に金を出し渋るなか、パーティの主役であるはずのマリアン本人だけがドナルドの気持ちに寄り添い、宴を抜け出し自ら車を運転して彼の家に向かい暴動に巻き込まれる。結論から言ってしまえば、やや幼くも見える赤いパンツスーツ姿のマリアンの「純粋さ」が全くもって報われることのない映画なのである。

暴徒たちは軍部によって制圧され、しかし今度は軍部が国の権力を掌握し支配者となる。それが「ニューオーダー」なのだが、無論軍部の末端はまた貧困層が担うものであり、彼らは「独自に」上流市民を誘拐・拘束し、拷問・虐待の上、身代金要求の「駒」に使うのだ。おそらく軍部もある程度にはそれを許容し利用しているのではなかろうか。他の拘束者とともにマリアンも額に16番の烙印を押され、暴徒に襲われた邸宅でのパーティで辛うじて生き残った兄と父に向け(とはいうものの彼ら上流層は軍事政権とも懇意であり地位も身の安全も確保されている)、犯人の要求に従うよう「メッセージ」を発する。

例えばその前年2019年のヴェネツィア映画祭の金獅子賞である「ジョーカー」(トッド・フィリップス監督)では、ディストピアの最後に、まだ余韻というか解釈の余地を残してはいたのだが、この「ニューオーダー」では、人間の「正義」とか「美しい心」などという類ものは全く報われることがないという無残な現実をまさに曝け出した映画であろう。それはまた、2022年の現在ますますのリアリティーを持って私たちに身に覆いかぶさる。希望は無い。

監督:ミシェル・フランコ
出演:ナイアン・ゴンサレス・ノルビンド | ディエゴ・ボネータ | モニカ・デル・カルメン

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