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夢、催眠などによる非常に古い(「原始的な」)連続

『プロセスモデル』の「第VI章B: 行動空間の発展」の中に、「d)ピラミッド化」という節があり、非常に古い (「原始的な」) 連続について論じられています。

夢の中や催眠や薬物が用いられた状態では、通常の行動空間は狭くなり、覚醒状態におけるほど多くは暗黙的に含まれなくなる。そのとき、非常に古い(「原始的な」)連続が形成され、暗黙的な連続の通常のコンテクストの一部を暗黙的に含んでいることがわかる。そのような状態では、馴染みのある体験がまだ形成されているところを観察することができ、日常の体験においていかに多くのことが暗黙的で焦点化されているかに気づくことができる。(Gendlin, 2018, p. 102; cf. ジェンドリン, 2023, p. 172)

夢や催眠などの中での体験について、上記の文章が彼の先行著作の中でどのように書かれてきたかを振り返り、それぞれの著作で使われている用語どうしの対応関係を整理してみたいと思います。

「原始的な」連続は、「人格変化の一理論」 (Gendlin, 1964; ジェンドリン, 1966; 1999) の中の「25. 極端に構造拘束的な体験過程の様式 (精神病、夢、催眠、CO2、LSD、刺激遮断)」の節で初めて言及されました。しかし、当時の著作では、そのような体験は「暗黙的機能の欠如」として否定的にしか論じられていませんでした。

夢、催眠、精神病、C02やLSD、刺激遮断には、進行する相互作用の削減という少なくとも一つの要因がある。…これらの条件すべてにおいて、感じられた体験過程の暗黙的機能…が硬直化し(過程進行中ではなく)、あるいは「文字どおりの」ものになる。たとえば催眠状態では、「手を上げて」と言われると、手首のところから手のひらを挙げる。覚醒しているときのように、この慣用句を適切に解釈することはない(もちろん、腕全体を挙げるという意味である)。… 「文字どおりの」とはまさにこのことで、ある言葉や出来事の解釈に役立つはずの他の意味が機能しないのである。 (Gendlin, 1964, pp. 140-1; ジェンドリン, 1966, p. 143-4; 1999, p. 220-1)

「原始的な」連続は、「フォーカシングにおけるイメージ、身体、空間」 (Gendlin et al., 1984) において初めて積極的に考察されました。

環境との相互作用が大きく制限されると(睡眠、薬物、深いリラクゼーション、「変性意識状態」によって)、身体のプロセスは狭まる。見慣れた対象をつくる通常のまとまりは生起しない。その代わりに、常に暗黙的である非常に原始的な古代の連続が実際に生起する。そのとき、あらゆる外側の出来事がこれらの中に入ってくる。これらの体験は非常に貴重なものとなる。個人や種の過去は、暗黙的に通常の対象を構成する一部となる。普段は暗黙的な連続が目に見える形で生起するとき、人はその膨大な豊かさの一部を知ることになる。つまり、通常の包括的なプロセスで全体化されていない。しかし、人が見つけたものは「統合されていない」。つまり、通常のもっと包括的なプロセスで全体化されていないのだ。だから、この種のイメージは、通常のものよりも全体的ではないのである。(Gendlin et al., 1984, pp. 263-4)

その2年後、著書『夢とフォーカシング』 (Gendlin, 1986; ジェンドリン, 1988) の中の「生きている身体と夢の理論」では、私たちの体験は「未完成、完成、完成以上」 (Gendlin, 1986, pp.153-4; ジェンドリン, 1988, pp. 185-6)[*2] に分類され、こうした体験は「未完成」と位置づけられました。

すべての体験には交差が伴うが、夢(および他のいくつかの「変性意識状態」)では、実際に「交差」を見ることができる。交差が未完成で、まだ続いているからである。…変性意識状態では、体験は通常の完成されたパッケージではない。交差はまだ続いている。…催眠状態では、「手を挙げなさい」と言われると、片手を手首から先にしか動かさない。このような狭い解釈の仕方は、私たちが見たり聞いたりするときに、いくつかの通常の関連が入り込んでいない [*1] ことを示している。通常の物事が形成をまだ完成していないのである。深い弛緩や意識水準の低い状態では、出来事は未完成で、まだ形作られていない。(Gendlin, 1986, pp. 152-3; ジェンドリン, 1988, pp. 183-4)

「未完成」な出来事は、日常の体験やすでにフェルトセンスが形成されている体験とは異なりますが、「形成されるものは、ちょうど必要とするもの、生きられなかったり欠けていたりしたものだと私たちは理解することができる」(Gendlin, 1986, p.155; ジェンドリン, 1988, p. 187)とされ、その独自の意味が明示的に語られるようになりました。

上述した彼の著作の変遷を振り返ると、それぞれの著作で使用されている用語は、下記の表のように対応します。


*1) 上記の引用(Gendlin, 1986)にある「いくつかの通常の関連が入り込んでいない」とは、『体験過程と意味の創造』における7つの機能関係の中の「関連」という意味で使われていることは明らかでしょう。

一組のシンボルが理解できる関連の感情がなければ、シンボルはその特有の意味しか持たない。関連の感情があれば、シンボルはこの文脈で意図された意味を持つことができ、体験への参照の意図された豊かなを持つことができる。(Gendlin, 1962/1997, p. 131)


*2) 原語は “unfinished, finished, and more than finished” であり、『夢とフォーカシング』 (ジェンドリン, 1988) において「未完了・完了・完了以上」と訳されていました。しかし、「未完了・完了」は、『体験過程と心理療法』 (ジェンドリン, 1988) において“incomplete, complete” の訳語としてすでに採用され、普及しています。両者の指し示す範囲は異なるので、混同を避けるためにここでは “unfinished, finished” の方に「未完成・完成」の訳語を割り当てました。


参考文献

Gendlin, E. T. (1962/1997). Experiencing and the creation of meaning: a philosophical and psychological approach to the subjective (Paper ed.). Northwestern University Press.  ユージン・T・ジェンドリン; 筒井健雄 [訳] (1993). 体験過程と意味の創造 ぶっく東京.

Gendlin, E.T. (1964). A theory of personality change. In P. Worchel & D. Byrne (eds.), Personality change (pp. 100-48). New York: John Wiley & Sons. ユージン・T・ジェンドリン; 村瀬孝雄 [訳] (1966). 人格変化の一理論 セラピープロセスの小さな一歩:フォーカシングからの人間理解 (pp. 165-231) 牧書店. ユージン・T・ジェンドリン [著] ; 村瀬孝雄・池見陽 [訳] (1999). 人格変化の一理論 セラピープロセスの小さな一歩:フォーカシングからの人間理解 (pp. 165-231) 金剛出版.

Gendlin, E.T. (1986). Let your body interpret your dreams. Chiron. ユージン・T・ジェンドリン; 村山正治 [訳] (1988). 夢とフォーカシング:からだによる夢解釈 福村出版.

Gendlin, E.T. (2018). A process model. Northwestern University Press. ユージン・T・ジェンドリン; 村里忠之・末武康弘・得丸智子 [訳] (2023). プロセスモデル : 暗在性の哲学 みすず書房.

Gendlin, E.T., Grindler, D. & McGuire, M. (1984). Imagery, body, and space in focusing. In A.A. Sheikh (Ed.), Imagination and healing (pp. 259-86). Baywood.


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