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ある日の猿

朝、カニをいじめて遊んでいたら、村の方から、背に幟を掲げ鉢巻をして犬を連れた少年が歩いてくる。幟には何とも大層なことが書いてある。刀も差している。物騒だな。自信たっぷりな態度を見て、ちょっとからかってやろうと近づいた。
よう、兄ちゃんそんなナリをして何処へ行くんだい。すると犬が前に出て、この方は村人を苦しめている賊を退治しに行かれるのだという。君も手伝ってくれないか、見ると腕力がありそうだ。さっき柿を食べたばかりだけれど、うまそうな団子をくれるというのでついてゆくことにした。

そのあと雉が加わって、我々は舟に帆を張り海に出た。海は初めてだ。舵取りは慣れなかったが犬や雉には任せられない。少年は舳先に立って島を探していた。島は思ったよりすぐに見つかった。そりゃそうだ、頻繁に村を襲撃に来るのだ、遠いはずがない。
舟をつけると砦に向かった。門は堅く閉ざされていた。雉が飛んで中の様子を報告した。またしても、門の閂を開けられるのは俺しかいない。門を開け放つと残りの者が一気に入った。宴会をして寛いでいた賊たちは不意を突かれ、慌てるもの逃げるものなど、砦の中はたった四人の侵入者に混乱を極めた。我々は殺戮や破壊が目的ではなかったが、リーダーの少年の思い込みにも似た勢いに彼らはあっけなく降伏した。頭領に詰め寄り、襲撃をやめるように迫った。彼は泣いて謝り、掠奪品を差し出した。

村人は本当にこんなものを持っていたのかと思ったが、差し出されるままに反物や金銀珊瑚の山を舟に積み、陸では大八車に移し替え、夕方我々は村に戻ってきた。村人たちは喜び、少年を讃えた。チームは解散となり、褒美に好きなものを持って行けと言われたが、小判も真珠も要らなかった。猫や豚にだって似合わないんだ。そういえば今朝あの団子のあと何も食べていない。

婆さんが台所から何か持ってきて差し出した。それはいい香りのする桃だった。


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