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#5 LOOP BLAKE 第1章 異世界 第4話 「伽霊能力」

 竜賀りゅうが光男みつおきなれないその言葉ことばをもう一度聞いちどきかえした。

光男・竜賀「伽霊能力ギアルスキル?」

クリフ「本当ほんとうなにらないようだな」

 クリフは2人に対して警戒心を解いたようで2人に向かい合うようにして胡座あぐらをかき、そして話し始めた。

クリフ「俺もそんなに詳しくは知らないんだが『伽霊能力ギアルスキル』ってのはある特定の人間とくていのにんげんだけが持っている特殊能力とくしゅのうりょくみたいなもんだ」

光男「特殊能力?」

クリフ「ああ…その能力チカラ種類しゅるいってのは無茶苦茶むちゃくちゃある…俺が見たことあるだけでもこして操る能力あやつるチカラとか、そらべる能力チカラ言葉ことばはっしなくても意思疎通いしそつうできる能力チカラとか、それに…」

 クリフはこぶしをギリギリとこえそうなくらいにぎりしめて

クリフ「金属きんぞくかして操る能力あやつるチカラ…」

光男「あんたさっき俺達がここにいる理由を聞いた時に、『テレポート』って言葉を使っていたけど…」

 光男は、何か感情を抑えながら話そうとするクリフに対して会話を続けさせるようにすかさず割り込んだ

光男「あれは冗談ジョークとかじゃなくて実際じっさいにこの世界せかいにいる伽霊能力ギアルスキル者達ものたちなかには『瞬間移動テレポート』の能力チカラっているものもいるってことだったのか?」

クリフ「ああ…そういう奴らヤツラもいるといたことはある…直接ちょくせつったことはないがな…」

竜賀「でもオレそんな能力のうりょく全然持ぜんぜんもってないよ」

クリフ「竜賀りゅうが…もう一回手の平いっかいてのひらせてみろ」

 竜賀りゅうがわれるままに右手みぎて2人ふたりせた。

クリフ「紋章もんしょうなかなか書かれうかびあがってていないだろ?それはまだ能力のうりょく覚醒かくせいしていない状態じょうたいだ。『未適能者ゼロステージ』つまりそんな紋章もんしょうがあっても能力チカラ発動はつどうできる状態じょうたいじゃないから普通ふつう人間にんげんおなじってことだ」

光男「それじゃあいま普通ふつう人間にんげんだが、いずれ覚醒かくせいするのをおそれたからあんたは息子むすこころそうとしたってことか…?」

 光男みつおいてくるいかりを必死ひっしおさえながら冷静れいせいはなしつづけた。

クリフ「ああ…オレたちがいまいるこのアメリカでは伽霊能力ギアルスキル軍事目的ぐんじもくてき使つかわれることがおおい…伽霊能力ギアルスキル人間にんげんのことを『適能者デュナミスト』とび、そうでない能力チカラたない人間にんげんのことを『無適能者アンチステージ』とぶんだ。オレは無適能者アンチステージだよ」

竜賀「おれもといた世界せかいにいたときはこんな紋章無ものなかったはずなのに、なんでこの世界せかいとき紋章もんしょうかびがってきたの?」

クリフ「伽霊能力ギアルスキルがどんな条件じょうけん覚醒かくせいするのか、どんなときにその紋章もんしょう……『霊媒印コモンベスタ』がかびがるのかはオレも正直しょうじきなところはっきりとは説明せつめいできない…」

光男「そんな…」

クリフ「あくまで都市伝説としでんせつとしてオレがいたかぎりでは、まだ霊媒印コモンベスタっていない適能者デュナミスト覚醒かくせいしたあと適能者デュナミスト能力チカラに『さわったり』『たり』すると霊媒印コモンベスタが浮かび上がり何かしらのきっかけで能力が『覚醒』するという説があるらしいがな」

竜賀「『触ったり』って…もしかしてあの時の黒い手みたいなのに掴まれた時にこの霊媒印が浮かび上がってきたのかも…」

光男「あの時か…」

クリフ「その霊媒印が浮かび上がって、何かしらのきっかけで覚醒するとまず人間離れした身体能力が手に入る。それからさらに覚醒すると様々な能力が使えるようになるらしい。これも噂だが最終的に能力を極めるとすげー怪物を操ったり変身できるようになるんだとか…流石にそこまで凄い適能者には俺はあったことがない」

光男「そんな凄い超能力みたいなのがあるんだったら、もっと皆んな世の中の役に立つ使い方をできているはずだろ…それが何であんたに殺されなきゃいけなかったんだ」

クリフ「ふん……世の中の役に立つ使い方ね…そんな高潔なものだと思ってんのかね…さっき言っただろ。伽霊能力は呪われた能力だってな…その能力を手に入れた人間は普通の人間の感覚を持ってないんだよ。アイツらは狂ってるんだ。人間の心を失っちまうんだよ。特別な力を手に入れる代わりに怪物になっちまう」

竜賀「そんな…俺が…怪物に…」

光男「ふざけるな…うちの息子が怪物になるなんて…俺はそんなこと絶対信じないぞ」

クリフ「そう思うのはお前の勝手だが俺は実際伽霊能力を手に入れて性格が歪んじまったり、他人をゴミを見るような目で見下す適能者にたくさん会ってきた。あのチカラは人間の心を操っちまうのさ」

 クリフはまるで伽霊能力の存在そのものが人間社会にとって最も有害であるような口ぶりで呟いていた。

光男「…だからなのか?…アンタが俺の息子を殺そうとしていたのは?…そんな霊媒印なんてものを持っているってだけで…まだ何も知らない、まだ何もしてない罪の無いウチの息子を殺してその未来を奪うことがアンタの正義だってのか?」

クリフ「ああ…それが俺の信じる正義であり、俺の所属している組織からの命令だった」

光男「命令…?」

クリフ「俺が今所属している組織はハドノア連合のマードック部隊だ。ハドノア連合はアメリカで最も大きな反適能者軍組織だ。俺はそこの少尉なんだ」

竜賀「そのハドノア連合の目的って…一体」

クリフ「…アメリカにいる罪なき善良な国民を守る為、害悪な適能者を人類の科学の力で討ち滅ぼす。それが俺たちの組織の最大の目的だ」

光男「その為にさっきの街を火の海にしたってのか?アンタとその仲間達は…」

クリフ「そうだ。今見た街には適能者の犯罪集団が潜伏しているって言う情報が昨日入ったんだ。現に凶悪適能者本【プライズリスト】に載っていた適能者の目撃情報もあったんだ」

光男「プライズリスト?」

クリフ「アメリカの犯罪者の中でも特に凶悪で、危険度の高い、異常な強さを持った適能者たちをリスト化したもので、そいつらを通報したり捕まえたりすれば連合側から懸賞金が貰えるんだ…そのリストの中にある凶悪犯の1人であるボイド・ミーモストその一味がこのミシガン州のガートシティに潜伏している情報があった為、ガートシティを一斉摘発せよと命令があったんだ…」

光男「ちょっと待て…それじゃあここはアメリカのミシガン州なのか?」

クリフ「そうか…お前らはここがそもそもどこか分からず、引き摺り込まれたって言っていたな」

竜賀「さっき言っていたガートシティって一般の民間人は住んでなかったんですか?完全にその適能者の集団しかいなかったんですか?」

 竜賀はさっきの火に包まれた街の姿を思い出して恐怖した。あの様子であれば間違いなく無差別攻撃だったはずだ。もし何も知らない民間人が何の避難命令も受けずに普段通り生活していたら、戦火に巻き込まれてしまう。

クリフ「いや…ガートシティは民間人も住んでいる街さ…適能者もいれば無適能者もたくさん住んでいる」

光男「アンタらの組織は目的のために何の関係もない人達を巻き込んだってのか?伽霊能力を滅ぼすためにこの街に住んでいる能力を持たない罪の無い人の人生を奪っても、ウチの息子を殺しても…」

クリフ「それがこの忌々しい世界を平和にする為なら必要な犠牲だ…このアメリカも世界を制するまでの歴史の中でも大勢の犠牲があった。最後に勝者になれば必要な犠牲と呼ばれ、敗者になれば無駄死にだ。最後に勝たなければ何もかも無意味になる。だからそのための手段なんか二の次だ」

光男「…アンタ…本当にそう思ってるのか…?」

クリフ「…」

光男「本当にそんなことして何も後悔してないって…自分の子供にも胸張って言えるってのか?」

クリフ「…あいにく光男…俺には自分の誇らしい姿を見せてあげられるような子供なんていない」

光男「…!!」

クリフ「もうとっくに殺されているんだよ…俺の大切な子供と、その子の母親は…適能者によってな」

竜賀・光男「!!?」

クリフ「伽霊能力を持たない平和な家族だったのに、それをアイツはメチャクチャにしやがった…力を持たない奴は生きる価値すらねえなんて嘲笑いながらな…あのワイルズの野郎は…」

 クリフは家族を奪われた復讐をハドノア連合に入ることで果たそうとしていたことを2人は気づいた。

クリフ「俺にはもう何もない…俺が今こうして街を焼き払ったり…アンタらのような生き残りを始末しようとしたりするのも…結局はあの時の後悔を振り払おうとしているだけなのかもな」

竜賀「そのワイルズって言うのがさっき言ってたボイド・ミーモストの一味の1人ってことなの?」

クリフ「…その可能性があった…だからこの街はすでに危険区域だったのさ…もし避難勧告を出していればミーモスト一味を取り逃す可能性が高くなっていたから不意打ちでマードック部隊が極秘に潜入して街全体を一斉放火したのさ」

光男「それじゃあアンタは今…」

クリフ「放火したガートシティから奴らが逃げ出さないように見回っていた…そこにアンタら親子がいたのさ」

 光男はしばらく黙ったままクリフを見つめて、感情や情報を整理した顔をしてまたクリフに話しかけた。

光男「クリフ…自分の家族を殺され伽霊能力を憎んでいるはずのアンタが今俺たちにこうやって事情をここまで説明してくれたのは…」

クリフ「…」

 光男はそれ以上言おうとして口をつぐんだ。

光男「…竜賀!…もう行くぞ」

竜賀「えっ?…でも…」

光男「もうクリフからは聞きたいことは聞けたから、ここからは自分たちで調べるぞ」

竜賀「この人から元の世界に戻る方法を聞かないの?」

光男「もし知っていたら俺たちの事情を聞いた時点で帰る方法を教えてくれていたはずだ。それを教えなかったと言うことは本当に何も知らないってことだ」

クリフ「…勘がいいな」

光男「クリフはマードック部隊の端くれにいるただの末端の兵士だ…組織の上層部の事情も裏側も知らないだろうし、これ以上問いただしても何も出てこないだろうよ」

竜賀「…そんな」

光男「ここに俺たちがいるのも危険だろうし、早くクリフを持ち場に戻さないと定時連絡されたら異常が発生していることがバレてしまって俺たち2人とも街から出られなくなってしまう」

竜賀「だったらこの人をここですぐ連絡できないようにすれば…」

光男「もし仮にここでクリフを殺したとしても、クリフのお仲間さんが現場証拠からクリフと戦っていたのが俺たちだって事がバレてお追いかけてくる」

クリフ「ふっ…ハハハッ!!よく分かってんじゃねえか」

光男「それにアンタはここで俺に殺されなかったことによって俺に借りができるからな」

クリフ「…もし俺がそんな恩を感じるような男じゃないと言ったら?」

光男「それはアンタの勝手だ…今ここでアンタを殺すこともできるが、それはハドノア連合っていう大きい蜂の巣を突くみたいな行為だ。他より少しデカい蜂を仕留めるために、他の蜂の軍隊を敵に回すなんて余りにも馬鹿げている」

クリフ「俺が『他より少しデカいだけの蜂』だと?」

竜賀「それじゃあクリフさんはこのまま許すの?」

光男「ああ。この男を生かしておいて俺たちのリスクは減りこそすれ増えることはあんまり無いからな」

クリフ「光男…そんなこと言ってると後悔するぞ…そんな甘い綺麗事なんて通用しなくなる現実がこれからいくつも襲いかかってくる…適能者も伽霊能力も憎んでいるハドノア連合の軍隊はまだ山ほどいる!ほかの伽霊能力研究機関や適能者の軍事組織も同じだ!あそこにも化け物は山ほどいるんだよ!」

光男「そうだな……そいつらから俺は息子を守り抜いてみせるよ」

クリフ「できるわけはねえ…」

光男「力に屈したら男に生まれてきた意味がねえだろ?俺は息子にはいつでも自分の道に後悔しない生き方を選べって言い続けてるからな」

クリフ「ハッ!…だったら見せてもらおうじゃねえか?アンタは呪われた世界でどこまでその生き方を貫けるのかをな」

光男「ああ見せてやるよ…それと今ここでアンタを生かすことで頼みがあるんだが…」

クリフ「何だよ…」

光男「俺たちがここで戦ったことは内緒にしといてくれ。あっ!それともしも俺に何かあったら息子の動向を見守っといてくれ」

クリフ「ハア?今自分で息子守るって言ったはずだろうが!!早速前言撤回かよ!しかも頼み事2つも言ってるし!」

竜賀「クリフさん…怒ってもしょうがないですよ…僕の父親ってこういういい加減な人ですから」

 クリフが怒っているところに竜賀がまたいつもの奴ですと言わんばかりの呆れ顔でクリフをなだめると、大きくクリフはため息をついた…

クリフ「俺がそんな一方的な約束を受け付けないかもしれんぞ」

光男「大丈夫…何となくアンタは俺との約束大事にしてくれる人だと思ったからさ」

 光男はそういうと立ち上がって

光男「さあ竜賀行くぞ」

竜賀「うん」

 そして竜賀もそこから立ち去ろうとしたが

クリフ「待て…」

 するとクリフは首元につけていたボールペンのような装置を取り外すと、それを操作し始めた。それをひと通り操作し終えると

クリフ「このマルチセルラーと充電器を持っていけ」

 と言ってマルチセルラーと言われるボールペンのような装置とモバイル充電器のようなものを光男に投げ渡した。

クリフ「…翻訳機能と通信機能、あとナビゲーション、さっき言っていた凶悪適能者本があるモバイル端末だ、俺の個人情報は初期化しておいた…これで追跡はされないはずだ」

光男「感謝するよ」

クリフ「それと…逃げるんだったらさっきの街の西側の外周道路を回りながら南に抜けていけば、とりあえずマードック部隊に見つからずにいける」

光男「分かった…まぁその代わりミーモスト一味にかち合うかもしれないけどな」

クリフ「その時は神にでも祈っとけ…グッドラック」

 光男と竜賀は自分達の荷物を拾い上げるとさっきの燃える街に向かって走っていった。
 クリフはその2人の背中をじっと見つめていると、左腕についているスマートウォッチのような装置からピピピッ!と音が鳴ったことに気づきゆっくりそれを口元に近づけ装置のボタンの一つを押した。

???「こちらマードック部隊作戦司令室ポーランド少尉応答願います」

クリフ「こちらクリフ・ポーランド」

???「定時連絡がなかったんですが、何かありましたか?」

クリフ「定時連絡が抜けていて申し訳ない…こちらは異常なしーーー」


 藍川竜賀と光男は言われていたガートシティの燃える街の外周道路を誰にも見つからないように走っていた。

竜賀「父さん…さっきの話本当かな…俺もしこのチカラが目覚めちゃったら…俺も怪物になっちゃうのかな…?」

光男「…さぁな…」

竜賀「さぁなって」

光男「俺は神様じゃないから未来のことなんか何もわからねぇ…それも竜賀次第じゃないのか?そもそもその力がどう言ったものかも今分かってねえんだから何も言いようがない」

竜賀「そりゃそうだけどさ…」

光男「大切なことは、その能力がお前の人生を決めるんじゃない…お前自身がどう能力を使っていくかどうかじゃないのか?」

 その言葉の意味がよく飲み込めてなかった竜賀だったが、今は無理して分かったフリをするのも良くないと思い、父親の言葉を胸に留めていた竜賀だった。


                                  続く

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